投稿日 2022/06/28

スマートアパレルが普及しない理由は、イシューなきイリュージョン (幻想) だから


今回のテーマは、問題設定です。

興味深いと思ったスマートアパレルの話をご紹介し、マーケティングに学べることを見ていきます。

✓ この記事でわかること
  • スマートアパレルが普及しない理由とは?
  • イシューなきイリュージョンの提供
  • 問題設定の重要性と順番 (学べること) 

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

スマートアパレルが普及しない理由


こちらの記事を読みました。

スマートアパレルが普及しない理由 -- ヘルスケア業界のホープの課題|CNET Japan

翻訳記事で、元の記事はこちらです (タイトルは Why Smart Clothes Are Still Years Away From Entering Your Wardrobe) 。

日本語の記事のリード文を引用します。

10年以上前から、ファッションとアパレルの明るい未来がまもなくやってくると宣伝されてきた。センサーと次世代の繊維を用いたスマートアパレルは、私たちの衣服をヘルストラッカーに変身させる可能性を秘めている。

こうしたアイデアを提唱しているのは、スタートアップだけではない。Levi's や Under Armour のような企業も、タッチ操作でショートカットを利用できるジャケット、日常生活の中で装着者の動きや健康状態に関する情報を追跡するワークアウトギアなどのアイデアを考案してきた。

しかし、これらのアイデアはまだ現実世界で確固たる成功を収めていない。研究者はセンサーや回路を衣服に織り込む技術を改良してきたが、スマート繊維は通常の衣服に比べると耐久性や防水性が低く、正常に機能するためには、常に装着者の肌に触れている必要がある。

さらに、もっと大きな問題もある。スマートウォッチがあらゆる種類のヘルスデータを記録できるようになった今、スマートアパレルの方が適しているユースケースがまだ見つかっていないのだ。

記事の中で特に印象的だったのは、以下でした。

スマートアパレルを毎日着たくなるような 「キラーアプリ」 が登場する前に、デザイナーは、衣服でなければ解決できない問題を特定する必要がある。

アナリスト企業 IDC のリサーチディレクターを務める Ramon T. Llamas 氏は、「スマートアパレルでなければ解決できない問題が見つからない限り、スマートウォッチやフィットネストラッカーにさらに後れを取るだろう」 と話す。「有望な用途がなければ、これらのセンサーはすべて無駄になる」 

ここに、スマートアパレルが普及しない理由が集約されています。

ちなみに、元の英語の記事には本文に入る前 (タイトル直下) に次のように書かれています。

Yes, we can put sensors in clothes -- but there still isn't a great reason you can't use a smartwatch instead.

日本語に訳せば、「衣服にセンサーを埋めることはできても、スマートウォッチではなくスマートアパレルを使う決定的な理由はまだない」 です。


イシューなきイリュージョン


スマートアパレルが普及しない理由について、一言で自分の理解を言えば 「イシューなきソリューションの提供だから」 です。イシューとは問題設定、ソリューションとはスマートアパレルという解決策です。

本来、解決策というのは、前提となる問題設定があって初めて生まれます。しかし、問題の設定が曖昧な状況では、解決策は机上の空論になります。この状態になっているのがスマートアパレルなのです。

スマートアパレルが普及しない理由を 「イシューなきソリューション提供」 としましたが、言葉だけを捉えれば矛盾していますよね。イシューという問題設定がないのに、ソリューションであるスマートアパレルが普及しないのは当然とも言えるでしょう。

少し皮肉めいた言い方になってしまいますが、ソリューションではなく 「イシューなきイリュージョン (幻想) 」 になっているのです。


学べること


では、今回のスマートアパレルの話から学べることを整理してみましょう。

一言で表現すれば、学びは 「イシューからはじめよう」 です。

今回の話で言えば、スマートアパレルでしか解決できない問題が見出され、それを解決することで利用者にベネフィットがもたらされる必要があります。ベネフィットとは、今まで困っていたことを解決してくれる、使っていて普通の衣服にはない 「スマートアパレルならではの便利さやうれしさ」 です。

特にスマートアパレルのような新しいものはそうです。いくらすごい技術でも (研究対象としては良いかもしれませんが) 、普通の人々に普及するには、それでしか得られない価値があったり、持っていないと損をするぐらいのベネフィットが必要なわけです。

出発点になるのはイシューという問題設定です。

技術やアイデアがすばらしいと、解決策を磨くことに目が行きがちです。しかし一歩立ち止まり、そのアイデア・技術や商品は、

  • 誰に向けたものか
  • その人の何の問題を解決するのか
  • その問題はお金を払ってでも解決したいと思えるものか

を明確にすることが大事なのです。イシューがあってのソリューションで、これを忘れないようにしたいです。


まとめ


今回はスマートアパレルの普及への課題を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後にまとめです。

✓ イシューからはじめよう
  • 解決策は問題設定があって初めてできる。問題の設定が曖昧な状況では、解決策は机上の空論になる
  • すごい技術でも、普通の人々に普及するには、それでしか得られない価値、持っていないと損をするぐらいのベネフィットが必要
  • 解決策の前に、誰の何の問題を解決するのか、その問題はお金を払ってでも解決したいと思えるものかを明確にすることが大事


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。