戦略の方向性が間違っていたら、どれだけ努力をしても成果は出ず目的を達成できません。余計な労力と時間、お金を使ってしまうだけです。
今回は、のうか不動産のユニークな事例から、戦略の本質に迫ります。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
のうか不動産
広告に頼らず 「入居率 98%」 を誇る、金沢大の学生御用達の不動産店 「のうか不動産」 がおもしろいです。
のうか不動産は、金沢市で学生向け住居の賃貸・管理を主力事業としています。近隣の大学に通う学生から人気を集めているだけではなく、家賃を支払うこともある親や、物件の大家さんも熱烈な支持者になっているようです。
2023年春の金沢大学の新入生の約 75% 、4人のうち3人がのうか不動産の物件に入居しています。過去5年で、のうか不動産の管理物件は約8600戸から1万1000戸弱に増え、約1.3倍に拡大しました (参考記事) 。
のうか不動産の充実すぎるサービス
のうか不動産はさまざまなサービスや施策を展開しています。
主なものを見てみましょう。
✓ マメバス
- 金沢大学の角間 (かくま) キャンパスと学生居住エリアを結ぶ無料の通学バス。金沢大学の公認
- 3つのルートがあり、朝と夕方に運行
- 非入居者の大学生や教職員も利用可能
✓ ビーンズ
- 入居者専用カフェ。モーニングセットを提供
- モーニングセットはトースト、プレーンやサルサ、ミートなどの5種類のホットドッグにコーヒーなどの飲み物が付く。価格は200円前後
✓ マメサロン
- 3階建てビルの2階と3階を大学生に無料で開放し提供。午前10時から午前0時まで、サークル活動やイベントスペースとして利用できる
- 大学生の代表者と共同で設備やインテリアを運営
- 利用予約システムは学生が開発し、のうか不動産が買い取った
✓ おうか場
- 大学生たちのコミュニティーの場として 「おうか場」 を提供
- 新歓パーティーや金沢マラソン挑戦など、交流し思い出をつくる場となっている
✓ マメックスショップス
- 提携店舗の特典。のうか不動産が扱う物件に住んでいる人は、市内の加盟店から特典を受けられる
- 通常料金から 10% 割引、乾杯ドリンクやトッピングが無料など
✓ 紹介制度
- のうか不動産の入居者が紹介し、紹介された人の住む家が決まると、紹介した人も紹介を受けた人もビーンズでのモーニングセットが無料になる (入居期間中なら大学卒業まで無料)
- 紹介制度からモーニングセットが無料なっている大学生は1100人以上(23年8月1日時点)
狙いや意図
のうか不動産が取り組んでいる様々な打ち手について、その狙いや意図を掘り下げてみましょう。
一般的に不動産業界では、不動産情報ポータルサイトなどで多額の費用をかけて広告を出稿します。資本の体力勝負という世界です。
一方、のうか不動産は全く違うアプローチをとります。朝食サービスのビーンズは、毎朝しっかりと朝食をとるのが難しい学生にとって無料で食べられるので、学生だけではなく生活費の支援をする親からも好評を得ています。
大学生の悩みやニーズを満たす色々なサービスを提供することで 「のうか不動産が扱っている物件に住みたい」 という指名によるお客さんを増やす狙いがあります。マーケティングの観点で捉えると、「のうか不動産なら住む家だけではなく大学生活まで手厚くサポートしてくれる」 というイメージ、つまりブランドになっています。
のうか不動産の物件に住み充実したサービスを体験した学生は、その良さを友人や後輩、家族に伝え、のうか不動産の評判が高まります。大学生だけでなく、その親や物件オーナーを通じても広がり、のうか不動産の知名度や信頼度が増し、ブランド資産となるという好循環が起こっています。
学生や親、物件オーナー、のうか不動産と 「三方よし」 の構図で全員がベネフィット (便益) を得る状況をつくっているのです。
戦略への学び
のうか不動産の事例は 「戦略」 の観点で学びが得られます。
戦略とは
そもそもの戦略とは何かから立ち返ってみましょう。あらためて戦略とは何でしょうか?
結論から言うと、戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。
多くの場合、前者の 「やること」 に目がいきがちですが、戦略の本質は実は後者の 「やらないこと」 にあります。「やらないこと」 が明確であるからこそ、残された 「やること」 に注力できます。戦略をつくるのは 「やらないこと」 を明確にすることと言ってもいいくらいです。
のうか不動産の戦略
のうか不動産はやらないことがはっきりしています。一般的に不動産業界で行われる広告に頼っていません。
のうか不動産が力を入れているのは、マメバス、ビーンズ、マメサロン、おうか場、マメックスショップス、紹介制度などの住居者の学生生活へのサポートとなる取り組みです。
ここには年間数千万円のコストが継続的にかかるようですが、販売促進費として見れば十分許容できるものです。強力なマーケティング施策になります。
戦略からの差異化
ビジネスで大事なのは、他社との違いをいかに打ち出すかです。
その違いが一見すると非合理に見えても、背後にある狙いや全体像を見て合理的であれば、それは美しい戦略になります。
マーケティングの観点で重要なのは、差異化がお客さんにとって価値につながっていることです。のうか不動産は、物件に住む学生だけではなく、親や物件オーナーにも恩恵があり三方よしの価値が生まれていました。
戦略の本質
では締めくくりとして、のうか不動産の事例からの学びを一般化してみましょう。
戦略で大事なのは、やらないことを明確にし、他との違いをつくってストーリーとして全体をつなげ、お客さんに独自の価値を提供することです。ここに戦略の要諦があります。
今回は不動産業界の話でしたが、ものごとを本質レベルまで突き詰めれば、汎用的にビジネスにも適用できる知見になります。
まとめ
今回は、金沢のユニークな不動産店 「のうか不動産」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- 戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと。後者のやらないことが肝で、戦略をつくるのは 「やらないこと」 を明確にするためでもある
- 戦略で大事なのはやらないことを明確にし、他との違いをつくってストーリーとしてつなげる。そして差異化がお客さんに独自の価値をもたらしていること
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