短期的な成果に追われすぎて、長期のビジョンを見失っていないでしょうか?
ビジネスでは、すぐに結果が出る戦略ばかりを追求してしまうと、長期的な競争力を失います。
今回は、ロート製薬の組織体制にフォーカスします。短期的な非効率や非合理性が実は長期的な成功につながるという、思わず 「なるほど」 となる話をお届けできればと思います。
ロート製薬の組織体制
ロート製薬の化粧品が好調です。
ドラッグストアなどでのスキンケア商品の売上個数は、資生堂やコーセー、花王など大手化粧品メーカーを抜いて首位に立ちました。安価な 「プチプラ」 商品が主力ながら、売上金額も2位につけています (参考記事) 。
ロート製薬のヒット商品がはどのように生まれ、発売に至ったのでしょうか?
その秘密は組織体制にありました。
余白を持つ R&D 体制
1つ目のロート製薬の組織の特徴は、研究開発 (R&D) です。
酵素洗顔は R&D 部門の社員が、現在の商品 (引用者注: クリーム状でチューブタイプの 「ディープクリア酵素洗顔」 ) の基礎となる技術、粉でなくチューブ状でも酵素を失活させない方法を開発したことが始まりだった。
会社の経営計画にのっていないものでも個人が自由に研究・開発する 「オープンラボ」 でのことだ。
オープンラボは R&D 部門の社員が開発中の製剤などを他部門のメンバーに見てもらう試みで、R&D の技術にさまざまな部署の意見を取り入れて商品を作り上げる、オープンイノベーションの場だ。
「R&D はロートの競争力の源泉です。そこでオープンラボのような『余白』をすごく大切にしているのが、我々の面白さであり強さだと思います。ヒット商品は中期計画に沿って生まれるものではないですから。
『こんな面白いものできたけど、どう?』という研究員個人の提案がオープンラボにはたくさん集まっていて、営業やマーケティングなどさまざまな部署が足を運び、商品展開の可能性を探るんです。
この技術を聞いたとき、これはすごいぞと思いました。そこからはスピード勝負。兆しを感じたらすぐに市場に出していくことをかなり意識しています」 (ロート製薬で商品企画やマーケティングの責任者を務める塚田歩さん (プロダクト & ブランドマーケティング部部長) )
(中略)
「その後、社内で徹底的に議論しました。不安の声も多かったですが、これだけ R&D がいいものを作ってくれて、しかもそれは今の世の中にないもので。かなり思い切った挑戦でしたが、絶対にやってみるべきだろうと」 (塚田さん)
脱ブランド担当
もう1つロート製薬の組織体制で興味深いのは、ブランド事業制をとっていないことです。
脱ブランド担当という仕組みです。
余白ある R&D に加え、化粧品会社に多い 「ブランドごとに部署を分ける」 組織体制に 「なっていなかった」 からこそ、商品化できた部分も大きいという。
ブランド事業部制、ブランドマネージャー制は社員間のライバル意識や競争を煽る意味でも効果的だ。一方でロート製薬は商品ごとのプロジェクトベースで動いている。
「1つのブランドの売り上げを最大化することを考えると、ブランドごとに事業部を分けたほうが合理的です。
ただ自分が担当するブランドのことだけを考える、蛸壺化してしまうこともあるかなと。ブランドにとってもそうですし、働く人間のことを考えても、1つのブランドに担当が張り付いて何年もやるとどうしても成長が止まってしまいます。
メラノ CC もブランド担当がブランドマネージャー制でやっていたら、たぶん美容液や化粧水くらいからラインナップが広がらなかったと思うんです。酵素洗顔?とんでもない、と。
社内では『脱担当』と言っているのですが、あえて色々な視点を取り入れることで、ブランドの可能性を広げるメリットがあります」 (塚田さん)
たとえば塚田さんが所属するプロダクト & ブランドマーケティング部は、ロート製薬の800以上にのぼる商品企画のほぼ全てを担うが (一部食品・医療専売品以外) 、人数は20名強。当然1人が複数ブランドを担当し、あえて1人が1ブランドに偏らないよう気をつけてもいる。
酵素洗顔はメラノ CC の高級ラインとも言える 「オバジ」 にあった小包装の洗顔パウダーの、日焼け止め (UV 乳液) は 「スキンアクア」 のトーンアップシリーズの技術や知見が活かされており、ブランドにこだわらない、組織を横断する柔軟な商品開発がヒットにつながっている。
学べること
ではロート製薬の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
視野を広げ視点を増やすことで、ものの見方の 「解像度」 が高まります。
学びを一般化すると、短期的には非効率や合理的でないことでも、長い時間軸で見ることで視野を広げると合理的になるということです。
この観点で、ロート製薬の事例を詳しく見ていきましょう。
短期的な非効率さ
ロート製薬の組織体制には2つの特徴がありました。
- R&D 部門の 「余白」 。会社の経営計画に入っていないことでも個人が自由に研究・開発ができるオープンラボを設けている
- ブランド事業部性ではなく、商品のプロジェクトごとにチームを編成するプロジェクト制を採用している
2つに共通するのは、いずれも短期的には非効率になることです。
1つ目の 「余白」 は、R&D 組織が好き勝手な方向に分散してしまう恐れがあります。2つ目の脱ブランド担当は、ブランド単位で業務を進めた方がいつも同じメンバーなので効率が良いですが、毎回イチからチームを組むと短期的には非効率です。
しかし、長い目で見るとロート製薬のアプローチには合理性があります。
長期では合理的
研究開発に余白があることで、時として予期せぬ新しいアイデアや技術が生まれます。時間がかかっても商品開発に活かせられれば、長期的には競争力の向上や事業への収益をもたらすでしょう。
新たな技術や商品アイデアへの探求は、忙しく余裕のない状況では優先度が下がりがちですが、余白があることで腰を据えて取り組めます。
商品ごとのプロジェクトベースとなる制度では、常に新しいメンバーで構成され立場の異なる人同士で多角的な視点で見ることができ、お客さんに提供する価値も多様化するでしょう。担当する商品に対して、これまでの色々な商品での経験や知識が活かされます。
他者から真似されにくい戦略
短期的にはリソースが分散して非効率だとしても、長期的には新しい価値を生み、結果的には合理的な選択になるでしょう。
一見すると非合理的に見えても、長期的には合理的な戦略であれば他社から簡単には真似されません。これがロート製薬が他の多くの企業と一線を画す独自の競争力となり、化粧品の好調な売上への源泉になっているのです。
まとめ
今回はロート製薬の組織体制に注目し、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- ロート製薬では R&D 部門で個人が自由に研究開発ができる 「余白」 や、商品ごとに新たにプロジェクトチームを組むやり方をとる。短期的には効率的ではないが、長期的には新しい価値を生む源泉になっている
- 短期的には非効率で非合理でも長期の視点で合理的な戦略は、他社から簡単には真似されず独自の競争力を築ける
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