投稿日 2022/08/28

日本初の 「お守り NFT」 を買ってみた。マーケティングの格言 「ドリルと穴」 から考えるお守り NFT の価値とは?


今回は、おもしろいと思った日本初の 「お守り NFT」 をご紹介し、マーケティングの視点も入れて考えさせられたことを書いています。

✓ この記事でわかること
  • 日本初の 「お守り NFT」 が登場
  • 実際に買ってみての所感
  • 初めて NFT を買う人にとっての高い購入ハードル
  • NFT でしかできない価値は何か?

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

お守り NFT


千葉市にある検見川 (けみがわ) 神社が、古事記 project と共同で 「お守り NFT」 を発売しました (リリースはこちら) 。

お守りを NFT にするのは日本初とのことです。

公式サイトはこちらで、おもしろいと思ったので 「ウォレット安全守」 を1つ買ってみました。

買ってみた 「お守り NFT」 。これでウォレットは安全!

お守りは10種類


お守りのラインナップは全部で10種類です。

  1. ウォレット安全守
  2. 詐欺除 (よけ) 御守
  3. 合格祈願守
  4. 家内安全守
  5. 開運厄除守
  6. 必勝祈願守
  7. 商売繁盛守
  8. 恋愛成就守
  9. 健康御守
  10. フロアプライス下落除守

出典: Twitter


10種類のうち、ウォレット安全守、フロアプライス下落除守、詐欺除御守の3つは仮想通貨や NFT ならではのお守りでユニークですよね。

ちなみに価格は 0.005 ETH で、1 ETH を22万にして換算すると、1100円くらいの価格感です。

NFT ならではの方法で焚き上げを再現


おもしろいのは、お守りの焚き上げを NFT ならではの仕組みで実現していることです。

焚き上げとは、お守りやお札、他には人形などを感謝の気持ちを込め、火によって燃やして神様にお返しすることです。

NFT には Burn (バーン) という方法があり、NFT をバーンすると NFT は消去されます。英語の burn には燃えるという意味があるので、お守り NFT をバーンすることでブロックチェーン上で焚き上げることをうまく再現しています。

検見川神社のお守り NFT は、購入後 (NFT 発行後) からちょうど1年後に自動的にバーンされるようプログラムされています。1年の期間限定のお守りになっているわけです。

お守り NFT はその時点でなくなりますが、バーン後には新しい何かしらの NFT が提供されるとのことです。

今後の構想


お守り NFT のこれからの構想について、cnet Japan の記事に次のように書かれていました。

今後は、2022年9月に定番の御朱印 (ごしゅいん) や毎月月替わりの御朱印を販売する 「御朱印 NFT」 、12月頃に 「ご奉納 NFT」 を発売する予定。

将来的にメタバース上にも神社を設置し、ご奉納 NFT の購入者は、メタバース神社に購入者の名前 (会社名) が刻まれた鳥居や灯篭を設置する予定だ。

実際に買っての所感


ここからは、お守り NFT について思ったことです。

3つあります。

✓ 思ったこと
  • おもしろいアイデア
  • 初 NFT の人には買うハードルが高い
  • NFT でしかできない価値があるか

順番にご説明しますね。

おもしろいアイデア


NFT というと、一般的にはアート作品やゲーム用のアイテムが主流です。

一方、お守り NFT は、日本には古くからあり馴染みのあるお守りを NFT 化していて、この発想はおもしろいです。

初 NFT の人には買うハードルが高い


次に思ったのは課題です。

すでに NFT を買ったことがある人にとっては、お守り NFT は気軽に買えます。私は NFT をいくつか持っているので、検見川神社のお守り NFT を買うのは普通のネット購入よりもむしろ簡単でした。

サイトに自分の仮想通貨専用のデジタルウォレット MetaMask (メタマスク) を接続するだけでいいので、クレジットカード、名前やメールアドレスをいちいち登録する必要なく、サクッと買えた体験には感動すらありました。

しかし、今までに一度も NFT を買ったことがない人には、お守り NFT を買うのはハードルが高いです。仮想通貨のイーサでしか決済できず、ウォレットのメタマスクを使わなければいけないからです (逆に言えばこれらがすでにあれば手間なく買えます) 。

今までに NFT を買ったことがない人は、以下の手順で買うことになります。

✓ 初 NFT の人がやること
  • 暗号資産取引所で口座開設をする (個人情報登録, 本人確認書類データの提出) 
  • 銀行口座から日本円を暗号資産取引所の口座へ入金
  • 入金した日本円を使い取引所で仮想通貨イーサを購入
  • ウォレットのメタマスクを取得 (新規アカウント登録) 
  • 取引所からウォレットへイーサを送金 (ウォレットアドレスを手動でコピペ) 
  • お守り NFT のサイトにウォレットを接続
  • お守り NFT を購入。ウォレット内に NFT が保存される

ざっとこれだけの手間があり、かつ入金や送金には手数料がかかります。お守り NFT の購入の時にもイーサリアム上での手数料のようなガス代が発生します。

NFT が初めての人にとっては、ここまでしてお守り NFT を買う価値があるかの天秤にかけることになるわけです。

NFT でしかできない価値があるか


検見川神社のお守り NFT を買ってあらためて考えさせられたのは、NFT にすることで初めて生まれる価値は何かです。

要するに NFT でしかできないことはあるのかですよね。今までの物理的なお守りにはない 「NFT お守りにしかないメリット」 があり、上記の物理的なお守りを買うよりも手間であるデメリットを超える価値があるのかです。

NFT は、保有者情報であるユニークなアドレスが紐付いています。この情報はブロックチェーン上に記録され改ざんは不可能です。

一般的な物理的なお守りにはない NFT ならではの特徴を活かして価値につなげられるかが肝です。例えば、

  • お守り NFT を持っている人にしか参拝できないイベントが開催される (例えばメタバースで) 
  • 持っていると神主さんが特別にお祓いをしてくれる (年に1回限定とか) 
  • 検見川神社のコミュニティに参加できる
  • (もし保険会社とも連携されれば) NFT や仮想通貨の盗難被害に合った時の保険が提供される

など、お守りを持っていることでの御利益 (ごりやく) を願うだけではない、NFT でしかできない保有メリットを実現できるかです。

マーケティングの格言からの着想


マーケティングで有名な格言に 「お客さんが買ったのはドリルだが、本当にやりたいのは穴を開けることである」 という言い回しがあります。

これが意味するのは、売り手はドリルという商品を売ったと思っているが、お金を払ったお客さんにとってドリルは穴を開けるための 「手段」 として買ったのであり、ドリルの先にある 「お客さんの本当のニーズ」 を捉えることの重要性を言っています。

お守り NFT も同じで、お守り NFT 自体はあくまでドリルです。

では 「穴は何か」 なんですよね。もっと言うと、穴を開けることもまた手段なので、穴を開けて何をつくりたいかです。お守り NFT にとっての 「穴」 や 「穴を開けて何をしたいか」 を、NFT でしかできないことで実現できれば、NFT ならではの価値につながります。

検見川神社のお守り NFT のホルダーの1人として、今後の展開に期待したいです。


まとめ


今回は日本初のお守り NFT を取り上げて、マーケティングの観点も入れながら考えたことを共有させてもらいました。

最後に、後半で見た価値創出のところを一般化してまとめておきます。

✓ お客さんが欲しいのはドリルではなく穴
  • 売ったのはドリルという商品だが、買い手にとってドリルは穴を開けるための手段。もっと言えば、穴を開けることもまた手段
  • 穴を開けた先に何をしたいのかドリルの先にあるお客さんのニーズを捉えることが重要
  • 売っている商品やサービスを 「手段」 と捉え、手段の先のお客さんの本当の望みや、解消したい不満を理解して価値につなげよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。