投稿日 2022/06/08

サッカーシューズ 「モレリア」 。40年近く変わらないコンセプトに学ぶブランドのつくり方

出典: ミズノ

今回のテーマはマーケティングでのブランドです。

おもしろいと思ったミズノのサッカーシューズを取り上げ、マーケティングの観点で学べることを見ていきます。

✓ この記事でわかること
  • サッカーシューズ 「モレリア」 
  • 40年近く変わらないコンセプト
  • 「変わらないために、進化する」 とは?
  • 学べること (ブランドのつくり方) 

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

ミズノのサッカーシューズ 「モレリア」 


ご紹介したいのはミズノのサッカー用スパイクです。名前は 「モレリア」 といいます。

出典: Kohei's BLOG

素足感覚の追求


以下は日経新聞の記事からの引用です。

発売から30年以上たっても、コンセプトが変わらないサッカーシューズがある。ミズノの 「モレリア」 だ。

ブラジル人選手の意見を取り入れて開発し、「素足感覚」 を追究してきた。パリ・サンジェルマン FC のセルヒオ・ラモス選手らスターが着用する。1人の男の情熱が、当時はサッカーブランドのなかでは弱小だったミズノから名シューズを生み出した。

開発の経緯


モレリアの開発が始まったのは今から40年ほど前にさかのぼります。

開発の経緯を見てみましょう。

モレリアの開発が始まったのは1983年のこと。開発に協力したのはミズノと契約していた水島武蔵氏だ。水島氏はブラジルの名門 「サンパウロ FC」 の下部組織を経て1984年にプロ契約を結んだ海外組の草分け的な存在だった。安井氏は何十足ものシューズを送り、感想を聞いた。水島氏の影響を受けて試してくれた同僚のチームメートたちからは 「軽さ、柔軟性、素足感覚が欲しい」 との意見をもらった。

素足感覚とは、足の指で蹴る感覚のことだ。ブラジルでは子ども時代に貧しさからはだしでプレーしていた選手が多く、足の裏でボールをこねて小指で蹴る傾向がある。そのため指を動かせてボールの感触が分かる製品が求められた。「日本では当時、足の裏を使う選手は珍しかったため驚いた」 と安井氏 (引用者注: モレリアの生みの親であるミズノの安井敏恭氏) は振り返る。

素足感覚の実現へ向けて工夫を重ねた。素材は厚くしないと強度の出ない牛革 (ぎゅうかわ) ではなく、軽くて柔らかく、丈夫なカンガルー革を使った。つま先には高反発の薄いスポンジを入れ、フィット感を高めた。当時はブラジルのプロでもゴムの靴底の粗悪品が履かれていた。そのためモレリアの試作品を水島氏に送ると、サンパウロの多くの選手が欲しがったという。

 「変わらないから、進化する」 


モレリアは発売以来コンセプトが一貫しています。素足感覚を追求する姿勢は変わっていません。

モレリアは1985年の発売以来、コンセプトを変えていない珍しいシューズだ。「何年たってもサッカーはボールを止めて、走って、蹴って、ゴールを決める競技。求めるモノは変わっていないはず」 と安井氏は強調する。

ただ機能面ではアップデートを重ねてきた。2020年に発売したフラッグシップモデル 「モレリア2ジャパン」 は、靴底を重いポリウレタンから、水に浮くような軽い素材に変えた。中底は不織布製 (ふしょくふせい) のボードから、樹脂に置き換えて耐久性を高めた。「1グラムでも軽い素材を探した」 (安井氏) 。メーカーのたゆまぬ努力が、選手を足元から支えている。

モレリアの公式サイトには 「変わらないために、進化する」 とあります。

ここまでの文脈を踏まえればモレリアはコンセプトは変わらず、より高いレベルで素足感覚を実現するために進化するシューズです。

* * *

ある社長の言葉との共通点


モレリアの 「変わらないために、進化する」 で思い出したのはある社長の言葉でした。

私が新卒で入った会社の当時の社長の言葉で今も印象に残っています。

 「変えないことを知っているから、全てを変えることができる」 

文だけを読めば矛盾しているように見えるかもしれません。しかし、この言葉の真意はまず変えないことを見極めて、何を変えないかを知っているからそれ以外の全ては変えることができるという意味です。

変化することの重要性と、同時に 「変えないこと」 を持つことの大事さです。


ブランドのつくり方 (学べること) 


今回の話からの学びとして深めたいのは、マーケティングのブランディングについてです。

モレリアの変わらないコンセプト


もう一度モレリアに話を戻すと、開発に着手した40年前からコンセプトはブレずに変わっていません。「素足感覚のシューズ」 で一貫しています。

コンセプトが定まっているからこそ、やろうと思えば技術的にはできることもコンセプトに合わなければ実装しないという判断ができます。リニューアルでは全てのパーツを見直したわけですが、ゼロベースからの判断のよりどころが 「素足感覚」 というコンセプトだったわけです。

こうした商品の奥にある一貫性のある世界観が独自性をつくり、他とは違うブランドになるのです。

ブランドのつくり方


マーケティングの観点でのブランドとは 「商品やサービスに対する顧客からの好ましい認識」 です。あくまでお客さんの頭の中にある価値へのイメージがブランドです。

価値イメージは商品やサービスの体験からできあがります。たった一度のユーザー体験でブランドになることもあれば、1つ1つの体験が積み重なり一定期間を経てイメージが形成されることもあります。

今回ご紹介したモレリアは両方の側面があります。初めてモレリアを使い素足感覚でボールを蹴れるイメージが一度でできることもあれば、モレリアを履いてサッカーをプレーした時の感覚が蓄積し、時間を経て他のスパイクとは違う特別なモレリアへの価値イメージができる場合もあるでしょう。

発売以来、一貫してコンセプトを変えなかったからこそ多くのサッカー選手の間で共通するモレリアの価値イメージができました。モレリアの 「らしさ」 が生まれモレリアへの独自のイメージが定着し、結果としてブランドになったのです。


まとめ


今回はミズノのサッカーシューズ 「モレリア」 を取り上げ、マーケティングのブランドに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ ブランドのつくり方
  • ブランドとは、商品やサービスに対する顧客からの好ましい認識。お客さんの頭の中にある価値へのイメージ
  • 価値イメージは商品やサービスの体験から
  • 一貫して変わらないコンセプトを体験すれば、顧客の中で商品・サービスの 「らしさ」 が生まれる。独自の価値イメージが定着した結果としてブランドになる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。