投稿日 2021/10/05

検温をエンタメ化する 「Thermo Selfie (サーモセルフィー) 」 に学ぶ、ユーザー体験を変え人を動かす方法

#マーケティング #行動分析学 #メリット

出典: PR TIMES

今回はユーザー体験を変え人を動かす方法を見ていきます。

おもしろいと思ったプロダクトから、学べることを見ていきましょう。

✓ わかること
  • 事務的な検温をエンタメ化する 「Thermo Selfie」
  • 人が行動を起こす理由 (行動分析学)
  • 行動分析学に見る Thermo Selfie の魅力
  • Thermo Selfie から学べること

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

Thermo Selfie


今回ご紹介したいのは体温を測る検温のプロダクトです。

名前は 「Thermo Selfie (サーモセルフィー) 」 で、HYTEC (ハイテック) がローンチしました (ニュースリリースはこちら) 。
出典: PR TIMES

検温でセルフィー写真をつくる


建物に入る時やイベント会場入場時に体温を測るのは一般的になっていますが、Thermo Selfie は検温の際に顔写真を撮り、その場で写真付きカードを発行します。

出典: PR TIMES

カード内には体温と検温日時も入ります。

出典: PR TIMES

Thermo Selfie のカードの使い方は、イベント入場後の写真付きネームカードや入場パスにしたり、来場記念になります。また、カードの裏面に告知や案内の QR コードを付けておけば、情報提供やマーケティングにも活用できそうです。

Thermo Selfie のプロモーション動画も付けておきますね。


検温のエンタメ化


Thermo Selfie は検温というユーザー体験を楽しいものに変えます。一言で表現すれば 「義務感のある検温のエンターテイメント化」 です。

検温は事務的なもので手間もかかり、やらずに済むなら検温はしたいとは思わないでしょう。しかし周りの目を気にしたり、そもそも検温をしないと入場や入館ができないので受動的に仕方なくやっています。

Thermo Selfie はセルフィーカードがもらえたり、セルフィーを撮る体験そのものも楽しそうなので義務感はなくなり、能動的に検温をしたくなるような設計がされています。仕方なく嫌々やっていたことにエンタメという要素を加えたことによって、検温のユーザー体験を思い出に残るようなポジティブに変えたわけです。


学べること


では Thermo Selfie から学べることを掘り下げていきましょう。

補助線としてご紹介したいのが心理学の1つである行動分析学です。行動分析学は人が行動する動機を行動の前後に見出し、行動の要因を科学的に分析・検証する学問です。

行動分析学


行動分析学のコアとなる考え方は3つのステップからなる 「きっかけ - 行動 - 見返り」 です。

見返りは二種類ありメリットとデメリットです。メリットは行動分析学では 「好子 (こうし) 」 、デメリットは 「嫌子 (けんし) 」 と呼びます。

人が行動を起こす・起こさないを整理すると、

✓ 行動をする
  • (その行動をすると) メリットがあるから
  • (行動すれば) デメリットがなくなるから

逆に捉えれば行動を起こさないのは、

✓ 行動をしない
  • (それをやっても) メリットがないから
  • (やってしまうと) デメリットがあるから

このように 「メリットのある・なし」 「デメリットのある・なし」 という視点で行動の見返りを見極め、具体的に何がきっかけとなって行動するかを掘り下げるのが行動分析学です。

ちなみに行動分析学では、見返りが行動後60秒以内に発生すると、行動を呼び起こす影響が大きいとされます。

行動分析学から見る Thermo Selfie


ここで Thermo Selfie に話を戻します。

Thermo Selfie を行動分析学に当てはめると、これまでは検温という行動をするのは 「やらないとデメリットが生じるから」 でした。デメリットは例えば、入館できない・周りの人から自分が不審に思われることです。だから心理的には面倒と思いながらも義務として事務的に検温をやっていました。

一方の Thermo Selfie は検温という行為をエンタメ化します。行動分析学で言えば 「セルフィーが楽しい」 「記念のカードがもらえる」 というメリットを検温の見返りとして用意しています。

行動分析学の 「きっかけ - 行動 - 見返り」 で整理をすると、次のようになります。

✓ 行動分析学から見る Thermo Selfie
  • 一般的な検温: 来場 → 事務的な検温 → デメリットを生じさせないために仕方なくやる
  • Thermo Selfie: 来場 → エンタメ的な検温 → メリットがあるから喜んでやる

行動分析学の観点から Thermo Selfie にはうまいなと思う仕組みがあります。

ユーザー体験を変え人を動かす方法


では最後に、Thermo Selfie から私たちがビジネスに学べることを見ていきましょう。

相手に行動を促したい時に、デメリットではなくメリットによって動いてもらえないかを考えてみるといいです。

確かに 「それをやるとデメリットがなくなるから」 は、人が行動を取ることに影響を及ぼします。しかしここには楽しさやワクワク感はありません。

そうではなく 「これをやれば嬉しいことがある」 と、相手にとってのメリットを作り出せないかを考えてみるのです。例えば、ビジネスのシーンではお客さんや生活者に対して、「自分たちの商品やサービスを使えばこんなメリットがある」 というのを、お客の立場になりお客の言葉で表現して相手がイメージしやすいように伝えます。

他には上司や同僚、他部署の人との仕事のやり取りにも、行動分析学や Thermo Selfie の 「作業のエンタメ化」 はヒントになります。

あとは、他人ではなく自分の行動にも応用ができます。何かをやりたい・行動したい・習慣を変えたい時に、自分にとってのメリット (や時にはデメリット) を見極め、見返りをつくる工夫してみてはいかがでしょうか?


まとめ


今回は、検温をエンタメ化する Thermo Selfie を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

行動分析学から見る Thermo Selfie
  • 一般的な検温: 来場 → 事務的な検温 → デメリットがない
  • Thermo Selfie: 来場 → エンタメ的な検温 → メリットがある

ユーザー体験を変え人を動かす方法
  • 相手に行動を促したい時に、デメリットではなくメリットによって動いてもらえないかを考えてみよう
  • お客さんや生活者に 「自分たちの商品やサービスを使えばこんなメリットがある」 と相手がイメージしやすいように伝える
  • 自分の行動や習慣を変えたい時に、メリットを見極めて見返りをつくる工夫してみる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。