投稿日 2024/06/11

オルビスに学ぶリブランディングの落とし穴。パッケージを安易に変えるリスクとは

#マーケティング #ブランド #独自ブランド資産

自社のブランドを一目見ただけで認識し、選んでくれるお客さん。この貴重な関係は、ロゴやパッケージデザインといった 「独自ブランド資産」 によって築かれています。

しかし、リブランディングの過程でバッケージなどを大きく変更してしまった場合、今まで何年もかけて築き上げた 「資産」 を失う危険性があります。

今回は、リブランディングで陥りがちな罠と、お客さんの立場から考える本当の顧客価値は何かを掘り下げます。お客さんの心をつかみ続ける秘訣を、ぜひ一緒に探っていきましょう。

オルビスのリブランディング


化粧品メーカーのオルビスは2018年に、リブランディングに合わせて経営全体の構造改革を行いました (参考記事) 。

構造改革の背景


構造改革の背景は、総合通販会社として成長してきたオルビスの強みであった 「幅広い種類の商品を売る」 というやり方が限界に達していたことです。

なんとかしようと毎月のように新商品を出したり、キャンペーンやセールを実施していましたが、むしろ利益率を低下させている状態でした。

この状況を打破するため、2018年にオルビスはスキンケアを中心としたビューティーブランドへとリブランディングすることを決断します。

変えなかったヘアミルクのパッケージデザイン



リブランディングを進める上で、当時 1300 ほどもあった SKU (商品の最小管理単位) を減らしました。売上、販売数などの数値基準にもとづき廃番とする商品を決め、特に非スキンケア商品はより厳しい基準で廃品を決定していきました。

SKU を減らす中で目に留まったのがヘアミルクでした。

ヘアミルクは廃品ではなく残すことになりましたが、現場メンバーからはボトルデザインの変更の提案が挙がりました。しかし、オルビスの小林琢磨社長はこれには同意しませんでした。

リブランディング後の世界観とヘアミルクのパッケージデザインがなじまないことから、商品企画部からはすぐに 「ヘアミルクのボトルデザインを変えたい」 という声が上がった。12年前にカタログ上で目立つように設計された、いかにも通販化粧品という見た目から、より洗練されたデザインへと変更したいと考えるのは当然の発想だろう。

しかし、小林氏はこの提案に対して首を縦に振ることはなかった。その理由は、明快で、顧客が店頭で商品を見つけられなくなるからだ。「広くビジュアルが知られつつある商品の見た目を変えることは、最もやってはいけないこと。SNS で多くの人に『オルビスのピンクのヘアケア商品』と認知してもらえたのに、デザインを変えてしまっては、店頭で商品を見分けられなくなる」 (小林氏) 

実際に、年間で100万円以上もオルビスで買い物しているようなロイヤル顧客層でさえ、既存の商品名を覚えている割合は低いという。

リブランディングでのロゴやデザイン変更の重要性


ヘアミルクのパッケージデザインを変えなかったという話は示唆的です。

本当にロゴやパッケージを変えていいのか?


リブランディングと称して、ロゴやパッケージデザインを安易に変えることのマイナスインパクトは考慮すべき重要な論点です。

消費者や既存のお客さんにとっては、ロゴやパッケージが直感的なイメージとして他のブランドと識別する情報となっているからです。

安易な変更で起こる顧客離反


こうした顧客文脈を無視しての突然のパッケージ変更により、今ままでとは大きくデザインや色に変わってしまうと、これまでの商品の 「識別情報」 がリセットされてしまいます。

実際に商品棚に新しいパッケージの商品が置かれていたとしてもお客さんは気づきません。すると、「この店であの商品は売られなくなった」 と思われ、諦めて他の商品を買ってしまうという意図せぬ他社商品へのスイッチが起こってしまうわけです。

売り手からすると 「そんなバカな」 と思うかもしれませんが、お客さんにとっては普通に起こることです。

商品をよく買っているブランドロイヤルティ顧客においても、覚えているのは見た目の視覚的イメージだけで、商品名は実ははっきりとは思い出せないという場合があります。事実、オルビスのお客さんの中には、年間で100万円以上もオルビスで買い物しているようなロイヤル顧客層でさえ、既存の商品名を覚えている割合は低いとのことでした。

パッケージが変わっただけで見つけられないという事態は容易に起こり得るわけです。

デザインは 「独自ブランド資産」 である


ロゴやパッケージなどはブランドとして積み上げてきた資産です。

資産が 「独自ブランド資産 (Distintive Brand Asset) 」 になることで、お客さんからは思い出したり見つけてもらえ、他とは違うという認識をしてもらえます。

パッケージなどの独自ブランド資産を安易に変えることは、今まで積み上げてきて資産をまた一からから構築することを意味します。本当にブランド資産をゼロリセットしてもよいのかという視点は常に持っておくといいでしょう。

 「識別記号」 と 「知覚品質への約束」 



ロゴやパッケージは 「識別記号」 と 「知覚品質への約束」 という2つの役割を持っています。

売り手やマーケターからすると後者の 「知覚品質の約束」 、すなわち、自社ブランドがどのような価値イメージを持たれているかに重きを置きがちです。

しかし、買い手である消費者やお客さんの立場になれば、まずはロゴやパッケージのデザインは、識別できる記号としての役割を担っていて、この重要性を忘れてはいけません。識別記号の役割を果たす前提があっての知覚品質の訴求という順番です。

顧客起点でのリブランディングを


パッケージやロゴなどのデザイン変更は本当にお客さんにとって意味があるのか、売り手による自社都合でリブランディングと評して進めようとしていないでしょうか。

こうした問いに正面から向き合い、「これからやろうとしていることが、お客さんへ価値につながるか」 というお客さんの立場になった顧客起点が大事です。


まとめ


今回はオルビスのリブランディングの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ロゴやパッケージは 「独自ブランド資産」 。お客さんからブランドのことを思い出してもらえたり、見つけられる、他とは違うと認識されるという 「識別記号」 の役割を持つ。ロゴなどは、識別記号の役目を果たしてこそ 「知覚品質の訴求」 が機能する

  • リブランディング時の安易なロゴやパッケージ変更は、これまで積み上げたブランド資産がなくなりかねない。消費者や既存顧客の直感的な識別情報をリセットしてしまい、店頭やウェブサイトで見つけられず、他ブランドにスイッチしてしまう顧客離反を起こす可能性がある

  • お客さんの立場になりリブランディングを考え、パッケージなどのデザイン変更が売り手都合ではなく、本当にお客さんにとって価値があるものかどうかを見極めることが重要


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。