投稿日 2021/10/12

AI 手荷物検査と Amazon に学ぶ、先行優位から新しいビジネスをつくる方法


今回は、「新しいビジネスをどうつくっていくか」 という話です。

✓ この記事でわかること
  • AI を使った空港の手荷物検査システム
  • 実証実験での導入効果
  • 先行優位のビジネス転用
  • Amazon AWS との共通点
  • 学べること

この記事を読んでいただきたいと思うのは、商品・サービスのアイデアや企画を考えたり新規事業を進める役割にある方です。空港での AI 活用と Amazon の事例から、新しいビジネスを創るためのヒントをお届けします。

ぜひ最後まで読んでみていただき、何か参考になればうれしいです。

AI 手荷物検査システム


今回ご紹介するのは、和歌山県の南紀白浜空港の取り組みです。

南紀白浜空港 (出典: 日経)

南紀白浜空港を運営する南紀白浜エアポートと日立製作所が共同で、AI を活用した空港の手荷物検査システム開発を進めています。

以下は、日経新聞の記事からの引用です。

南紀白浜空港 (和歌山県白浜町) を運営する南紀白浜エアポート (同) が収入源の多角化に挑む。日立製作所と人工知能 (AI) を活用した手荷物検査の実証実験を始め、2022年度には両社でシステムの外販を計画する。

AI を使った空港手荷物検査はどういうものかと言うと、具体的には次のような仕組みです。再び引用します。

装置内で撮影した手荷物の X 線画像を AI が分析し検知した物品名をモニター画面上に表示し、ナイフなど危険物が検知された場合は赤枠で表示して注意を促す。


機内持ち込み手荷物は X 線画像を含め検査員が目視で判断しており、検査員にかかるストレスは極めて高いといい、人員確保や育成が課題だった。最終的には目視での判断とするが、AI がサポートすることで検査員のストレス緩和や効率化、安全性の向上につながる。

AI は日々の積み重ねやベテラン検査員のノウハウの学習で、判別能力の向上やスピードアップが期待できるという。日立の社内実験では、すべての手荷物を目視検査する場合と比べ、同じ時間内に検査できる手荷物の数が約 40% 増えた。

AI が人を効果的にサポートし、手荷物検査員の作業負担とストレスの緩和、作業プロセスの効率化ができ、さらには安全性の向上につながります。

効率化は、実証実験では手荷物検査の効率が 40% 高まった結果が出ています。手荷物検査に AI を導入することによって、空港での業務プロセスの省略と効率化が期待できます。


システムの外販


ではここから掘り下げたいのは、先ほどの引用内にあった 「システムの外販」 についてです。

興味深いと思ったのは、南紀白浜空港での手荷物検査をより良くするだけではなく、AI 手荷物検査のそれ自体をシステムとしてビジネス化を目指していることです。これ、やろうとしていることは Amazon の AWS (Amazon Web Services) と同じなんですよね。


Amazon の AWS との共通点


AWS は企業向けのクラウドサーバー事業です。

AWS の顧客企業は自社でサーバーを自ら構築しなくても、AWS を有料で使えばクラウドサーバー機能を得ることができます。AWS とは Amazon のクラウドサーバーの利用権をお金で買うようなものです。

元々 AWS は Amazon が自社の EC ビジネス用に用意したクラウドサーバーでした。その後に外部にも公開し、今では Amazon の収益を稼ぐビジネスになりました。

南紀白浜空港の AI 手荷物検査システムも同じことを狙っています。まずは自分の空港内で導入をしていきますが、他の空港や空港以外のビジネス利用に広げます。


先行優位のビジネス転用


白浜空港が外販でやろうとしていること、そして Amazon の AWS の本質は、一言で表現すれば 「先行優位のビジネス転用」 です。

AI 手荷物検査はまだ他の空港ではやっていなく、業界内で先行している取り組みです。すでに日立製作所と実証実験に着手し、成果として 40% の作業改善も出ています。

今後は空港での実際の搭乗客の手荷物検査にも AI システムを導入し、現場や実務での課題発見としっかりと対応をしていくでしょう。

南紀白浜空港の AI 手荷物検査システムは、他社に先駆けてやっているだけではなく、システム自体を売り物にして収益化にまでつなげるおもしろい事例です。


学べること


では最後に、学べることを整理しておきましょう。

自分たちが持っている専門スキル・ノウハウ・システム・仕組みを自社ビジネスに生かすだけではなく、もっと広く世の中の問題解決に貢献できないかという発想をしてみるといいです

もちろん直接の競合に自社のノウハウを渡して、自社の競争優位性を消してしまうことは避けるべきですが、視野を広げて異業種や他業界にも目を向ければ、自分たちの強みを活かせる領域が見つかります。

外部活用の対象は自社内での先行取り組み事例だけではなく、自分たちができて当たり前だと思っていることも可能性は十分にあります。当たり前にできていることは、実は他人はできないことだったりするので、外の人にとっては重宝されます。

強みの把握と、どうすれば最大限に活用できるかを社内外に、特に異業種にまで目を向けて広げてみるといいです


まとめ


今回は、南紀白浜空港の AI 手荷物検査システムから、新しいビジネスをつくるヒントをご紹介しました。

最後にまとめです。

AI 手荷物検査システム
  • 南紀白浜エアポートと日立製作所が共同で AI を活用した空港の手荷物検査システムを開発中
  • AI が人を効果的にサポートし、手荷物検査員の作業負担とストレスの緩和、作業プロセスの効率化、安全性の向上につながる
  • 2022年度には両社でシステムの外販を計画している

先行優位のビジネス転用
  • 他社に先駆けて開発し空港内への導入だけではなく、システム自体を売り物にして他の空港や空港以外のビジネス利用から収益化を狙っている
  • Amazon が元々は自社用に構築したサーバーを AWS としてクラウドサーバー事業にしたことと同じ

学べること
  • 持っているノウハウ・システム・仕組みを広く世の中の問題解決に貢献できないかを考えてみよう
  • 先行取り組み事例だけではなく、自分たちができて当たり前だと思っていることも可能性は十分はある
  • 強みをどうすれば最大限に活用できるかを、社内外に特に異業種にまで目を向けて広げてみよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。