今回は、ビジネスモデルです。
✓ この記事でわかること
- 衣装のレンタルサービス 「Lana (ラナ) 」
- SDGs なビジネスモデルをマーケティング視点で解説
- アパレルメーカーと Win-Win を実現する低価格 (競合より 80% オフ)
- プロの利用シーンに寄り添った店舗設計
- 従来のアパレルビジネスに一石を投じるビジネスモデル
この記事を読んでいただきたいと思うのは、仕事でビジネスモデルやマーケティングを考えたりつくる役割にある方です。他には、ビジネスモデルやマーケティングを知ったり考えるのが好きな方です。
衣服のレンタルサービスを取り上げ、SDGs にも配慮されたビジネスモデルをご紹介します。自社のビジネスやマーケティングのヒントになればと思います。
衣装のレンタルサービス 「Lana (ラナ) 」
今回取り上げたいのは、服のレンタルサービス Lana (ラナ) です。繊維専門商社の田村駒が事業運営をしていて、主にスタイリストやモデルの方向けの衣装のレンタルサービスです。
出典: WWD
そもそもマーケティングとは
ラナのビジネスモデルに入る前に、マーケティングについてです。
これは私の一言の定義で、マーケティングとは 「顧客から選ばれる理由をつくる活動全般」 です。ここで言う 「選ばれる」 とはお客さんに買ってもらえる、使ってもらえることです。
選ばれるのは他にはない自分たちの強みがあるからで、その強みがお客にとって価値があるからです。
ラナの 「選ばれる理由」
では衣装レンタルサービスのラナの 「選ばれる理由」 について掘り下げてみます。
ビジネスモデルの話にもつながっていきますが、ラナの強み (選ばれる理由) は次の2つです。
✓ ラナの選ばれる理由
- 競合よりも低価格
- 服やアクセサリーをじっくりと選べる店舗設備
では順番に見ていきましょう。
競合よりも低価格
以下はラナのことを取り上げた日経新聞の記事からの引用です。
繊維専門商社 「田村駒」 が3月に東京都渋谷区で開業した 「ラナ」 は、モデル向けの服のリース店舗だ。衣服や帽子、アクセサリーなどを国内ブランド中心にそろえる。
倉庫の保管料代わりにアパレルメーカーから無償で仕入れるなどの工夫でリース価格は競合の2割。需要が強いメンズ向けも力を入れる方針だ。
ラナの特徴は低価格にあります。競合と比べて2割で、なんと 80% も安い価格設定です。
CM や動画撮影などでの制作費が削られる状況では、衣装代を抑えられるのはスタイリストやモデルにとってはありがたいことです。低価格だけでも十分に 「他社にはない強み」 になっています。
しかしラナが人気なのは低価格だけではありません。
じっくりと選べる店舗設備
ラナの店舗内には、ハンガーフックがある半個室が5つ用意されています。
出典: Lana
出典: WWD
利用者はまわりを気にせずじっくりと選べるスペースがあるので、服とアクセサリーを組み合わせてみたり、服の写真を撮ったりもできます。利用者は 1 ~ 2 時間、スタイリストによっては 6 時間も滞在することもあるとのことです。
ラナの店舗は、スタイリストなどのプロが服を選ぶ時の利用シーンを考慮した店舗設計になっています。ここも他の衣装レンタルサービスにはないラナの強みです。
強みの実現理由
ここまではラナの 「選ばれる理由 (強み) 」 を見てきました。
さらに一歩踏み込んで掘り下げたいのは、ここまで見てきた強みは、なぜラナは実現できるかです。もし他社も同じようなことができるのであれば、持続的な強み (独自化) にはなりません。
では 「低価格」 と 「じっくり選べる店舗設備」 のそれぞれには、どんな実現理由があるのでしょうか?そして、そこには他社が簡単には真似できない要因はあるのでしょうか?
低価格の実現理由
低価格にするためには低コストの仕組みが必要です。
ラナが競合よりも 80% も安い価格設定ができるのは、アパレルメーカーから無償で衣服やアクセサリーを提供してもらっているからです。
以下は再び日経の記事からの引用です。
ラナでは約30社から服などを無償で借り受けていることから低価格を実現している。例えば、08sircus (ゼロハチサーカス) や F/CE. (エフシーイー) 、FACTOTUM (ファクトタム) といった服飾メーカーなどからは、メンズやレディース、帽子をそろえる。
こうしたメーカーの倉庫には眠っている服が少なくない。ラナはそこに目をつけ、メーカーにとっては保管代がかからない代わりに、無償で提供してもらうビジネスモデルをとった。メーカーがラナに提供する期間は半年から1年。詳細は各社で異なるが、ラナは借り手がつけばインセンティブを支払う。
アパレルメーカーにとっては売れ残ってしまった服は、在庫として持っておいても保管コストがかかってしまいます。保管コストがかかるくらいなら、無償でもいいので引き取って欲しいわけです。
ラナの着眼点が良いのは、メーカーにとって服が売れ残っている状況を自分たちの機会発見にできたことです。
これができるのはラナの事業会社である田村駒が繊維専門商社だからです。メーカーとの取引実績やネットワークを持っていてメーカーの課題感を理解しているからこそです。
ビジネスモデルの観点で見た時に、ラナのもう1つの特徴はアパレルメーカーとのレベニューシェアです。
ラナが無償で入手した衣服のレンタルが成立すれば、売上の一部をメーカーにインセンティブとして支払っています。メーカーにとっては保管コストを削減できるだけではなく、お金が入るメリットがあります。人気がありそうな衣服をラナに提供する動機が生まれるのです。
ラナのビジネスモデルはアパレルメーカーとの Win-Win ができています。
じっくり選べる店舗設備の実現理由
ラナの店舗内には、スタイリストが服やアクセサリーをじっくり選べるスペースが用意されています。これはつまり店舗面積がそれだけ大きく、その分だけ固定費がかかってしまうビジネスです。
一般的には固定費を低くするためには店舗は小さくしますが、ラナはそうはしていません。収益性を追い求めていないように見えます。
こうした割り切りができるのは、田村駒の本業が商社ビジネスだからです。ラナという衣装レンタル事業は、少なくとも今のところは収益の柱ではなくてもいいと捉えているからだと見ました。
競合よりも2割の低価格でレンタルをやっていることも含めて、大きくは儲けようとはしていません。商社ビジネスという本業があるから、じっくり選べる店舗設備を持てるのです。
SDGs なビジネスモデル
ラナの意味はスウェーデン語で 「レンタル (借りる) 」 です。
ラナは SDGs ができているビジネスです。従来のアパレルビジネスは、服の大量生産と大量廃棄が前提で、これではアパレル業界に持続的な将来性はありません。
ラナは、ここに一石を投じています。アパレルメーカーの倉庫に眠っている服やアクセサリーを無償で仕入れ、低価格のレンタルで再利用するビジネスモデルです。提供元のメーカー、レンタル利用者であるスタイリストやモデル、そして運営者のラナの全てで Win-Win が実現しています。
まとめ
今回は衣装レンタルサービスのラナを取り上げ、ビジネスモデルを掘り下げました。
最後にまとめです。
衣装のレンタルサービス 「ラナ」 の強み
- 競合よりも 80% 安い低価格での衣服やアクセサリーのレンタルサービス
- じっくりと選べるスペース。プロが服を選ぶ時の利用シーンが考慮されている店舗設計
低価格の実現理由
- アパレルメーカーから無償で衣服やアクセサリーを仕入れている
- メーカーにとっては保管コストがかかるくらいなら、無償でもいいので引き取って欲しい
- ラナは衣服のレンタルが成立すれば、売上の一部をメーカーにインセンティブとして支払っている (レベニューシェア)
SDGs なビジネスモデル
- 従来のアパレルビジネスは、服の大量生産と大量廃棄が前提で持続的な将来性はない
- ラナはアパレルメーカーの倉庫に眠っている衣服やアクセサリーを無償で仕入れ、低価格のレンタルで再利用する
- 提供元のアパレルメーカー、レンタル利用者、そして運営者のラナの全てで Win-Win が実現するビジネスモデル
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