今回は、新規サービスの戦略です。
✓ この記事でわかること
- 三越伊勢丹の買取サービス
- 後発でも勝算がある理由
- 差別化戦略をマーケティング視点で解説
この記事を読んでいただきたいと思うのは、戦略やビジネスモデル、マーケティングを考えるのが好きな方です。
三越伊勢丹の買取サービスをマーケティングの視点で掘り下げています。ぜひ最後まで読んでいただき、何か参考になればうれしいです。
三越伊勢丹の買取サービス
三越伊勢丹が不用品の買取サービスを始めます。
出典: 日経 2021.8.6
以下は日経新聞の記事からの引用です。
三越伊勢丹が今秋、不用品買い取りサービスを始める。新型コロナウイルス禍による生活様式の変化で消費者のサステナビリティー (持続可能性) への意識が急速に高まり、使わなくなったモノへの責任まで果たさなければ、顧客からの支持を得られないと考えた。
伊勢丹新宿店 (東京・新宿) に不用品の買い取りコーナーができる。服や宝石、絵画、楽器などが対象で、どこで購入したかは関係なく、顧客にはその場で現金で支払う。その上で三越伊勢丹が、特定の買い取りサービス会社に売却する。
値段がつかないものは引き取り、日本環境設計 (川崎市) にリサイクルしてもらう。高校に寄付し文化祭や授業で使用してもらったり、加工して売り場の装飾に使ったりもする予定だ。
マーケティングのフレームから解説
買取サービスは既に多くのプレイヤーがいます。2021年の秋に参入するのは、かなりの後発です。三越伊勢丹の買取サービスは成功するのでしょうか?
後発参入でも勝算があるのかを、以下のマーケティングの要素分解から掘り下げていきます。
✓ マーケティングのフレーム
- ターゲット顧客
- 顧客課題 & 奥にある気持ち
- 独自化と提供価値
ではこの3つに沿って、順番に見ていきましょう。
ターゲット顧客
日経の記事から読み取ると、買取サービスのターゲット顧客は百貨店によく来る来店者で、50代以上のシニア層がメインです。
所得水準が高く、買い取って欲しいものを多く持っている人です。
以下は同じ日経記事からの引用です。
2020年10月から日本橋三越本店でひそかに検証を重ねてきた。
(中略)
50 ~ 60代を中心に来店客数は半年で千人を超え、買い取り金額は計画を3割超えた。それだけ価値のあるモノがタンスに眠っているということだ。
(中略)
三越伊勢丹がとりわけ強みを生かせそうなのが、富裕層で買い物金額が多い 「外商顧客」 へのサービスだ。
外商は百貨店の売り場を通さず、直接顧客に販売する形態で、外商顧客に限り自宅へ出張をしている。利用者は70、80代を中心に100人以上。1人当たりの不用品の買い取り価格が百万円近くにのぼることも珍しくない。
ここまで見たターゲット顧客は、既存の買取やフリマアプリを使う層とは一線を画します。
顧客課題 & 奥にある気持ち
ターゲット顧客の特徴は持っているモノが多く高価です。
ここからは推測ですが、処分はしたいがゴミとしては捨てたくないと思っています。買取サービスは色々とあることは知っていますが、中古品業者としてよくわからない相手には売りたくないと感じています。フリマ型のネットサービスに出すことにも抵抗があります。
奥にある気持ちは、高値で買い取ってもらいお金を稼ぎたいというよりも、家の中を片付けたい、引き取ってほしいという思いです。ここには生前整理や終活としての意味合いがあります。家族に自分のモノを残したままにしておきたくない気持ちです。
以上から言えるのは、三越伊勢丹の買取サービスのターゲット顧客が求めているニーズや気持ちは、一般的な買取サービスや C to C のメルカリなどのサービスへユーザーが求めているそれとは異なります。
独自化と提供価値
三越伊勢丹が後発で買取サービスに参入するからには、既に実績がある既存の競合プレイヤーと違うことをやる必要があります。
1つは単純な買取価格での競争はしないことです。日経記事に書かれていたのは、ベテラン社員の丁寧な接客での差別化と独自化です。
三越伊勢丹での買取サービスは、その場で現金がもらえることにも特徴があります。事前の検証テストでは利用者の9割が、その後に日本橋三越本店で買い物をしたとのことです。来店から購買につなげられています。
このイメージは、メルカリで売ったお金を出金するのではなく、メルカリで別のものを買うというメルカリ経済圏でお金がぐるぐる回るように、同じことがリアルの世界で百貨店内で起こっています。
これは百貨店という小売ビジネスをやっているからで、また買取サービスのターゲット顧客が百貨店来店客にしているからこそ実現できることです。
ターゲット顧客への何よりの提供価値は、引き取ってもらうことへの安心感です。ここには三越伊勢丹というブランドへの信頼感からです。加えて、買い取ってもらった物の使い道が、寄付や加工して百貨店の売り場への展示に使うなどの透明性があることも信頼につながっています。
三越伊勢丹での買取サービスを使う人にとって、これまで捨てられず残っていたものは、それだけ思い出や愛着があるものです。
三越伊勢丹のアプローチは、モノを 「売りたい」 「稼ぎたい」 よりも 「捨てられない」 という不安に向き合い、処分の仕方を一緒に考えていくやり方です。処分はするものの大切な残してきたモノを引き取ってもらえ、片付けられたという満たされた気持ちになれます。ここに顧客にとっての価値があり、他の買取サービスからの独自化と勝算があります。
違う戦い方
買取サービスはすでに多くのプレイヤーが参入しています。
後発で入っていくためには、既存プレイヤーとは違う戦い方をする必要があります。つまり、独自のビジネスモデルをつくらなければなりません。
ここまでマーケティングの要素である 「ターゲット顧客」 「顧客課題 & 奥にある気持ち」 「独自化と提供価値」 と分解して見てきましたが、三越伊勢丹にしかできない価値提供にし、「高く売りたい」 というよりも 「片付けたい」 「引き取ってほしい」 というニーズや気持ちに寄り添い、価値として提供する仕組みにすれば、他の競合プレイヤーとは違う戦い方ができます。
まとめ
今回は、三越伊勢丹の買い取りサービスを取り上げました。
最後にまとめです。
三越伊勢丹の買取サービス
- 伊勢丹新宿店に不用品の買い取りコーナーができる (2021年秋)
- 服や宝石、絵画、楽器などが対象。どこで購入したかは関係なく、顧客にはその場で現金で支払う
- 三越伊勢丹が特定の買取サービス会社に売却。値段がつかないものは引き取りリサイクルへ。高校に寄付し文化祭や授業で使用してもらったり、加工して売り場の装飾に使う予定
ターゲット顧客
- 百貨店によく来る来店者で、50代以上のシニア層がメイン
- 買い物金額が多い外商顧客も狙っている
- 既存の買取サービスやフリマアプリを使う層とは一線を画す
顧客課題 & 奥にある気持ち
- 高値で買い取ってもらいお金を稼ぎたいというよりも、家の中を片付けたい、引き取ってほしいという思いがある
- 既存の買取やフリマアプリに出すことには抵抗感を持っている
- ターゲット顧客が求めているニーズや気持ちは、一般的な買取サービスや C to C のメルカリなどのサービスに求めているニーズとは異なる
独自化と提供価値
- 単純な買取価格での競争はしない。ベテラン社員の丁寧な接客で差別化をする
- 買い取りをしたその場で現金がもらえ、三越伊勢丹のお店でそのまま買いものができる
- 何よりも引き取ってもらうことへの安心感。大切な残してきたモノを引き取ってもらえ、片付けられたという満たされた気持ちになれる
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