出典: 日経クロストレンド
今回のテーマは 「データ活用」 と 「消費者理解」 です。
おもしろいと思った化粧品ブランドの開発を取り上げ、商品開発やマーケティングに学べることを掘り下げていきます。
✓ この記事でわかること
- マツキヨココカラの PB 化粧品ブランド 「レシピオ」
- 顧客データと消費者インタビューからの商品開発
- データの限界 [学び 1]
- 消費者の建前と本音 [学び 2]
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
PB 化粧品ブランド 「レシピオ」
こちらの記事を読みました。
マツキヨココカラ PB 化粧品 5カ月で30万個、顧客の9割新規|日経クロストレンド
出典: 日経クロストレンド
以下は記事のリード文です。
マツキヨココカラ&カンパニーのプライベートブランド (PB) 統合記念第1号となるスキンケア商品 「レシピオ (RECiPEO) 」 シリーズが、発売から約5カ月で累計販売数30万個を突破。
その3カ月後には年間販売目標の 80% を達成し、なおかつ9割以上が新規顧客だったという。小売業である同社は、どのように敏感肌カテゴリーのスキンケア製品を開拓し、顧客獲得にいたったのか。
顧客データを活用
自社が持っている顧客データを有効活用したという話が興味深かったです。
マツキヨココカラ & カンパニーのマーチャンダイジング戦略を担うグループ会社、MCC マネジメント (東京・千代田) の商品統括本部 商品開発部 商品開発課の櫻井壱典次長は、「今回の商品開発の成否を分けたのは、膨大な顧客データを保有している小売業だからできたターゲティング」 だと言う。
「メーカーは自社商品を購入している顧客のデータは得ることができるが、その顧客がほかにどんな商品を一緒に購入しているかは、知ることができない。だがマツキヨココカラ & カンパニーには、カード会員の購入歴などの膨大な顧客データがあり、それを当社独自の切り口で分析することにより、新しい領域のターゲティングができた」
データからの顧客セグメンテーション
では、具体的にどのように顧客データを使って開発をしたかを記事から続けて見ていきましょう。
「年代別や性別ではなく、お客様の買い物の価値観からグルーピングされた顧客クラスターを見ることによって、現在、自社で敏感肌化粧品を買っていない層を狙ったというのが今回の商品開発の大きなポイント」 と櫻井氏は語る。
(中略)
「商品 DNA」 (引用者注: その商品が持っている食意識、健康意識、美意識などをスコア化したもの) と 「顧客の買い物価値観」 からセグメンテーションした顧客クラスター (集団) で解析すると、顧客の属性の違いが鮮明に浮かび上がるという。
顧客の買い物価値観によって、A から E までセグメンテーションした場合、A と B のグループは現在売れている敏感肌用ブランドの化粧品をよく購入しているが、C と D のグループはあまり購入していないことが分かる。
であれば、この C と D のグループの顧客をターゲットにした敏感肌化粧品を開発すれば、新たな顧客を開拓できて、しかも既存商品とのカニバリズム (共食い, カニバリ) も起こりにくいと考えた。
つくった顧客グループの C と D に対してどのように捉えたかと言うと、
顧客グループ C と D の共通点は、「流行感度が高い」 こと。そして違いは 「美容感度」 の高さ。
レシピオの商品に当てはめれば、C は流行感度が高いが美容感度はさほどでもない 「敏感肌ビギナー」 。一方、D は流行感度が高い上に、美容感度も高い 「敏感肌マイスター」 ともいえるグループで、美容に関する商品知識が深く、よく研究している。
両者の嗜好は全く違うので、単純に考えればどちらも満足させるのは難しい。しかし、マツキヨココカラ & カンパニーはあえて、両者を狙う選択をした。櫻井氏は 「どちらかに絞れば商品開発も簡単だが、両者ともしっかり捉えられるような商品を目指し、コーセーの担当者と一緒に悩みながらレシピを作った」 と話す。
消費者の商品への好みや価値観をデータから見出し、似た特徴ごとに顧客グループをつくりました。
本音の発掘
注目したいのは、PB 化粧品の 「レシピオ」 の開発では顧客データという定量データの活用だけではなかったことです。さらに定性データを組み合わせ、消費者理解を深めました。
顧客データを細かく分析するだけではなく、実際にグループ C の敏感肌ビギナーと D の敏感肌マイスターに属する顧客を集めてグループインタビューを重ね、両グループに共通する潜在ニーズを探った。
その結果分かったのは、どちらも 「敏感肌なので、化粧品選びで失敗したくない」 「だから化粧品は、刺激の少ないことを重視して選んでいる」 ものの、本当は 「 (刺激の有無よりも) 自分の肌がより美しく輝けるような化粧品を選びたい」 と考えているということだった。
「『マイナスがゼロになればいい』という選び方をしているが、本当は『ゼロに戻すだけではなく、できればプラスにしたい』と願っている。そこでコーセーと話し合いを重ね、『透明感ケアアミノ酸』という、同社と味の素が共同研究している成分を配合。透明感を1つの切り口として打ち出すことにした」 (櫻井氏)
学べること
では PB 化粧品の 「レシピオ」 から学べることを掘り下げていきましょう。
今回の事例から学べるのは次の2つです。
✓ レシピオから学び
- データの限界
- 消費者心理の建前と本音
では順番に見ていきましょう。
データの限界
前提として持っておきたいのは 「データではわからないことがあり、データは決して万能ではない」 という認識です。
✓ データの限界
- 自社データでは、顧客が他に何を買っているかわからない
- 定量データだけでは奥にある本音 (本人も普段は気づいていない望みや不満) まではわからない
一般的にメーカーやサービス事業者の自社保有データでは、競合商品の購入実態や参入カテゴリー以外の買いまわりは捉えられません。「お客さんが自社商品の他に何を買っているか」 がわからないのです。
また、定量データだけでは奥にある顧客心理、例えばなぜその商品を手に取り、その時にどのくらい迷ったか、迷ったのはなぜかなどの気持ちまでは出てきません。
こうしたデータの限界を知っておくことが重要で、その上でどう乗り越えるかが商品開発担当者やマーケターには問われます。
これが学びの1つ目です。
消費者心理の建前と本音
レシピオの開発でインタビュー調査からわかったことは、次のような消費者の気持ちでした。
- 自分は敏感肌なので、化粧品選びで失敗したくない
- だから化粧品は刺激の少なさを重視して選んでいる
これはいわば 「建前的な選ぶ理由」 です。
というのは、本当は 「 (刺激の有無よりも) 自分の肌がより美しく輝けるような化粧品を選びたい」 という本音があるからです。自己実現にもつながる人の根源的な欲求が見て取れます。
お客さんが商品やサービスを買う時には、
- 衣装を着ているようなきれいなニーズ
- 部屋着や裸の気持ち (望みや不満)
の両方が入り混じっています。建前と本音は時には矛盾していることもあるでしょう。しかし、どちらもお客さんの本当の心理なのです。
どちらの気持ちも汲み取り、その上でお客さんへの商品開発やマーケティングをやっていくことが大事です。
まとめ
今回はマツキヨココカラの PB 化粧品 「レシピオ」 を取り上げ、商品開発やマーケティングに学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
データの限界
- 自社データでは、顧客が他に何を買っているかは捉えられない
- 定量データだけでは奥にある本音 (顧客インサイト) までわからない
- こうしたデータの限界を知った上でどう乗り越えるかが大事
消費者心理の理解
- 商品やサービスを買う時にはお客さんの中には 「建前のニーズ」 と 「本音の望み」 の両方が入り混じっている
- 時には建前と本音は矛盾するが、どちらもお客さんの本当の心理
- どちらの気持ちも汲み取り、お客さんへの商品開発やマーケティングをやっていこう
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