投稿日 2023/11/30

王子ネピア 「おむつ無料交換便」 。社会的意義のある三方よしのマーケティング戦略

#マーケティング #三方よし

今回は、王子ネピアの 「おむつ無料交換便」 キャンペーンの事例を取り上げます。

戦略やマーケティング施策に、「三方よし」 を実現する重要性を見ていきましょう。

おむつ無料交換便


出典: AdverTimes

王子ネピアの赤ちゃん用の紙おむつ 「ネピア Genki!」 がおもしろい取り組みをしました。

キャンペーン名は 「おむつ無料交換便」 です。

おむつは赤ちゃんの成長によって小さくなり、わりとすぐに使えなくなってしまいます。そんな未使用のまま各家庭に余っているおむつを新サイズに無料で交換してくれる期間限定の企画でした。4月20日から7月20日の3ヶ月間にわたって3回実施し、各回で先着1000世帯 (各回につき1世帯1回まで) の交換に対応しました。

キャンペーンの背景


このキャンペーンが始まったきっかけは、王子ネピアの独自調査からです (詳細はこちらのリリース) 。

フードロスならぬ 「おむつのサイズアウトロス」 が、小さい子どもを持つ親の悩みの種になっている状況が明らかになりました。

調査からわかったのは、未使用のまま余ってしまうおむつは年間2000万枚、廃棄枚数は500万枚も想定されるとのことです。満3歳 ~ 4歳未満の子を持つ親の7割以上が、サイズが小さくなりおむつを余らせてしまった経験があるそうです。

王子ネピアはこうした状況を 「おむつのサイズアウトロス問題」 と名付け、社会的に環境課題として提起する狙いがキャンペーンにありました。

実施後の反響


おむつ無料交換便は、送料無料で、開封済みのおむつでも引取り OK としていました。サービス利用時に親のストレスが極力ないように、育児で忙しい中でも使いやすいような仕組みに設計しました。

3回にわたって 「おむつ無料交換便」 の企画を実施したところ、SNS やお客様相談室を通じて 「すごいサービス」 という驚きの声があがり、キャンペーンを実施したことへの感謝の声が寄せられました。また、キャンペーン終了後も 「今後の実施予定はありませんか?」 などの問い合わせが王子ネピアに届いているそうです。


学べること


では王子ネピアの 「おむつ無料交換便」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

 「三方よし」 を実現するためのヒントがあります。

三方よしの起源と理念


三方よしとは、江戸時代のころから近江商人が大切にした商売理念です。売り手、買い手、そして世間という社会全体にとって良い商売をするという姿勢です。

商品やサービスが売り手にとっては利益を生むだけではなく、買い手にとっては価値があり、社会にとっても何らかの貢献をするという高い理念です。

おむつ無料交換便と三方よし


三方よしをおむつ無料交換便に当てはめてみましょう。

  • 売り手よし [王子ネピア]
    短期的にはおむつを無料で交換するためにコストがかかるが、これによってブランドや企業イメージが向上する。
    キャンペーンに共感してもらえ、今後も継続的に商品を買ってもらえることが期待できる

  • 買い手よし [消費者]
    サイズが合わなくなったおむつが新しいサイズに無料で交換してもらえ、無駄なくおむつを使える。家計にとってはありがたい企画になる

  • 世間よし [社会・環境]
    未使用のおむつが交換されることで廃棄されるおむつの量が減り、環境負荷が低減する。おむつの 「サイズアウトロス問題」 を解決する社会的な意義がある

短期的リスクと長期的リターン


王子ネピアは運送会社とも連携し、おむつ無料交換便の仕組みをつくり上げました。自宅まで配達員がおむつを引き取りに行き、その場で新しいおむつに交換するという手厚いサービスを提供しました。

おむつ無料交換便は、短期的には金銭的なリターンは見込めない取り組みです。しかし、長期的には社会的に意義のある取り組みとしてブランド価値や企業への信頼を高めるでしょう。

三方よしの戦略と施策を


この事例から学べるのは 「損して得とれ」 の重要性です。

短期的には非合理に見え費用対効果が合わなくても、中長期で捉えることで後から投資回収を目指すわけです。

戦略や施策をつくるときに、三方よしのような広い視野で捉え、時間軸も長く持つことが大事です。そうすることによって最初は投資が赤字になったとしても、後からその価値は社会やお客さんから高く評価され、ブランド力を高めることにつながります。


まとめ


今回は王子ネピアの 「おむつ無料交換便」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • おむつ無料交換便は、近江商人の商売理念 「三方よし」 が入った取り組み。売り手には継続的な商品購入やブランド・企業イメージ向上、買い手はおむつの無駄遣いの減少、社会には廃棄物量の削減という利点がある

  • 短期的には費用対効果が悪くても、損して得とれの姿勢と三方よしを大切にし、広い視野と長い時間軸で戦略と施策を考えよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。