ホラーとプリクラ、一見関連しないこの2つが一緒になると何が生まれるのでしょうか?
今回は、若者がホラープリクラに集まる心理 (顧客インサイト) を掘り下げ、人気の理由をマーケティングの視点で紐解きます。
ホラープリクラ
夏季限定で展開されていたホラープリクラ 「ゆめちゃんといっしょ」 (出典: 日経クロストレンド)
ホラー要素を取り入れた、一風変わったプリントシール機 (プリクラ機) 。名前は 「ゆめちゃんといっしょ」 です。2023年6月1日から8月31日まで、夏季限定で展開されていました。
撮影前に始まる怪談 (出典: 日経クロストレンド)
このホラープリクラでは、プリクラを撮る前に突然画面に怪談が流れ、照明が点滅します。さらにはプリクラ撮影時の音声案内の中に説明ガイドとは関係ない少女の声が聞こえてきたりと、遊園地のお化け屋敷のような仕掛けが搭載されているプリクラ機でした。
ホラーはここ最近、10代の若者を中心にホラーコンテンツへの興味関心が高まってきている印象があります。
10年弱の間、ホラービジネスに携わってきた闇プロデューサーの岸本文弥さんは、次のように言っています。
現在は、2000年前後に比べると、ホラーコンテンツでもライトでハードルが低いものが増えた。2000年前後というと、『J ホラー』と呼ばれる映画『呪怨』や『リング』などが公開され、テレビでもガチな心霊スポットや心霊写真が取り上げられていた時期。当時は、恐怖感を追求していたシリアスなコンテンツが多く、ホラーは狭義のジャンルとして捉えられていた。
それが2010年代に突入して YouTube やスマホが浸透すると、ホラーゲームの実況中継や、数多くの配信者が心霊スポットに突撃するなど、気軽に見れるホラーコンテンツが増えてきた。すると、これまでホラーに触れてこなかった人でも、YouTuber などを経由してアクセスするようになり、身近な娯楽の1つとして受け入れられるようになった
ホラープリクラを撮りたくなる心理とは
では、人がホラープリクラを撮りたくなる深層心理 (顧客インサイト) を考えてみましょう。
結論から言うと、一言で表現するなら 「赤信号、みんなで渡れば怖くない (むしろ楽しい体験になる) 」 です。
プリクラには、1人ではなく複数人でみんなで一緒に集まります。ゲームセンターなどで非日常的な写真撮影をプチお祭り的にできます。
ノリのいいテンションが上がっている状態なので、たとえ怖いホラーでもやってみるハードルを下げます。怖いもの見たさでホラーが好きな人だけではなく、怪談などの怖い話が苦手な人もプリクラをみんなで渡れば怖くないはずです。
撮影時だけではなく、SNS などで画像や体験動画をシェアして、ネタとしての盛り上がりは続きます。
ただ怖いだけではなく、形や思い出としてトータルでは楽しいものに残ることが、ホラープリクラに人が集まる要因でしょう。プリクラとホラーを組み合わせることで、ホラーをエンタメとして捉えて楽しんでいるわけです。
いわば 「コワ楽しい」 や 「コワカワイイ」 という、絶妙な塩梅 (あんばい) があるんですよね。
プリクラで写真撮影の楽しさとホラーの怖さの両方ができるところに、ホラープリクラの体験価値があるのです。
顧客インサイトから価値提案へ
ここまで見てきたホラープリクラの事例は、マーケティングへの学びとして汎用化できます。
次の流れでマーケティングを進めるというプロセスに示唆があります。
✓ マーケティングのプロセス
- 世の中のトレンドや事象、人々の価値観の変化を捉える
- 人がやりたくなる奥にある欲求や心理 (顧客インサイト) を発掘する
- インサイトに響く価値をつくり、お客さんにベネフィットをもたらす
3つをホラープリクラに当てはめてみましょう。
順番に、次のようになります。
1. 世の中のトレンドや事象、人々の価値観の変化を捉える
- 最近の10代の若者はホラーコンテンツへの関心が増している
- 2000年前後は 「J ホラー」 が流行しシリアスなコンテンツが多かった
- 2010年代からは YouTube やスマホが普及し、気軽なホラーコンテンツが増加。ホラーが身近な娯楽として受け入れられるようになった
2. 人がやりたくなる奥にある欲求や心理 (顧客インサイト) を発掘する
- プリクラは複数人でゲームセンター等にわざわざ行って、非日常的な撮影を楽しむもの
- ホラーは1人では怖くてできないが、みんなとのノリの良さも伴って怖さを体験するハードルが下がる (赤信号、みんなで渡れば怖くない)
3. インサイトに響く価値をつくり、お客さんにベネフィットをもたらす
- プリクラの楽しさとホラーの怖さの組み合わせから、「コワ楽しい」 や 「コワカワイイ」 の絶妙なバランスで魅力をつくる
- みんなで同じスリルを味わい、大声で叫ぶことへの楽しさを生む
- プリクラ中だけではなく、前後での SNS でのシェアやネタとしての盛り上がれる
マーケティングを成功させるためには、世の中のトレンドを把握し、ターゲット顧客の本当に求めていることに応えた価値提案と価値実現があります。
「プリクラ × ホラー」 という異色コラボから学べることです。
まとめ
今回はホラープリクラを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ホラープリクラは、ホラーが若者に人気になっているというトレンドと、プリクラとホラーへの顧客インサイトを捉えている
- マーケティングを成功させるためには、世の中のトレンドを把握し、ターゲット顧客の本当に求めている望みを理解する。顧客理解にもとづいた価値提案と価値実現がカギを握る
- ホラープリクラを撮りたくなる深層心理には 「赤信号、みんなで渡れば怖くない (むしろ楽しい体験になる) 」 という顧客インサイトがある。ただ怖いだけではなく、形や思い出としてトータルでは楽しいものに残る。「コワ楽しい」 や 「コワカワイイ」 からの体験価値がある
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