本当にお客さんのことを理解できているでしょうか?
この答えはビジネスの成功を左右します。
お客さんの置かれた環境や生活状況、考え方や心理、ニーズ、奥にある本当の望みや不満、さらには何に価値を見出しているかの価値観に至るまで、深く掘り下げた顧客理解がなければ、お客さんの心をつかむ価値提案は難しいものです。
今回は、顧客文脈と価値提案をキーワードにしてマーケティングを成功させる勘所を解説していきます。
シニア向けスニーカーのマーケティング
マーケティングサイエンティストでコレクシア執行役員の芹澤連さんと、ニューバランスジャパン・マーケティング部でディレクターを務める鈴木健さんの対談がおもしろかったです。
特に興味深かったのは 「顧客文脈に合わせた価値提案」 の議論でした。
コーホート (同じ時期に生まれた人の生活様式や、行動、意識や価値観などから形成される世代集団) に注目し、その顧客集団の中で共通の体験や価値観に響くような価値を提案する、という話です。
芹澤 カテゴリーの中で特定層の比率が増加すれば、当然その層へのインクリメンタル (incremental = 増分) な浸透が重要になってくる。色々な業界が 「どうやってシニア層を取り込むか」 「シニア層に浸透させる方法はないか」 について考えています。シニア層に向けたマーケティングを考えるとき、持っておきたい視点とは何でしょうか?
鈴木 2つの視点があると思います。1つは、その年代の 「コホート (集団) 」 です。その年代の人たちが若い時代に経験したカルチャーを、どう再現するのかが重要になってきます。
芹澤 コホートはすごく大事な観点ですね。平たく言えば、ある時代背景を共有している層。例えば中高年層でも、バブル期を経験した世代と、その後の就職氷河期を経験した世代とでは物事の見方やカルチャーに大きな違いが出てくる。そういう世代の切り方をするときに、コホートの視点が使われます。
鈴木 もう1つの視点は 「商品の進化」 です。シニア層は別に新しいものが欲しいわけではなく、むしろ自分が懐かしいと思っている時代のカルチャーをそのままキープしたい。ただし、商品としてはアップデートされているほうがいいわけです。
シニア層が若かった昔には重くて動きづらかったスニーカーが、見た目は若い頃に使っていたのと似ているのに、技術の進歩により軽くて動きやすいスニーカーへと進化している。なので、若い頃より体力も運動能力も衰えたシニア層でも、現代のスニーカーなら快適に使えます。
芹澤 そこに商品の進化がある、と。
鈴木 スポーツを楽しんだ若い頃のカルチャーはそのままで、その時代にはなかった 「機能的な使いやすさ」 を実現することで、シニア層にも喜ばれるスニーカーに進化しているわけです。
芹澤 得心しました。確かにそういうコホート起点のブランドの再解釈もありますね。年を取り、生活環境や家族構成も変わっていく中、全く新しいところから商品を提案するよりも、未顧客にそもそも備わっているコンテクスト、今回で言えばコホートやカルチャーから再解釈の筋を見つけて、それをテクノロジーや機能の進化で実現していく…… これはいろんなところで応用が利きそうです。
お2人の議論を整理しておくと、次のようになります。
- コーホート (集団) では、その世代が独自に持っている体験や価値観、たとえば若い時代に経験した流行やトレンドに注目するといい
- 世代ごとの価値観やものの見方・考え方、カルチャーの違いを理解し、ターゲットに合わせたアプローチをすることが大事
- たとえば、年を重ね、生活環境や家族構成も変わったシニア層に全く新しいところから商品を提案するよりも、技術や機能の進化とシニア層に共通する文脈 (例: 懐かしい昔のカルチャーを大切にしたい気持ち) をつなげて再解釈した商品の魅力を提案する
顧客文脈にもとづくマーケティングの重要性
ここまでの話から学べるのは、顧客文脈に合わせた価値提案の重要性です。
マーケティング活動を実行していく際には、
- ターゲットとするお客さんの思考や心理、ニーズ、奥にある本当の望み、不満、何に価値を見出しているかの価値観までを深く理解する
- お客さんの文脈に応じた商品やサービスを伝え、提供すること
がビジネスの成功のカギを握ります。
シニア層の感情的価値への理解
今回のケースでは、シニア層がスニーカーに対して抱く 「あの当時の自分が懐かしいと思っている時代のカルチャーをそのままキープしたい」 という気持ちです。
シニア層がスニーカーに求めていることは、あの頃に憧れたり実際に履いていた靴をもう一度履きたいという思いです。懐かしい気分に戻れたり、気持ちが若くなったように感じたいなどの感情的な価値を求めているわけです。
シニア層が欲しいと思えるスニーカーは、新しい機能性を追求した最新のものというよりも、過去に愛用していたデザインやブランドの世界観やカルチャーを思い出させる商品です。しかし、単に過去の当時のスニーカーをそのまま再度提案しても、年齢を重ねた今のシニア層には昔と同じよう欲しいとは必ずしもならないでしょう。
よって、デザインが懐かしいということだけではなく、シニア層の現在の生活状況や身体的な変化を考慮した別の新しい要素で背中を押す訴求が必要になります。
技術的進化をどうシニア層に伝えるか
その1つが商品の技術的な進化により、シニア層にも使いやすくなっている点です。
シニア層が若かった昔には重くて動きづらかったあのスニーカーが、見た目は若い頃のデザインと似ているのに、今は技術の進歩により軽くて動きやすいものへと進化しているスニーカーです。
昔に比べて体力が落ちたと感じているシニア層でも、軽量化や履き心地の改善など、技術の進歩により快適に使用できるとなれば、「これなら今の自分で快適に履けそうだ」 と思ってもらえるのです。
このように懐かしさを感じてもらいつつも、最新の技術でアップデートされた商品を提供することで、シニア層にとっての新しい魅力を生み出すことができます。
顧客理解からの価値提案を
ビジネスにおいては、ターゲットとする顧客集団が共有するニーズや望み、特有の価値観を深く理解することが不可欠です。
そうした顧客理解をもとに、相手の顧客文脈 (生活環境, 過去の体験, ニーズや不満, 価値観など) に合わせた価値を提案することが大事です。
今回の事例は、マーケティングにおける顧客設定、顧客文脈の理解にもとづいた価値提案の重要性を教えてくれます。商品やサービスをお客さんに訴求する際には、単に機能性や性能の向上だけでなく、お客さんの感情や生活状況などの 「顧客文脈に合わせた価値提案」 が成功につながります。
お客さん1人ひとりの背景やニーズを深く理解し、それも今だけではなくコーホートの視点から時間軸を長く捉え、顧客文脈に応える商品開発とマーケティングを展開することが、ビジネスの成長のためには重要なのです。
まとめ
今回はコーホートという切り口から、お客さんへの価値提案について考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- お客さんの深い理解がビジネスの成功のカギを握る。具体的には、ターゲットとするお客さんの考え方や心理、ニーズ、奥にある本当の望み、不満、何に価値を見出しているかの価値観まで
- お客さんを理解し、顧客文脈 (生活環境, 過去の体験, ニーズや不満, 価値観など) に合わせた商品開発や価値提案が大事
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