日常の中で数多くの広告を目にしますが、本当に心に残る広告はほんの一握りです。では、何がその違いを生むのでしょうか?
今回は、JR 東海の名作とも言える広告キャンペーン 「そうだ 京都、行こう。」 の裏にある、成功する広告の戦略やマーケティングの秘訣に迫ります。
「そうだ 京都、行こう。」 キャンペーン
JR 東海のキャンペーン 「そうだ 京都、行こう。」 が、今年2023年で30周年を迎えました。
9月30日から新しいテレビ CM の 「南禅寺」 篇が公開されています。
南禅寺は京都市の東側の左京区にあるお寺です。CM の映像では南禅寺の紅葉を見事にとらえ、秋の色に変わっていく京都の良さを伝えています。見るだけで京都に行きたくなります。
JR 東海による観光キャンペーン 「そうだ 京都、行こう。」 は、1993年の秋から始まりました。翌年の1994年が平安遷都1200年にあたり、歴史的な節目に先駆けてつくられました。ちなみに CM は今年の南禅寺で106作目となります。
1993年の当時のテレビ CM は今見ても色褪せず、京都の魅力が伝わってきます。
1993年 盛秋 「清水寺」 篇
1993年 盛秋 「三千院」 篇
戦略とマーケティング
では 「そうだ 京都、行こう。」 のキャンペーンについて、戦略やマーケティングを見ていきましょう。
JR 東海の広告キャンペーンの目的
JR 東海の広告キャンペーン 「そうだ 京都、行こう。」 の目的はシンプルで、新幹線に乗ってもらうことにあります。
ターゲットとしているお客さんは名古屋より東の東日本、または大阪より西に住んでいる人々でしょう。遠方の地域から京都に旅行するために、早く快適な移動手段として新幹線に乗ってもらいたいわけです。
「自社商品の手段化」
この広告キャンペーンで特に注目すべきは、CM の中で新幹線に乗るよう直接的に訴求していない点です。むしろ、京都の文化、歴史、自然の美しさを高いクオリティで伝えています。
そして CM の最後に新幹線の映像とともに 「JR 東海」 という一言のナレーションが入ったり、JR 東海のロゴを表示しています。京都という CM で見た場所、つまり CM で訴求された中身への欲求が高まった結果として、新幹線に乗ってもらう流れをつくり出しているわけです。
このようなアプローチを一言で表現すれば、「自社商品の手段化」 です。
JR 東海は、京都の文化的・歴史的な資産を最大限に活用して、自社商品である新幹線を京都に行くための手段として位置づけているのです。
京都という戦略的なマーケティング
ではあらためて、マーケティングの本質に立ち返って 「そうだ 京都、行こう。」 を紐解いてみましょう。
マーケティングの本質は 「お客さんからの選ばれる理由をつくること」 です。
JR 東海が 「そうだ 京都、行こう。」 でやったことはまさにマーケティングです。京都という場所が採用されていることには、戦略的な意味があります。
これがもし目的地が大阪であれば、関西空港や伊丹空港などを使った飛行機でも行けるので、新幹線ではない他のアクセス手段も選択肢になりえます。しかし、遠方から京都へ行くには基本的には新幹線を使います。つまり、京都に行こうとなった時点で自ずと新幹線が選ばれるという状態をつくっているわけです。これができるのは、JR 東海が遠方からの京都へのアクセス手段を独占しているからです。
JR 東海の 「そうだ 京都、行こう。」 という広告キャンペーンは、表面的には京都の美しさや魅力を伝えているように見えます。しかしその背後には、人々に新幹線に乗ってもらうための秀逸な戦略とマーケティングがあります。
ここには単なる 「行き先」 を提案する以上の意味合いが含まれ、新幹線という商品自体の価値を高めています。実際、このキャンペーンは30年にわたって続いており、その効果は計り知れないものがあるでしょう。
まとめ
今回は JR 東海のキャンペーン 「そうだ 京都、行こう。」 が30周年を迎えたこともあり、マーケティングや戦略に学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- JR 東海の 「そうだ 京都、行こう。」 キャンペーンでは、"自社商品の手段化" をとっています。新幹線に乗ってくださいと新幹線を直接は推さず、京都の魅力を伝え、京都へ行くための手段として新幹線を位置づけている
- 広告キャンペーンで京都が採用されているのには、戦略的な狙いがある。もし大阪なら遠方からは飛行機などの他の交通手段もあるが、京都に行くには新幹線しかない。JR 東海は京都へのアクセス方法を独占的に持っており、京都に行こうと決まった時点で新幹線が選ばれるという設計
- マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくること」 。他社のものではなく、自社商品が選ばれる状況を意図的につくり続けていくのがマーケティングの役割
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