イノベーションとは何でしょうか?
今回は、かつてのポケベルがカプセルトイになって復活したという話題から、1990年代のポケベルの流行を 「イノベーション」 という視点で紐解きます。
懐かしのポケベルが 「カプセルトイ」 で登場
出典: ITmedia
1990年代に流行したポケベルがカプセルトイになりました。
ポケベルとはポケットベルの略称で、モノクロのディスプレイと通信機能を備えた小型サイズのモバイル端末です。情報のやりとりは受信専用で、ポケベルから発信はできない一方通行です。
ふっかつカプセルトイは、通信会社の東京テレメッセージが監修し (ここに本気度がうかがえます) 、ポケベルの mola をモデルに 「ポケベル ボールチェーンマスコット」 として発売されました。値段は500円です。
表示画面には 「ナニシテル?TEL クダサイ」 などのメッセージが入っています。
* * *
ポケベル時代のコミュニケーション
出典: NHK
1990年代当時は携帯電話やネットは日常生活には存在せず、リアルタイムでの連絡手段は固定電話ぐらいしかありませんでした。
ここにポケベルが新風を巻き起こしたのです。ポケベルを使えばいつでも友だちや恋人、相手の素性は知らない 「ベル友」 に直接連絡できることが当時の若者に受け、最盛期の1996年には契約数が1000万台を超えました (参考) 。
ポケベルが流行った初期のころは、画面に表示されるのは数字と "()" や “-” などの一部の記号のみでした。しかしこれだけでもコミュニケーションとして十分に機能していました。若者のユーザーは、数字と記号の語呂合わせによって多様な表現を生み出したのです。
たとえば、
-
0840 おはよう
0833 おやすみ
3476 さよなら
724106 (7 何してるかな
14106 愛してる
8 を “は” と読むような単純な数字の読み方だけではなく、() の "(" を "か" としたり、1 を "あ" にするなど、日本語のひらがなを全て置き換えていました。
上記のような一言だけではなく、文章にも発展しました。
-
084- 101052160(7 )03106 864107
0(86- 1051210100(7
210 1442 14-7
これ、わかりますか?
順番に見ていくと、
-
084- 101052160(7 )03106 864107
おはよー いまどこにいるのかな? これみたら ベルしてね
0[86- 1051210100[7
おかえりー どこに行ってたのかな
210 1442 14-7
ずっと いっしょに いよーね
10 と表記しても読み方がいろいろあるようです。1 と 0 で 「いま」 、10 で 「と」 または 「ど」 、英語として読み Ten なので 「て」 など、多様な表現を持たせました。
ポケベルの価値
ポケベルは発売当初は、もともとはビジネスパーソン向けの連絡手段でした。
たとえば外出している営業担当者へオフィスからの緊急連絡をしたいときに、折り返してほしい電話番号を送り、営業の人が持つポケベルの画面に番号を表示させるという使い方です。
そんなポケベルを、かつての女子高生を中心にした若者が独自の使い道を見出しました。今っぽく言えばポケベルをハックしたわけです。
ひらがなやカタカナ等が画面に表示される前は数字だけの受信でしたが、それだけでも先ほど見たように多様なコミュニケーションが成立していました。いつでもどこでもリアルタイムにメッセージが受信できたのです (ただし、メッセージ受信は全国ではなくエリアが限定されていました) 。
ふとした時に自分のポケベルが鳴り、そこには友だちや恋人、ベル友からのメッセージが表示されました。寝ようと思った頃に送られてくる 「0833」 というメッセージなどです。
今では当たり前のコミュニケーションのリアルタイムかつモバイル性を、初めて享受できる手段がポケベルでした。携帯電話がなかった時代には他愛のないことでも、今までにはない 「つながり」 を体感させてくれました。ここにポケベルの価値があったのです。
ポケベルとイノベーション
ポケベルは、携帯電話やスマホアプリがまだない時代でのイノベーションでした。
イノベーションとは 「未来の当たり前をつくること」 です。今はまだ多くの人々には普及していなく、そもそも気づいてすらいないかもしれませんが、未来には世の中に広く受け入れられ、なくてはならない存在となっているものです。
ポゲベルはその後の PHS や携帯電話にとって代わられたものの、モバイル端末と通信によってリアルタイムのコミュニケーションをいつでもどこでもできるという意味では、先駆け的な存在でした。
ポケベルは今や当たり前となった LINE や DM (ダイレクトメッセージ) につながるコミュニケーションシステムでした。今の LINE やインスタの DM などのメッセンジャー文化の原型を、ポケベルはつくったのです。
ドコモなどのポケベルの売り手が当初想定していたのは、ポケベルはビジネスパーソン向けのツールでした。しかし、予想外なことに、高校生を中心とした若者たちの中で、独自の使い方が発展していきました。大人には思いつかないような数字の語呂合わせを駆使したコミュニケーションが生まれました。
このような異端で邪道とも取られる動きを、売り手側は見過ごしたり排除することなく、むしろ積極的に取り入れました。
たとえば、ドコモはポケベルのイメージキャラクターに広末涼子さんを起用していました。ポケベルのターゲットユーザーを高校生などの若者に設定していたことがわかります。
ポケベルの事例は、「イノベーションは辺境の地で起こる」 ということを体現しています。
10 ~ 20 代の若者の世界という、ビジネスパーソンを想定ユーザーにしていた売り手からすると 「辺境の地」 で起こっていた熱狂が大きな流れとなり、やがては辺境から中央に進出し社会全体にインパクトを与えました。ポケベルは当時を象徴するコミュニケーションツールとして脚光を浴びることとなったのです。
まとめ
今回は、ポゲベルのカプセルトイや1990年代のポケベルの流行を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- イノベーションとは 「未来の当たり前」 をつくること
- 今はまだ多くの人々には普及していなく、そもそも気づいてすらいない場合もあるが、未来に世の中に広く受け入れられ、ないと困るような存在となっている
- イノベーションは辺境の地で起こる。辺境の地で起こっていた熱狂が大きな流れとなり、やがては辺境から中央に進出し社会全体を変える
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