今回は最近読んでおもしろかった本を取り上げます。
本のタイトルは、女子大生、オナホを売る。(神山理子 (リコピン) ) です。
この記事では、本書からの学びを中心にご紹介していきます。
本書の概要
この本は異色のマーケティング本です。
著者は、エロ系が苦手で聞くだけで吐き気をもよおすほどだった女子大生です。本の内容は、男性用アダルトグッズであるオナホの販売を始め、D2C (Direct to consumer: 一般消費者への直接販売) のビジネスとして成功し、最後には事業売却をするまでのプロセスです。ご本人が詳しく解説する本です。
エッジの効いたテーマ、しかし中身は本格的なビジネスの教科書と言える内容です。実践的なマーケティング手法から、起業や新規事業、副業にも参考になる1冊です。
本の内容を大きく俯瞰すると、
- 事業選定とターゲット顧客の設定 [事業領域を決める]
- ユーザーのインサイト発掘 [お客さんの深い理解]
- コンセプト設計と商品開発 [価値をつくる]
- Amazon での伝え方と売り方 [販売]
- 事業売却 [ビジネスの終わり方 (出口) ]
まずは市場とお客さんを決めるところからはじめます。その後のプロセスはマーケティングの流れとしてきれいに進んでいきます。
扱うカテゴリーはアダルトグッズで書籍のテーマとしてキワモノですが、ビジネスでやっていることは王道のプロセスです。
コンセプトの重要性
この本では商品コンセプトの重要性が強調されています。事業を成功させるには、良いコンセプトになっていることが大事です。
BtoB (企業向けビジネス) でも BtoC (消費者向けビジネス) においても、また、有形商材だろうが無形商材でも変わりません。
書かれていたことで印象的だったのは、良いコンセプトとは 「良いインサイトに突き刺している」 でした。お客さんがまだ気づいていない心の奥の望みに対して、こちらで先回りして提供する解決策が良いコンセプトになります。
顧客インサイトを発掘する方法
では、良いコンセプトと切っても切り離せない関係にある 「顧客インサイト」 は、どのように見出だせばいいのでしょうか?
本書からは多くの学びが得られましたが、その中でも特に参考になったのが 「顧客インサイト」 をどうやって発掘するかでした。
良いインサイト発見へのポイントは、「お客さんの気持ちを本人以上に理解し、お客さんすらも気づいていない望みや悩みを代わりに見つけてあげること」 です。
この本で紹介されている顧客インサイトを発掘する具体的な方法は、ユーザーインタビューです。
インタビューに入る前に、事前のリサーチを徹底します。
事前のマーケットリサーチ
著者はオナホユーザーのことを理解するために、入念な調査をしました。
最初にやったのは、次のような視点からの多角的なマーケットリサーチです。
✓ 事前のマーケットリサーチ
- 既存の競合商品のリサーチ。その当時に流通していた商品を片っ端から調べる
- 最も売れているものは何か
- その次に売れているものは何か
- 逆に売れていない商品は何か
- 一時期ヒットしたものは何か
- 商品ラインナップが多いブランドは何か
- 高級路線・低価格路線の商品はあるのか
- 市場全体で、共通している商品特徴は何か
- 既存商品についている良い口コミ、悪い口コミは何か
- クロスセルされているもの (付随されて関連商品として売られているもの) はあるか
次に彼らが普段見ている情報を見に行きます。日常的に目にしている情報を見ることで、彼らの世界観が垣間見えます。
また、ユーザーたちの中で発信している人が入れば、その発信情報も確認します。リアルな声を手に入れ、発信している情報から普段どこにいるのか、どんなライフスタイルを送っているのかを具体的にイメージします。
そして、彼らが憧れている状態、恐れている状況を知ることもポイントです。
憧れている状況とは、彼らにとって理想の状態は何か、本当のところはどうなりたいのかです。恐れている状況を探すのも効果的です。 その裏返しが憧れにつながるからです。理想や恐れは顧客インサイトの発掘へのヒントになります。
ユーザーインタビュー
事前のリサーチでユーザーの世界観、市場の把握がおおよそできたらユーザーインタビューに入ります。
ステップは、次の通りです。
✓ ユーザーインタビューの流れ
- まず最初に 「自分には、多かれ少なかれ思い込みがあること」 と心得る
- インタビューの前に、相手の欲求を想像し仮説をつくっておく (表に整理していく)
- 質問項目も整理する
- インタビュー前半では傾聴に徹する
- インタビュー後半では自分の仮説を検証する
顧客インサイトを発掘するためには、お客さんの理想と現実のギャップに注目するといいです。
✓ 顧客インサイトを発掘するために
- ユーザーにとっての理想の状態は何か。本当はどうなりたいのか [Who & Why]
- 理想状態を実現するための、彼らの表面的な欲求は何か [What]
- それに対して、現状においてユーザーが思いつく・やっている解決策は何か [How]
- その方法では解決できないことは何か。なぜ解決されないのか [Why not yet]
もし、今の解決策がすでに望みを満たし不満を解消しているのなら、ユーザーは理想状態を実現しているはずです。 しかし欲求がまだ存在しているなら、「現状の解決策では、解決ができない欲求」 ということになります。
ここに、より深い本当の悩みが隠れています。
その中から 「自分たちで解決できるもの」 「お客さんの理想実現に対して最もインパクトが大きいもの」 を選び、事業として価値を生み出していくのです。
相手に興味を持つ
著者がインタビューで一番大切にしているのは 「本気で相手に興味を持つこと」 です。
インタビューをしている最中につい考えてしまうのは、「商品開発に有益そうな情報を引き出そう」 です。しかしそうではなく、「その人が考えていることを心からよく知りたい」 や 「自分のビジネスの役に立たなくてもいいから、自分は今、この人に興味がある」 です。
有益な情報だけを聞き出そうとすると、誘導的な質問をしてしまいます。しかし 「その人すらも気づいていない顧客インサイト」 を見つけるためには、たとえば相手がポロっとこぼした一言に本音に真実が潜んでいたりします。
本音を話してもらうためには、相手に興味を持ったときだけに気づける発言・言葉を大切にし、インタビュー相手が 「 (自分のことを) 興味を持ってもらえている」 と感じる安心感をつくり出すことが大事です。
インタビューで話を聞くときに気をつけなければいけないのは、人は本音と建前を使い分けるということです。本人すら気づかずに建前を言っている可能性もあります。
これは顧客インサイトではないため、インタビューをしている間は 「これは本当に本音なのか?」 と常に意識しながら聞くといいでしょう。
著者は 「〇〇 についてはぶっちゃけどう思う?」 という訊き方をよく使うそうです。言われた相手も 「あ、これは世間体とか気にしなくていいんだな」 「この人は、本音を伝えてもドン引きはしなそうだな」 と心理的安全性を感じることで、本音をより引き出しやすくなります。
購入へのつなげ方
発掘した顧客インサイトまでのお客さんの深い理解をもとに、コンセプトをつくり、キャッチコピーに落とし込みます。
キャッチコピーの役割
キャッチコピーの役割は、「その商品がターゲットとするお客さんに、商品詳細を読んでもらうようにつなげること」 にあります。商品詳細への橋渡しができるのなら、キャッチコピーで情報が多少足りなくてもいいです。
ただし、商品コンセプトとズレたキャッチコピーで呼び込みをしてしまうと、お客さんは商品が提供できる解決策とは異なる期待を持ってしまい、商品の詳細欄を見てがっかりさせるだけです。
あくまでもコンセプトの主旨から外れず、お客さんの目にとまり 「もっと商品を詳しく知りたい」 と思ってもらえるキャッチコピーをつくることが大事です。
購入の流れ
商品を買ってもらうまでの大きな流れは、「差異化 → 期待 → 確信」 です。
順番に補足すると、まずは商品のパッケージや名前、コンセプトを見て 「この商品は他の商品と違って、私の悩みを解決してくれるかも?」 と目にとめます (差異化) 。
次にお客さんの理想を思い起こさせるキャッチコピーで、「この商品は自分が理想とする状態へと導いてくれるかもしれない」 と商品を使った時や後の未来にワクワク感を抱きます (期待) 。
ここまで来てようやく、お客さんは商品の詳しい説明を読む気になります。商品詳細を読み、「この商品は、他では解決できない私の悩みを解決してくれ、自分が理想とするゴールへと導いてくれる!」 と信頼します (確信) 。
まとめ
今回は書籍 女子大生、オナホを売る。(神山理子 (リコピン) ) を取り上げ、学んだことを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ビジネス成功の鍵はコンセプトにある。良いコンセプトとは、お客さんがまだ気づいていない深い願望を満たす解決策を提供するもの。コンセプトは顧客インサイトにもとづいてつくる
- 顧客インサイトを見出すためには、お客さんの理想と現状のギャップから、真の欲求を発掘する。理想の状態、表面的な欲求、現状の解決策、未解決の問題から奥にあるインサイトを探る。インタビュー相手のことに興味を持つ姿勢が大事
- 商品購入のプロセスは 「差異化 → 期待 → 確信」 の3ステップ。お客さんが、その商品は他の商品との違いに気づき、次にキャッチコピーから期待が喚起され、最後に商品詳細で買って間違いないという確信を得る
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