投稿日 2022/08/30

スタバとコクヨの SDGs ノート。「こだわり」 を競争優位をつくる源泉にしよう

#マーケティング #戦略 #競争優位


今回のテーマは競争優位のつくり方です。「こだわり」 を競争優位をつくる源泉にしようという話です。

おもしろいと思ったスタバとコクヨの共同開発ノートの事例から、戦略やマーケティングに学べることを見ていきましょう。

✓ わかること
  • スタバとコクヨの SDGs な 「スターバックス キャンパスリングノート」 が人気
  • 独自ノートを作った3つのこだわり
  • 競争優位の源泉
  • 「こだわり」 が生まれた瞬間に 「とらわれ」 の始まりとなる

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

スタバとコクヨの共同開発ノート


スタバのロゴが入ったキャンパスリングノート (出典: FASHION PRESS

スタバとコクヨの共同で開発した SDGs のノートが人気とのことです。

 「スターバックスキャンパスリングノート」 が、2019年の発売以来、好調をキープしている。これは、スターバックス コーヒー ジャパン (東京・品川) と、オフィス家具や文房具の製造販売を手がけるコクヨのロングセラー 「キャンパスノート」 のコラボアイテムだ。

ノートの表紙と裏表紙に、全国のスターバックスの店舗から回収した使用済みミルクパックを原料として作った板紙を使用したサステナブルな製品で、開発や製造をコクヨが担い、表紙や中紙のデザインなどをスターバックスが手がけた。

定番カラーの 「ホワイト」 をはじめ、クリスマス用の 「ホリデー」 や 「さくら」 といった季節ごとの限定商品を、2022年3月までに27アイテムを販売。店頭に並ぶとすぐに売り切れるほどの人気ぶりだという。

3つのこだわり


記事で興味深かったのはオリジナルノートを作るにあたって、いくつかの 「こだわり」 があったことです。

原料をミルクパック 100% に


スタバは、ノートの板版 (表紙と裏表紙) の原料にはスタバで使っているミルクパックだけを使うことを求めました。原料として 100% にするというこだわりです。

当初コクヨ側は、品質を担保しやすいなどの理由からミルクパックを一部使用した製品を提案した。しかし、スターバックスはミルクパックのみを主原料とすることにこだわった。そのため、用紙の開発に時間を要したという。

ただ、スターバックスからの要望をネガティブに捉えたわけではない。むしろ、サステナブルな取り組みに熱心な姿勢は、コクヨにとって製品づくりへの大きな気づきとなったと衣川氏 (引用者注: コクヨのステーショナリー事業本部文具本部文具開発部部長) は振り返る。

 「ミルクパックを主原料に、限りなく 100% に近い形で紙を作ってほしいとお話をいただいたときは、正直、かなりのチャレンジだなと思いました。と同時に、『さすが循環型の企業だな、配慮が行き届いている』と感心しました。そこへの強いこだわりは気づきになりましたし、高いハードルを踏み越えて挑戦するきっかけにもなりました」 (衣川氏) 

お客に寄り添うデザイン


2つ目のこだわりはノートのデザインです。

単に再生紙を使ったノートにするのではなく、スタバ店内で使いたいと思えるデザインや使い勝手を目指しました。

スターバックスは、来店した顧客が思わず手に取りたくなるような魅力的なデザインや、実際に店頭で利用する際の使い心地のよさを追求した。

 「今回我々が、コーヒーにまつわる製品としてノートを選んだのは、来店してくださったお客様がノートを使って、勉強や仕事ができる、つまり、お客様に寄り添えるアイテムだと思ったからです。環境にやさしいことはもちろんですが、それ以上にお客様に『かわいい』『すてき』と思っていただけるデザインかどうかは、かなりこだわりました。使い心地も重要なため、小スペースでも使いやすいリングノートにし、中身をケイ線ではなく方眼タイプにすることで、勉強からビジネスまで幅広く活用いただけるのではないかと考えました」 (普川氏 (スターバックスのサプライチェーン本部サステナビリティ & 資材購買部エシカルソーシング・サステナビリティチーム) ) 

後工程への配慮


先ほどのノートの原料に使われるミルクパックの扱いにもスタバのこだわりが見られます。

回収業者の人が驚きを隠せないくらい丁寧に使用済みのミルクパックを扱っているとのことです。

スターバックスの店舗で出たミルクパックを専任の業者が回収し、コクヨが提携する大阪の製紙工場へ持ち込むまでにも、いくつもの工程がある。それぞれがうまく連携を図り、スケジュールを調整する必要性にも迫られた。そうした手間をかけたからこそ、ミルクパックを再生させた、質の高いアップサイクル製品が実現した。

 (中略) 

 「スターバックスの店舗の方々がとてもきれいに洗い、乾かし、きちんとたたんでいることを回収・配送業者の方が驚いていました。普通、古紙はいろんな色が混じるので、白くならないことも多いのですが、きれいに下処理されたミルクパックだけを使ったから実現した白さです。製紙工場が1社のために製造ラインを空けるための調整は大変ですが、再生紙はなかなか日の目を見ないため、工場の皆さんもすごく喜んでくれました。そうした思いの連鎖が、製品の実現につながっていくのだなと感じます」 (衣川氏) 

それぞれのこだわりが詰まったスターバックスキャンパスリングノートは、初めて販売されるやいなやわずか1日半で完売した。現在では、コレクションアイテムのように新製品を楽しみにしている人も少なくないようだ。

スタバから見て後工程に配慮されているからこそ回収業者や製紙工場の人も巻き込み、高い理想を実現するノートが生まれたのです。


学べること


ではスタバとコクヨが共同開発をしたノートから、学べることを掘り下げていきましょう。

差異化の源泉になる 「こだわり」 


スタバとコクヨの 「こだわり」 は一見すると非効率なことばかりです。

ミルクパックをノートの板版の原料 100% にすることは簡単ではありません。また、使い終わったミルクパックは普通なら雑に扱うはずですが、スタバの店員さんは1つ1つ丁寧に洗いきちんと折りたたんでいます。お客さんへの満足度向上に直接つながることではなく、扱い方が悪くなってもおかしくありません。

しかし非合理とも言えることを妥協なく貫いたからこそ、他にはないオリジナルのノートを作れたわけです。「こだわり」 がノートの差異化の源泉になっているのです。

 「こだわり」 は諸刃の剣


ここまで 「こだわりが独自の商品を生む源泉である」 という話でした。

1つ注意点があります。

こだわりは行き過ぎると 「とらわれ」 に変わってしまいます。自分の独りよがりのこだわりは、ともすると相手、例えばお客さんには場合によっては 「ありがた迷惑」 になります。

具体的な例は機能性をこれ以上は必要ないようなレベルまで上げることにこだわることです。こうなると 「とらわれ」 の状態です。お客さんから見れば不要な機能になるだけで、高機能な分だけ無駄に高い価格になってしまいます。

こだわりができた瞬間とは 「とらわれの始まり」 でもあります。「こだわり」 と 「とらわれ」 の違いは紙一重で、こだわりは諸刃の剣です。

こだわりを持って自らの矜持を示すことは大事です。競争優位の源泉につながります。一方で 「顧客不在の自社都合のとらわれ」 にならないように注意が必要です。


まとめ


今回はスタバとコクヨが共同開発したノートを取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 差異化の源泉になる 「こだわり」 
  • 一見すると非合理なことも妥協なく貫くと、他にはない独自性のある商品やサービスができる
  • 「こだわり」 とは他者 (他社) はやっていないことなので差異化の源泉になる
  • ただし、こだわりは行き過ぎると 「とらわれ」 に変わる。自分の独りよがりのこだわりは場合によっては 「ありがた迷惑」 になってしまう
  • こだわりを持つことは大事だが、「顧客不在の自社都合のとらわれ」 にならないように注意しよう


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、今日から活かせる学びを毎週お届けします。

レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。