投稿日 2023/11/29

花王の新商品開発の組織。"組織は戦略に従う" を体現する、実行への仕組みづくり

#マーケティング #組織 #戦略

 「新商品の開発に取り組んでいるけれど、思うような成果が出ない…」 。

このような状況に頭を抱えることはないでしょうか?

解決の糸口は、組織体制や戦略といったところに潜んでいるかもしれません。今回は花王の興味深い事例をもとに、戦略と組織、そしてその実行について掘り下げます。

花王 「SPOT JELLY へそごまパック」 


出典: 花王

花王が、へそのゴマを取り除ける新商品 「SPOT JELLY (スポッ!とジェリー) へそごまパック 」 を発売しました。

商品の特徴


使い方は、ノズルを通じてヘソにゼリーを注入し、15分ほどたったらシールごとパックをはがすと、固まったゼリーにゴマがくっついて取れます。

名前の SPOT JELLY を 「スポッ!とジェリー」 と読み、商品の特徴をうまく表現しているセンスはさすがです。


開発の裏側


注目したいのは、「SPOT JELLY へそごまパック」 が開発された背景と経緯です。花王は新商品開発の組織体制において、新しい試みに挑戦しています。

この商品は部署横断型で企画・開発を手掛ける組織 「ファンテック ラボ & ビズ」 が開発した。

花王では通常、個別のブランドごとに専門の開発担当者が新商品を企画する。他ブランドに関するアイデアを思いついても具体化することができないという課題もあり2018年に発足した。花王がメーンで開発しているような広く需要が見込める商品ではなく、個人の悩みに寄り添った商品の開発を目的に掲げている。

これまでに洗い流せる毛髪着色料を発売している。ただ、様々な商品開発手法を検討する中で、自社内に日の目を見ずに埋もれている多くの技術がある点に着目。そういった技術に光を当ててヒット商品を生み出すべく、公募型でアイデアを募ることにした。そんな過程で生まれた初の商品が、今回の 「へそごまパック 」 だ。

学べること


では、花王の 「SPOT JELLY へそごまパック」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

花王の商品開発体制


花王での従来の商品開発は、各ブランドごとに専門の開発担当者がいて、その範囲内で新製品を開発する体制でした。このアプローチは、既存のブランドでの製品を効率よくつくるには有効です。

その一方で、他のブランドとのシナジーを生む機会が限られ、他ブランドに関するアイデアがあっても具体化できないという課題も存在します。

こうした課題に対応するため、花王は2018年に 「ファンテック ラボ & ビズ 」 という部署を横断する新しい組織を設立しました。

特定のブランドや既存のビジネスに縛られることなく、従来の体制ではカバーしきれなかったお客さんの個々の悩みやニーズに対する製品開発が可能となりました。

戦略から実行への仕組み化


花王からの今回の事例からの学びを一般化すると、戦略から実行へは仕組みにまで反映することの重要性です。

花王では 「ファンテック ラボ & ビズ 」 という組織によって、部署横断で企画開発する組織体制で、見過ごされがちだった生活者の悩みに寄り添う商品を開発しました。

組織全体として新しい方向性に集中し、従来よりも多角的なアプローチをとることで、市場に対応できるようになります。短期的な成果だけでなく、長期的な戦略も確実に進められるでしょう。

戦略というのは、つくっただけではまだ価値を生み出せていません。戦略は実行されてこそはじめて意味があります。

戦略から実行に至るプロセスにおいて、組織的な仕組みに反映されるべきです。戦略をつくり方向性を明確にし、実現するための組織体制や実行プロセスを整え、組織全体でその方向に向かうことが重要なのです。

 「組織は戦略に従う」 


新しい製品を開発することには、成功までに時間がかかることが多く、しかもその成功率は必ずしも高くありません。もし、新商品や新規事業の開発を既存の業務と並行して行うと、中途半端な結果しか出せない可能性が高いでしょう。

よって、新しい組織が専門的に注力できる体制が重要になってきます。

組織と戦略の関係は、基本的には 「組織は戦略に従う」 です。戦略が先にあり、その戦略に合わせて最適な組織を形成するわけです。

両利きの経営


今回の花王の事例は、「両利きの経営」 を実現している成功例と見ることができます。

両利きの経営は、経営学のイノベーション理論の1つです。

次のような 「深化 (深める) 」 と 「探索 (模索する) 」 という両方をやり、あたかも右手と左手の両方の手をうまく使うような経営をするアプローチです。

✓ 両利きの経営
  • 深化: 既存事業の強化。これまでやってきたことの改善を重ねる
  • 探索: 新規事業の開発。領域を広げるために新しく模索する

一般的には、深化 (既存の強化) と探索 (新規の開発) では前者の深化に偏りがちになります。今までやってきたことの延長なので続けやすいからです。

一方、新しい取り組みである探索は、うまくいくかわからず成果がなかなか出にくいので、後回しになりがちです。

しかし、企業は深化だけでは生き残っていけません。外部環境の変化に適応し変わっていくためには、深化だけではなく探索が大事なのです。

両利きの経営は、深化と探索のどちらか一方だけでなく、あえて二兎を追う経営です。

花王の 「ファンテック ラボ & ビズ」 での開発に当てはめると、既存ブランド事業は事業部が主力として深化させつつ、探索として新商品の開発を部署横断の組織をつくって挑戦しています。

新規事業を成功させる秘訣


では最後に、両利きの経営を成功させるポイントを考えてみましょう。

結論から言うと次の5つです。

✓ 両利きの経営を成功させるポイント
  • 深化と探索に明確な目的と戦略がある
  • 経営層からの特に探索事業 (新規) への理解と支援
  • 探索には既存事業の資産を活かす
  • 深化と探索は距離を置き、無用な対立を避ける (例: 物理的に勤務地やオフィスを離す, 評価指標を分ける) 
  • 共通のアイデンティティを持たせる (ビジョンや価値基準などの企業文化) 

花王の組織体制は、これらのポイントが実現されているはずです。


まとめ


今回は花王の新商品 「SPOT JELLY へそごまパック」 と、開発を担った組織である 「ファンテック ラボ & ビズ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 戦略と組織の関係は 「組織は戦略に従う」 のが基本。目的があり、目的を達成する戦略が先にあって、実現するための組織がつくられるという順番

  • 新商品開発は片手間で取り組むのではなく、組織として注力できる環境をつくる。戦略から落とし込まれた実行をやり抜くための組織的な仕組みが大事

  • 両利きの経営は 「深化 (既存の強化) 」 と 「探索 (新規の開発) 」 の両方をやっていく。外部環境の変化に適応し生き残るためには、深化だけでは十分ではなく探索が重要


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。