出典: 日経クロストレンド
今回のテーマは、「新しいビジネスのつくり方」 です。
おもしろいと思った化粧品ブランドの立ち上げ事例をご紹介し、新規事業開発の成功例として学べることを掘り下げます。
✓ この記事でわかること
- 海苔メーカーが開発した化粧品ブランド
- 開発の背景 (新規事業の狙い)
- 「両利きの経営」 の成功例
- 新規事業を成功させる秘訣
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
海苔メーカーの化粧品ブランド
こちらの記事を読みました。
のりメーカーがなぜ化粧品? ニコニコのりが新ブランド立ち上げ|日経クロストレンド
化粧品ブランド 「EMILUS (エミラス) 」 (出典: 日経クロストレンド)
以下は記事のリード文です。
ニコニコのり (大阪市) が、初の化粧品ブランド 「EMILUS (エミラス) 」 を立ち上げた。
ブランドスローガンは 「日々の暮らしにほほえみをプラスするのりの新しい魅力と新しいカタチ」 。2021年に創業100周年を迎えた老舗ののり (海苔) 専業メーカーがなぜ今、食品とは全く異なる化粧品ブランドを立ち上げたのか。
海苔事業の横展開
海苔メーカーの 「ニコニコのり」 は、海苔の持つ機能や効能が世の中のニーズに応えることができると考え、エミラスを開発しました。
食用ののりの品種の1つであるスサビノリに含まれるポルフィランという成分は、保湿や皮膜形成促進などの効果が期待されており、その保水力はヒアルロン酸にも匹敵するという。
「新型コロナウイルス禍で『保湿』と『メークよれ改善』ニーズが高まっている。のりの持つ機能がこうしたニーズに応えることができると考え、開発した」 (ニコニコのり大阪支店営業三課の豊平愛実氏)
事業課題の解決
開発の背景には、ニコニコのりの 「海苔事業の課題」 にも関係していました。
20 ~ 30代の女性にアプローチをしたいという狙いです。
化粧品の開発に乗り出した理由としてはもう一つ、「事業課題の解決」 がある。
同社では20 ~ 30代女性の食品としてののり離れを危惧しており、「化粧品であれば、のりを食べない若い女性にものりの魅力を発信できる。ターゲットにアプローチするにあたり、新しい形で届けたいと考えた」 (白羽社長)
業界課題の解決
さらにもう1つ、大きな課題も開発の背景にありました。海苔業界が全体で解決しなければいけない問題です。
実はニコニコのりが新規事業に挑戦する背景には、深刻化するのりの不漁 (ふりょう) と、大量に廃棄される製品化できない規格外ののりを活用するというのり業界全体の課題がある。
ニコニコのりの白羽清正代表取締役社長は、22年8月1日に開催した 「2022年秋季新製品発表および化粧品ブランド発表会」 冒頭で、「2006年度には95億枚以上だった生産枚数が、この4年ほどは65億枚を切るようになっている」 と厳しい現状を訴えた。
(中略)
同社が化粧品開発に着手したのは、のり専業メーカーとしてこの状況を座視せず、製品化できないのりの有効活用を考えたためだ。つまり 「社会課題の解決」 が化粧品ブランド発足の出発点ということになる。
学べること
では、今回の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
海苔メーカーの 「ニコニコのり」 が新しく化粧品ブランドを立ち上げたという話は、既存事業 (海苔) とは違う新規事業 (化粧品) に参入するということです。既存の海苔事業は引き続き注力しつつ、新規事業もやっていくという両立を目指します。
この事例は、「両利きの経営」 を実現している成功例と見ることができます。
両利きの経営とは
両利きの経営は、経営学のイノベーション理論の1つです。
以下のような 「深化」 と 「探索」 の両方をやっていき、あたかも右手と左手の両方の手をうまく使うように経営をするアプローチです。
✓ 両利きの経営
- 深化: 既存事業の強化。すでにやっていることの改善を重ねる
- 探索: 新規事業の開発。領域を広げるために新しく取り組む活動
一般的には、深化 (既存の強化) と探索 (新規の開発) では前者の深化に偏りがちになります。今までやってきたことの延長なので続けやすいからです。一方、新しい取り組みである探索は、うまくいくかわからず成果が出にくいので、後回しになりがちです。
しかし、企業は深化だけでは生き残っていけません。外部環境の変化に適応し変わっていくためには、深化だけではなく探索が大事なのです。
両利きの経営は、深化と探索のどちらか一方だけでなく、あえて二兎を追う経営です。
ニコニコのりの化粧品 「エミラス」 の開発に当てはめると、本業の海苔事業は主力として深化させつつ、探索として新しい領域である化粧品市場に挑戦しています。
新規事業を成功させる秘訣
両利きの経営を成功させるポイントは、結論から言うと次の5つです。
✓ 両利きの経営を成功させるポイント
- 深化と探索に明確な目的と戦略がある
- 経営層からの特に探索事業 (新規) への理解と支援
- 探索には既存事業の資産を活かす
- 深化と探索は距離を置き、無用な対立を避ける (例: 評価指標を分ける, 物理的に勤務地やオフィスを離す)
- 共通のアイデンティティを持たせる (ビジョンや価値基準などの企業文化)
「両利きの経営」 の実践例
先ほど引用した記事で書かれていたことは、5つ全てではないものの、エミラスは両利きの経営を成功させるポイントに当てはまっています。
1つ目の 「深化と探索に明確な目的と戦略がある」 は、単なる思いつきで化粧品事業を立ち上げたわけではなく、社内の課題のみならず海苔の業界全体への危機感をなんとかしたいという想いも入っています。
2つ目は 「経営層の新規事業への積極的な関与」 でしたが、化粧品ブランド発表会で社長が登壇していることからも、全社で化粧品のエミラスに力を入れていることがうかがえます。
3つ目である 「探索には既存事業の資産を活かす」 は、まさにそうで、海苔事業で培った技術や知見を化粧品開発に活かしています。
そして、最後の5つ目の 「共通のアイデンティティを持たせる」 です。エミラスのロゴがそれを象徴しています。
ロゴには、ほほえみを表現した温かみのあるオレンジと海をイメージしたブルーグリーンの2色を使用しています。食品と化粧品の2面性も表現しているとのことで、エミラスには共通のアイデンティティを持たせているのです。
出典: わつなぎ
以上のように、海苔メーカーが開発した化粧品エミラスには、既存事業と新規事業の両立をする 「両利きの経営」 をどうやって体現していくかへの学びがあります。
まとめ
今回は海苔メーカーが開発した化粧品ブランドの事例から、学べることを見てきました。
最後にまとめです。
✓ 両利きの経営
- 深化 (既存の強化) と探索 (新規の開発) の両方をやっていく。経営学のイノベーション理論の1つ
- 成功させる秘訣
- ① 深化と探索への明確な目的と戦略
- ② 経営層の新規事業への積極的な支援
- ③ 新規事業に既存事業の資産を活かす
- ④ 距離を置き無用な対立を避ける (例: 評価指標を分ける, 物理的に勤務地やオフィスを離す)
- ⑤ 共通のアイデンティティ (ビジョンや価値基準などの企業文化)
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