投稿日 2023/11/05

スタバ 「タンブラー部」 が描く、リーダーシップとブランディングの交差点

#マーケティング #リーダーシップ #ブランディング

今回は、スターバックスの事例です。

スタバが展開する 「タンブラー部」 を取り上げ、リーダーシップとブランディングの2つの観点で学べることを掘り下げます。

スタバのタンブラー部


日本のスターバックスが 「タンブラー部」 に注力しています。

タンブラー部は参加型プロジェクトです。部活のように仲間とともに楽しくマイタンブラーを利用することを目指し、サステナブルな未来につなげる、スターバックスが新たに提案するオフィシャル企画です。

クリエイティブも部活がイメージされています。


タンブラー部について、スターバックス コーヒー ジャパン CMO の森井久恵さんは、狙いや意義を次のように語っていました。

サステナビリティはスターバックスとして非常に重視していることで、絶対に取り組まなければならないし、実際にさまざまな施策を行っています。

 (中略) 

大前提として、私たちもそうですが、お客さまにおいても、あまり堅苦しいことを言われてもやる気になりにくいのではないかと考えました。

とはいえ、サステナビリティで大きな環境インパクトを生みだすのはメーカーやブランドの努力だけでなく、お客さまの行動変容が必要不可欠です。つまり、お客さま次第で環境に与える影響の大きさが変わりますので、私たちの使命はお客さまにどう伝えるかがポイントになります。

そのために、まずは 「楽しくないとやらない、続かない」 を前提として、いかにファン (fun) に参加していただけるかを考慮した結果、誕生したのが 「タンブラー部」 です。

 (中略) 

 「タンブラー部」 の場合、行動変容が大変なのは、お客さまにタンブラーをご持参いただくことです。「なぜタンブラーを持っていかなければならないの?」 というお客さまの疑問に、「値引きしますから」 「そのほうが環境にいいですから」 と伝えるだけではなかなか変化は生まれません。

そこで、どうすれば行動を変えていただけるかを考えて、中学・高校・大学など学生時代の部活から発想したのが 「タンブラー部」 です。部活なら学生時代に取り組んだお客さまも多いでしょうし、「楽しい」 「目標達成へ向けて取り組む」 「成し遂げる」 などの感覚を想起しやすいと思います。

加えて、一人でタンブラーを持参するよりは、「ぜひ部活に参加してください」 と言われたほうが興味も湧きやすいでしょうし、参加したら実際の部活で成長していくようにステータスも変化していけば、ワクワク感を得られやすいと考えました。

思った以上に反響が大きく、1カ月で120万杯分以上の参加をしていただきました。要するに約120万杯分の使い捨てカップをタンブラーに替えてもらえたわけです。

お客さま一人一人がサステナビリティに取り組んで貢献したいという思いと達成感、少しずつ成長していく楽しさ、私たちから提供するお礼としてのプレゼント企画、「応援マネージャー」 であるお店のパートナーの盛り上げ、さらに 「#タンブラー部」 での SNS への投稿など、お客さまと一緒に行う双方向の参加型プロジェクトとして、スターバックスらしく良い形でサステナビリティに取り組めていると思います。

スタバがタンブラー部を通して試みている、どうすればお客さんに行動を変えていただけるかには、リーダーシップに示唆があります。


リーダーシップ


リーダーとフォロワー


リーダーは英語では leader と書きます。何かをリードする、誰かをリードするという意味です。

リーダーが成立するには、リーダーについていくフォロワーが必要です。リードする人とリードされる人はセットであり、リーダーシップの本質は、いかにフォロワーを導くかにあります。

リーダーになるターニングポイント


ここでご紹介したいのは、TED のプレゼンです。

リーダーとフォロワーの関係を的確に説明する How to start a movement (社会運動はどうやって起こすか) です。


3分ほどのプレゼンで、リーダーとフォロワーの本質が語られています。プレゼン内容を一言で表現すると、「最初のフォロワーの存在が1人のお調子者をリーダーへと変える」 です。

プレゼン内である動画が紹介されます。動画では、野外である男性が上半身裸で1人踊っているシーンから始まります。傍から見れば道化者で単なるお調子者の人にしか見えません。

しばらくした後に、別の男性1人がダンスに加わります。ここがターニングポイントでした。

次第にダンスに参加する人たちが増えていき、途中からは我先にと次々に人々が踊りの輪に加わっていきます。始めはたった1人で踊っていたところに、ある1人のフォロワーがついた結果、裸踊りを始めた男性はリーダーになったのです。

スタバのリーダーシップ


ここでスタバのタンブラー部につなげます。

スターバックスをお調子者と言うわけではもちろんありませんが、スタバのタンブラー部にはリーダーシップを見ることができます。

スタバはサステナビリティへの旗をかかげ、店舗にマイタンブラーを持ってきてもらうという具体的な行動を促しています。


リーダーシップとブランディング


スターバックスのような、人々からブランドだと思われている商品やサービス、あるいは企業には独自の世界観があります。世界観とはブランドとしての目指す自らの姿だったり、実現したい理想の社会や未来のことです。

ブランドの世界観の起点は 「自分たちはこうありたい」 「理想とするのはこんな世の中である」 という、自らの内側から生まれる信念や志です。

ブランディングにはリーダーシップの要素が不可欠です。

ブランドが目指す北極星を示し、まずは自らが歩み始めます。それを見た人が自分も一緒に行きたいと思い、同じ行動を起こしたときにフォロワー (お客さん) ができます。この瞬間に、リーダーであるブランドが示した 「向かう先」 は、ブランドとお客さんの間で共有された 「目指す先」 「実現したい共通の世界観」 になるのです。

このように、ブランディングとリーダーシップの奥にある本質は共通します。

マーケティングにおいても、リーダーシップは重要です。ブランドが持つ独自の世界観や理念をしっかりと示し、それに共感するお客さんを得ることで、成功への道を歩めるのです。


まとめ


今回はスタバのタンブラー部を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • リーダーになるためにはフォロワーが必要。始めはたった1人でも、目指す先の北極星や世界観に共感したフォロワーがついたときにリーダーになる

  • ブランディングにはリーダーシップと共通の要素がある。まずはブランドが 「自分たちの目指す姿」 「理想とする世の中」 という内側から生まれる信念や志を掲げる。人々に共感されフォロワーが生まれることで、お客さんとの 「共通の世界観」 に昇華されブランドと強い関係が結ばれる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。