投稿日 2023/11/04

山小屋でぜいたくグルメ体験。お客さんが喜んでお金を払ってくれる法則

#マーケティング #提供価値 #価格設定

 「お客さんが増えないから売上が伸びない」 。こんなふうに思っていないでしょうか?

成熟市場では、新しいお客さんの獲得は簡単なことではありません。では、どうすればいいのでしょうか?

今回は、登山での飲食や宿泊の新しいトレンドから、お客さんが喜んでお金を払ってくれる仕組み作りについて一緒に考えていきましょう。

山小屋でぜいたくグルメ


出典: 日経

簡素な食事に雑魚寝のイメージが強かった山小屋が、豪華な天上レストランに進化しているという事例をご紹介します。

標高3000メートル級の山を登った先に待つのが、燻製 (くんせい) ピザやビーフシチューです。

 「カリカリで濃厚!」 

ピザを口に運んだ客がうなった。生地から手作りし、燻製したウィンナーとチーズを使用。1日限定10枚で、薪ストーブで1枚ずつ客の目の前で焼く。街中なら珍しくはないかもしれない。ただ、ここは標高2798メートルの山の上だ。

岐阜県と長野県の境にある御嶽山の山小屋 「五の池小屋」 はグルメ山小屋として名をはせる。同じく薪ストーブで焼かれたシフォンケーキも味わえる。長野県から訪れた西澤夏江さん (63) は 「フワフワでおいしい。この小屋があるから御嶽山に登りました」 と話す。

食事を引き立てるのが、今シーズン、500万円をかけてリニューアルした空間だ。16人分の客室を減らしてラウンジを設置。下呂市から管理を任されている市川典司さんは 「森の中をイメージしました」 と話す。カフェに置かれそうなレトロなソファは、大手メーカーのカリモク家具製。コケむした感じを表現するため緑色を選んだ。

壁には地元の岐阜県多治見市特産の茶色のタイルを使い、木や土を連想させる。ランプの優しい光も効果的で 「一つ一つ点火するのは面倒ですが、これが付加価値になります」 と市川さん。

それまでは山小屋の中からは景色が見えづらかったが、このラウンジには大きな窓を付けた。雲が次々と湧き上がって流れ、夜は満天の星空に手が届きそうだ。

もう1つ、別の山の事例も見てみましょう。

日本最大の山小屋である、北アルプスの 「白馬山荘」 (標高2832メートル) も変身している。

難路で知られる大雪渓を踏破した登山客を出迎えるのは、ビーフシチューのコースだ。7月15日から1日限定20食で提供を始めた。地元の調理業者とつくったもので、通常の1泊2食付き1万5000円に加えて、3000円の特別料金がかかる。「山小屋の食事としては破格の値段」 と運営する白馬館 (長野県白馬村) の経営企画部・松沢英志郎部長は話す。

実はビーフシチューはほぼ四半世紀ぶりの復活だ。「バブルのころに始めましたが、2000年ごろには提供をやめてしまっていました」 と松沢貞一社長。当時、食べた経験のある登山客から問い合わせされることがあり、付加価値が求められる今にぴったりのメニューと判断した。

白馬山荘は最大800人が泊まれる。一般客の夕食は定食風。食事時間は45分間に限られ、ピーク時は4 ~ 5部の入れ替え制となる。

一方、シチューを選択した客は時間制限がない。一般客の食堂とは別の 「スカイプラザ」 で雄大な白馬連峰を眺めながら食べられる。「ぜいたくな時間を買ってもらう形です」 と松沢部長。ワインも楽しんだ俣野徳夫さん (75) は 「山小屋で普段食べる味ではなく、レストランのような味。しかも最高のロケーションでした」 と満足げだ。

学べること


では、山小屋でのグルメ体験という事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

日本では少子高齢化で人口減少に拍車がかかり、多くのカテゴリーにおいて成熟市場になっています。お客さんの人数規模が大きく増えにくい市場環境においては、いかに客単価を上げていくかが大事です。

こうした背景から、今回の山小屋での取り組みは他の業界でも参考になります。

見過ごされてきたビジネスチャンス


ヒントになるアプローチを一言で表現すれば、価値を高めて、より高い金額を支払っていただく (価格を上げる) というものです。

従来、山小屋の食事は、特別おいしいことは期待されていませんでした。飲食ができれば御の字で、登山客はそういうものだと受け入れ、いわば解決をあきらめていた問題として水面下に長らくあったわけです。

ここにビジネスチャンスがありました。食事のメニューや設備の質を向上させ良い体験を提供することで、お客さんが高い価格でも納得してお金を支払ってくれます。たとえば、五の池小屋や白馬山荘では、従来の食事とは一線を画すメニューやサービスを提供しており、お客さんからの高い評価を得ています。

価値を高め、価格を上げる


学びを一般化すると、まず先に価値を高め、それに合わせて価格を上げるという順番の重要性です。

お客さんは、自分が感じる 「価値」 が 「価格」 よりも高ければ、つまり頭の中で 「価値 > 価格」 となれば納得感を持ってお金を払ってくれます。大事なのは、価値を高める取り組みが先行することです。その上で、価値に見合った価格を設定し、お客さんからの満足感を伴った支出が実現します。

マーケティングの本質


マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくること」 です。ここに本質があります。

今までの登山の行き先として選ばれる要素は、山自体の魅力にありました。ここに加えて、山小屋での食事や宿泊の体験価値が向上することで、今までの質素な飲食や宿泊に比べ、そこでしか体験できない独自の価値を登山者に提供しています。

つまり 「お客さんから選ばれる理由」 を新たに生み出したということです。だからこそ、今までよりも高い金額でもお客さんにお金を出してもらえるのです。


まとめ


今回は登山の新しいトレンドを取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 価値を先に高め、それに見合った価格を設定する。お客さんに 「価値 > 価格」 と感じてもらえれば、お客さんは納得感からより高い金額でも支払ってくれる

  • マーケティングの本質は 「お客さんから選ばれる理由をつくること」 。見過ごされがちな 「価値向上の機会」 を捉え、既存の価値に新たな要素を加えることで、お客さんから選ばれる新しい理由を生み出そう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。