投稿日 2023/11/20

日本企業でのマーケティングはどこで間違ったのか?マーケ組織が存在意義を発揮するためにはどうすればいいか?

#マーケティング #組織開発

今回は、企業内のマーケティングの組織はどうあるべきか、いかに組織の中でマーケティング部門が存在意義を見出せるかを考察します。

日本企業のマーケティング


まずは、企業内でのマーケティング組織の課題感、問題意識から見ていきましょう。

日本の 「マーケティング」 はどこで間違ってしまったのかという議論です。

佐藤章氏 (引用者注: 湖池屋 社長) 企業によって事情は異なりますが、あえて言えば、大半の企業のマーケティングが販売促進に偏ってしまっているのではないかというのが正直な印象です。そもそも誰に向けてどんな商品やサービスを提案するかというものづくりの考え方や、それを担う 0 → 1 (ゼロイチ) 人材の育成がおろそかになっていないだろうかと危惧しています。

西口一希氏 (引用者注: Strategy Partners 社長) 全く同感です。根本的に間違っていると思うのが、日本のマーケティング組織のほとんどが、研究開発にも営業にも関与していないケースが多いこと。これには、背景があります。

国内の主な企業にマーケティング部門がまだなかった1970年代、80年代は、実は開発部隊や営業部隊がマーケティング的なことをやっていたのです。そんな中、90年代に海外からマーケティングの概念が輸入され、日本の企業も 「これはやらねばならない」 となった。

では、どうすみ分けていくかと考えたとき、開発は 「ものづくりは自分たちの領域だ」 と言い、営業からは 「売るのは自分たちに任せろ」 と言われ、マーケ部門は期待値が不明確なままに間に入ったのが実態。こうして開発にも販売にも直接関われないまま、販促の一部、PR 的なもの、さらには本質を誤解したままブランディングという新しい仕事をつくってしまった。

その結果、商品の価値を破壊すらしかねない販促、本当に価値を届けたい相手が見えていないままの PR 、自分たちだけが面白いと思っているテレビ CM など、リソースの無駄遣いが横行してしまった。これが私の見立てです。

マーケ部門が関わることができる範囲が限られているため、KPI (重要業績評価指標) やロール & レスポンシビリティー (役割と実行責任) も非常に狭い。これも日本のマーケターの実情ではないかと思います。

ここまでの話を整理すると、研究開発、製造、営業とすでに役割が既存の組織にある状況で、新たにマーケティング組織が新設されたのがことの発端です。

既存組織は自分たちの役目を安易に譲ることはなかったために、新設されたマーケティング組織は新しく仕事をつくり、実績を示す必要性に駆られました。

そこで、既存組織の手薄な領域、たとえば、市場や顧客の理解を深める市場調査、広告宣伝、ブランドロゴなどのデザイン、展示会などのイベント出展といった役割を引き受けるようになったわけです。ただし、これらはいずれは事業活動全体で見た時の一部の範囲にとどまります。

本来は、マーケティングとはこのような局所的な一部分ではなく、事業全体にかかわるものです。

しかし海外から 「Marketing」 という概念が輸入され、的確な日本語訳がされず、定義が現場で腑に落ちるような言語化がないまま今日に至っているわけです。未だに人によって多様な解釈が可能な 「マーケティング」 になっているのが現状でしょう。

こうした背景から、マーケティング組織の事業の中で役割が中途半端だったり、曖昧な状況に陥っているのです。


マーケティング組織の生きる道


ではどうすればいいのでしょうか?

マーケティング組織の役割


方向性は3つです。

  1. 引き続き領域を特化した専門家集団となる
    社内における市場調査、広告宣伝 (マーケティングコミュニケーション) などで専門性をさらに深める。特定領域を担当し、社内の各事業や製品を横串で横断するエキスパートとしての役割を果たす

  2. 組織と伴走する役割を担う
    マーケティング組織が研究開発や製造、営業といった各部門に伴走する。企業内での横の連携。
    全組織が顧客視点になり、お客さんを向いた活動ができるようにマーケティング組織が組織間の潤滑油となる。社内でお客さんのことを広く深く最も理解している存在になり、企業と顧客の架け橋になる

  3. 経営企画のような役割を果たす
    マーケティング組織が経営層に近い立ち位置で活動する。ただし社外に対してはお客さんと直接的に接する役目も持ち、顧客と経営層をつなぐ縦の連携への役割をマーケティング組織が担う

それぞれで具体的にやること


マーケティング組織の役割の3つの方向性について、マーケティング組織が存在意義を発揮するために、それぞれ具体的に何をやるといいのでしょうか?

最後に、この問いを掘り下げてみましょう。

✓ 活動領域を特化した専門家集団
  • データ分析: 市場データや顧客データの収集と分析を行い、市場のトレンドやお客さんのニーズを捉える
  • 広告: ROI (投資対効果) の高い広告戦略の立案。最新の広告技術や手法を取り入れた広告展開
  • コンテンツ制作: ブランドメッセージを効果的に伝えるためのコンテンツ (動画, 記事, インフラグラフィックなど) の制作

✓ 研究開発や製造、営業などの各組織との伴走
  • 顧客フィードバックの共有: お客さんからのフィードバックや要望を、全社的に共有し、各部門の活動に反映させる
  • 共同プロジェクトの推進: 研究開発部や営業部と共同で、新商品の開発や営業戦略の策定など、マーケティングの知見や顧客理解を活かしたプロジェクトを進める
  • 社内ワークショップの実施: 他部門との連携を深めるためのワークショップやセミナーを定期的に開催

✓ 経営企画的な役割
  • 経営指標とマーケティングの連携: 経営陣が重視している指標にマーケティング視点を入れる。お客さんの動向や変化、成功の結果が経営指標に反映される仕組みをつくる
  • 市場理解の共有: 市場の顧客と競合状況を定期的に経営層へ報告する
  • 経営戦略への参画: 経営層との定期的なミーティングを設け、お客さん目線からのマーケティング視点から経営戦略の示唆を提言する

以上のこれらの取り組みを通じて、マーケティング組織はその存在意義を見出せ、事業全体の成長をサポートする重要な役割を果たすことができます。


まとめ


今回は、企業でのマーケティング組織の役割について見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ マーケティング組織が存在意義を発揮するための役割 (3つの方向性) 

  • 活動領域を特化した専門家集団 (市場調査や広告など) 。特定領域を担当し、社内の各事業や製品を横断するエキスパートとしての役割を果たす

  • 研究開発や製造、営業などの各組織と伴走する。全組織が顧客視点になり、お客さんを向いた活動ができるように、マーケティング組織が組織間の潤滑油となる

  • 経営企画的な役割。顧客と経営層をつなぐ役目を果たし、顧客理解の共有や経営戦略にお客さん目線を入れた示唆を提供する


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。