投稿日 2024/06/15

これが ”TikTok 買い” の勝利の方程式 - UGC first, advertising second

#マーケティング #TikTok買い #広告

今回は、TikTok がきっかけになりヒット商品が生まれる 「TikTok 売れ」 を考察します。消費者視点になれば 「TikTok 買い」 ですが、その背後にある発生メカニズムを紐解きます。

消費者の心理や潜在ニーズを探り、それをどのようにマーケティングコミュニケーションに活かすか、ぜひ一緒に秘訣を探っていきましょう。

 「TikTok 売れ」 のメカニズム


電通がオウンドメディアの電通報で、「TikTok 売れ」 について解説をしていました。

TikTok 売れとは?


TikTok 売れとは、企業やブランドが TikTok を起点にしてヒット商品を生む現象を指します。日経トレンディが選ぶ 「2021年ヒット商品ベスト30」 で第1位となるなど、SNS から売上をつくるアプローチとして TikTok は企業から注目を集めています。

TikTok がきっかけに購買が発生するので、消費者目線では 「TikTok 買い」 です。

スマホアプリやゲーム、飲料・食品、メイクやスキンケア用品などを中心に、さらには不動産や金融商品など金額が大きく日用品に比べて購入頻度の少ないカテゴリーでも 「TikTok 買い」 は発生しているようです。

共通の波及パターン


電通は 「TikTok 売れ (TikTok 買い) 」 の事例を分析し洞察を得て、共通する売れ方・買い方のパターンを見出しました。

出典: 電通報

TikTok 売れが起こるメカニズムは、4つのステップからです。

  1. 生活者にポジティブな驚きをもたらす要因やターゲットインサイトが内在
  2. 使用感や体験を伝える UGC や動画コメントが拡散・共有
  3. 企業・ブランドが、クリエイターとのコラボ動画や広告を配信
  4. TikTok 以外にも話題が飛び火し、「世の中ごと」 になる

それぞれについて詳しく見てみましょう。

[ステップ 1] 生活者にポジティブな驚きをもたらす要因やターゲットインサイトが内在


そもそもとして、商品やサービス、ブランドなどに人々をひきつける魅力があるかどうかが重要になります。

生活者にポジティブな驚きをもたらす要因やターゲット顧客のインサイトが存在していて、その魅力に気づいたときに、人は興味を持ち、それを誰かに伝えたりシェアしたいと思います。ここが TikTok 売れの前提になります。

[ステップ 2] 使用感や体験を伝える UGC や動画コメントが共有・拡散


TikTok ユーザーが、自ら商品やサービスのことをショート動画にして紹介したり、他のユーザーが動画を見ることで、広がっていきます。

売り手にとっては予想外の、寝耳の水のような知らないところで自然発生的に起こることもあれば、意図的にコミュニケーション設計がされていたことから進行していくこともあります。

UGC (ユーザー生成コンテンツ) として拡散されていくには、その動画にどれだけコメントが集まるかです。

TikTok は動画にコメントがつきやすいというプラットフォーム特性を持っています。UGC 動画に、さらに商品やサービスに関するコメントという UGC が生まれ、そして UGC を見た人が自分でも新たに UGC を投稿するという 「UGC の増殖ループ」 がまわっていきます。

結果、商品に関する TikTok の動画やコメントを見た人は 「もっと詳しく知りたい」 「買ってみたい」 といった態度変容が起きることでしょう。

[ステップ 3] 企業・ブランドが、クリエイターとのコラボ動画や広告を配信


UGC が広がっていく状態から、企業やブランドが話題性をキープするためには、クリエイターやインフルエンサーと公式にコラボした動画を発信したり (インフルエンサーアカウントから or 公式アカウントから) 、追加で広告配信などを行うことで、話題化をブーストします。

[ステップ 4] TikTok 以外にも話題が飛び火し、「世の中ごと」 になる


さらに話題が広がり、TikTok 以外のメディア、たとえば X や Instagram 、ネット上のニュースサイト、さらにはテレビ等でも取り上げられると、「世の中ごと」 になります。

TikTok で何百万回再生がされているといっても、まだこの時点では世の中の大半の人は知らない状態です。ウェブメディア、テレビや新聞の報道などを通じて、いま TikTok で話題になっている商品・サービスのことを知る人も多く存在します。

UGC によって TikTok などのソーシャルメディア上で話題化され、次第に他のメディアへも拡大しマス層へ拡散するという波及効果が起こるわけですが、生活者の購買プロセスはそう単純とは限りません。

商品やサービスを知った後にすぐ買うわけではなく、SNS 内で検索して詳細や口コミを調べたり、Google でも検索し値段やスペックを比較し、一時的に保存しておいて、何かのきっかけで最後に背中を押されて買うこと決断するというような購入プロセスをとることもあるでしょう。

共通パターンの俯瞰


TikTok で購入されるメカニズムを俯瞰すると、UGC が先で、その後に広告によってスケールされていくというアプローチです ( 「UGC first, advertising second」 ) 。

具体的には次のようになります。

  1. 消費者やターゲット顧客の心理や潜在ニーズが前提として存在する
  2. そうしたインサイト (人を動かす隠れた気持ち) が呼び起こされたことで、TikTok への投稿 (動画やコメントなどの UGC) が生まれ、閲覧が増える
  3. UGC からの話題性を強化するために企業やブランドが公式の動画や広告を投稿 (トレンドのブーストとして作用する) 
  4. TikTok を超えて他のメディア (SNS やネットだけではなくテレビや新聞など) へ話題が広がっていく

これらを1つ1つクリアしていった先に、SNS 起点での 「TikTok 買い」 が起こり、企業側からすると 「TikTok 売れ」 という事象として見えるわけです。


PR first, advertising second


ここまで見てきた 「TikTok 買い」 が起こるメカニズムには、「PR first, advertising second」 と通じるものがあります。

 "PR first, advertising second" とは


アル・ライズは、著書 「広告でブランドはつくれない」 で、"PR first, advertising second" という考え方を提示しました。


PR first, advertising second とは、ブランド構築において PR (Public relations) を最初に展開し、その後に広告 (Advertising) を活用するという順番を重視する考え方です。

PR によって、企業や商品情報であってもメディアからの第三者的な発信によって世の中への空気感や機運をつくり、下地を整えてから企業やブランドからの広告によって商品の認知や好意度を高めていくというアプローチです。

PR に響くインサイト


TikTok 買いでは、トレンドをつくる土台として消費者やターゲット顧客の心理や潜在ニーズが前提として存在することが出発点でした。

PR first, advertising second も同じです。PR 情報の受け皿として、関心を呼んだり好意的に受け止められる人々の価値観やものの見方があることが大事です。

逆に言えば、PR ではこうした人々のインサイトを理解し、どのインサイトに届けるかという視点が重要になるわけです。

先に機運を高める


TikTok 買いでは、次のような順番が話題化していく流れでした。

  • 顧客インサイト (人を動かす隠れた気持ち) が呼び起こされたことで TikTok への投稿 (UGC) が生まれ、閲覧が増える
  • UGC からの話題性を強化するために企業やブランドが公式の動画や広告を投稿 (トレンドのブースト作用) 

ここはまさに 「PR first, advertising second」 の順番の通りです。

確かに PR には少なからず企業側の意図や狙いが入るので、TikTok での UGC とは厳密には同じではないかもしれません。というのも、TikTok のような SNS は 「Shared media」 、PR 配信メディアは 「Earned media」 と呼ばれます。

しかし広く捉えれば、第三者メディアから情報発信がされる PR と、メディア / ユーザー視点での商品・サービスの切り取り方で魅力を伝えていく UGC は、同じ性格を持っていると言っていいでしょう。

広告が受け入れられやすい土壌をつくる


ここまで見てきた 「TikTok 買い」 と 「PR first, advertising second」 から学べるのは、広告の前に広告が好意的に受け入れられやすい舞台をつくっておくことの重要性です。

企業から一方的に、顧客文脈に合わない広告は、受け手である生活者や見込み顧客にとっては 「ノイズ」 でしかありません。

せっかくの少なくない広告予算を使うのだからこそ、広告が雑音や邪魔な存在にならないためにも、下準備を整えておくことが大事です。


まとめ


今回は 「TikTok 売れ」 と 「PR first, advertising second」 の共通点から、マーケティングコミュニケーションに学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ TikTok 買いのメカニズム
  • 消費者やターゲット顧客の心理や潜在ニーズが前提として存在する
  • そうしたインサイト (人を動かす隠れた気持ち) が呼び起こされたことで、TikTok への投稿 (動画やコメントなどの UGC) が生まれ、閲覧が増える
  • UGC からの話題性を強化するために、企業やブランドが公式の動画や広告を投稿 (トレンドのブースト作用) 
  • TikTok を超えて他のメディア (SNS やネットだけではなくテレビや新聞など) へ話題が広がっていく

✓ PR first, advertising second
  • ブランド構築には、最初に PR (パブリックリレーション) で世の中の空気感や機運を高めるという下地をつくり、その後に広告を通じて商品の認知や興味喚起、好意度を高めていく
  • マーケティングでは、ターゲット顧客の心理や潜在ニーズを深く理解し、顧客理解にもとづいて PR や広告を展開することが、受け入れられる価値訴求となる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。