投稿日 2024/06/21

山善の UGC 活用に学ぶ、お客さんの実際の使用シーンから顧客理解を深める重要性

#マーケティング #顧客理解 #使い方

お客さんは、自社商品やサービスを実際にはどのようなシーンや用途で使っているのでしょうか?
売り手はそれをどれだけ理解しているでしょうか?

お客さんのことを 「商品の利用シーン」 を通じて理解することで、自社商品のポテンシャルを最大限に引き出すことができます。

そこで今回は、自社商品の利用シーンを紐解き、商品開発やマーケティングにつなげる秘訣を事例からぜひ一緒に解き明かしていきましょう。

ルームクリップ


RoomClip (ルームクリップ) は、住まいや暮らしの領域に特化したソーシャルプラットフォームです。

住まいや暮らしのユーザー情報が満載


ルームクリップに並ぶのは、ユーザーが撮影し投稿した家具や家電、雑貨などインテリアの写真です。自分の部屋のお気に入りのインテリアをシェアしたり、他のユーザーの部屋のコーディネートの様子を参考にすることができます。

また、インテリア関連の口コミやレビュー、ユーザー同士の情報交換などのコメントも日々投稿されています。

ルームクリップは2023年10月時点で、月間ユーザー数は600万人、投稿された写真枚数は600万枚を超えます (参考記事) 。日本有数の 「実際に人が生活している部屋の写真とコメント」 が集まっているプラットフォームです。

メインユーザー層


ルームクリップの主なユーザー層は、インテリアに強い関心を持つ30 ~ 40代の女性です。

ユーザーはルームクリップで投稿するときは、写真に長いコメントやタグをつけ、詳細に説明する人が多いようです。ユーザーは投稿に手間をかけるのは、それだけ自分の理想の部屋を作り上げたいという意欲を持っているということでしょう。

細かく書くぶんだけコメントが盛り上がり、ルームクリップはユーザー同士がそのノウハウを教え合う空間になっています。


ルームクリップを活用した商品開発


ルームクリップの写真やコメントなどを、UGC (User Generated Contents: ユーザー生成コンテンツ) として積極的に活かしたのが山善です。

山善の UGC を活用した商品開発


山善がルームクリップから提供してもらったのは、ユーザーの投稿写真やコメント、検索キーワードなどを分析して得られた 「折りたたみベッド」 に関するユーザーの動向やニーズに関する情報です (参考記事) 。

それだけではなく、ルームクリップのユーザーが山善のベッド商品群を直接体験し、山善の商品開発部署メンバーと折りたたみベッドについてディスカッションする座談会も行いました。

こうして山善がルームクリップとの協同で開発したのが、2023年10月に発売された 「木製パタントベッド」 てす。

出典: 山善

国内メーカーの木製の折りたたみベッドとしては初めて、ベッドの下に収納スペースを確保し、床板には通気性の高い “すのこ” を採用しています。従来の山善の折りたたみベッドと比べると、見た目も使用感も全く異なる製品になりました。

UGC からお客さんの使い方を理解


では時計の針を巻き戻して、「木製パタントベッド」 の開発プロセスを見ていきましょう。UGC の活用事例として参考になります。

山善はまず、ルームクリップ内の写真やコメントの UGC から、寝室の使われ方について調査をしました。対象期間は2020年3月から2年間にわたり、寝室に関する投稿を分析しました。その数は、写真が8万点、コメントが30万件以上に上ります。

 「自社商品は主役ではない」 という発見


ここで得た山善が得た示唆は、「寝室の主役はベッドとは限らない」 ということでした。

寝室に関する投稿を調べたところ、付けられているモノ関連のタグで最も多かったのが雑貨で、次に照明と観葉植物が続きました。寝室に欠かせないベッドは4位という結果でした (参考記事) 。

順位から言えるのは、ベッドそのものよりも、雑貨や照明、観葉植物などを置いた環境づくりへの関心が高いということです。

これを見た山善の開発担当者は、「ベッドは寝室の主役ではない。いかに空間を邪魔せず、部屋になじむかが大事だとわかった。ベッドを売る企業としては、ベッドを主役に考えてしまいがちで重要な気付きだった」 と振り返っています。

売り手の常識は 「買い手の非常識」 


ユーザーを招いた座談会でも新たな発見がありました。

たとえば、折りたたみベッドの脚についているキャスターです。キャスターについて、参加者は山善と全く異なる見方をしていました。

山善としては、脚にあるキャスターは役に立つものと思っていました。というのも、たたむ際にキャスターを床にすべらせることで、小さい力で中央部分を引き上げられるからです。しかし、一方の参加者からは 「そんなに頻繁にたたまない」 と一蹴されたとのことです。

山善はキャスターは折りたたみベッドには必要だという認識でしたが、しかし参加者の全員が 「キャスターはない方が見栄えが良いし、機能としてもそこまで必要性を感じない」 と、そもそも不要と捉えていたのです。

他にも両者での認識の違いが浮き彫りになりました。

2つのベッドを連結できることに関して、参加者からは 「ベッドを複数台で連結させたいから、折りたたみベッドの横に付いているアームは邪魔」 という声もありました。

こうした作り手にとって驚きの連続から山善は消費者のことをあらためて理解し直しました。そして新たに開発されたのが折りたたみベッドでありながら、キャスターもばねもなくした 「木製パタントベッド」 だったのです。



学べること


ではルームクリップと山善の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

使い方の認識のギャップ


ビジネスシーンでは、売り手は商品の機能や性能、スペックなどには詳しい一方で、お客さんや利用者がどのような状況で、どう使っているかは見落としていることがあり、実際のところを詳しく知らなかったりします。

売り手にとっては当然と思うことや使い方が、実はお客さんの使い方とは異なり、利用方法や置かれている状況への理解にズレがある状態です。

実はこの認識のギャップにはビジネスチャンスが眠っています。

山善が発見したお客さんの実態


ご紹介した山善の折りたたみベッドのケースは、売り手と買い手の認識のギャップが生じていた事例でした。

ルームクリップでの実際の商品に対するコメントや座談会での参加者の発言を通じて、売り手である山善が想定していなかった様々な使用状況が明らかになりました。

  • 寝室において、お客さんにとってはベッド (山善の自社商品) は主役ではない
  • ベッドは折りたたみやすさよりも、室内空間にあった存在になることや収納の方が重要
  • 折りたたみベッドはたたまれる頻度が実は少ない
  • 2つのベッドを連結させるときに、ベッドの横に付いているアームは邪魔

こうした発見からのお客さんのベッドの使い方、室内状況などの 「顧客文脈」 を理解できたことで、山善は従来とは違う新しい発想の折りたたみベッドを開発できたわけです。

お客さんの 「使い方」 を理解する


この事例から学べることは、お客さんの実際の使い方やシチュエーションを解像度高くリアルに理解することの重要性です。

お客さんが置かれた環境や状況において、どのような顧客文脈からどんなふうにお客さんが商品を使っているのかを理解することが大事です。商品の利用については、自社商品だけではなく、一緒に使ったり近くに置かれているものなどの 「周辺領域」 にも目を向けるといいでしょう。

顧客理解からのマーケティング


お客さんの使い方を解像度高く理解するためには、UGC というユーザー生成コンテンツを見たり、お客さんにインタビューをする、あるいは直接自宅への訪問をして実際の環境に足を運び観察することが有効です。

こうした愚直に時には泥臭い生活者理解、顧客理解を通して、初めてお客さんの本当の使い方を目の当たりにすることができるでしょう。

お客さんのリアルな行動や環境に目を向け、心の中の声にまで耳を傾け、その生活やライフスタイル、使用状況、ニーズ、何に価値を見出しているかの価値観までの理解につながります。

そして、利用シーンや使い方を理解したことから、自分たちのお客さんの認識とお客さんの実態へのギャップを少しでも小さくし、顧客理解にもとづいた商品開発やマーケティングを展開していきます。

このアプローチは、お客さんの満足度を高め、長期的な顧客ロイヤリティの構築にもつながるでしょう。


まとめ


今回は、山善がルームクリップの UGC を活用した商品開発の事例から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • お客さんの実際の使い方を理解する: 商品の機能やスペックを超え、お客さんがどのような状況・シーンで商品を使っているかを把握する

  • 顧客文脈の深掘り: 顧客理解のためには、お客さんの商品利用シーンや周辺領域も含めた全体的な 「顧客文脈」 を解像度高く捉えることが大事

  • 顧客理解にもとづくマーケティング: UGC 分析、直接のインタビューや自宅訪問などを通じて得た深い顧客理解をもとに、商品開発やマーケティングを展開する。顧客満足度を高めロイヤリティの向上を目指す


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。