投稿日 2024/06/03

サントリーセサミン。お客さんとの対話から全社員がつくる顧客中心の企業文化

#マーケティング #顧客理解 #LTV

お客さんの心に寄り添うことができているでしょうか?

お客さんが求めるニーズ、見込み客が望んでいること、離反顧客の隠れた不満に気づくカギは、相手との対話にあります。

今回は、お客さんとの対話がいかにして商品やサービスの質を向上させるか、さらには企業文化そのものを変えていくのかについて、具体的な事例から解き明かします。

LTV を重視するサントリーウエルネス


サントリーウエルネスの通販商品 「セサミン」 シリーズのマーケティングの転機となったのは2020年でした。

それまでは新規の顧客獲得に注力してきましたが、CRM (顧客関係管理) の強化から LTV (顧客生涯価値) 重視型に切り替えたとのことです (参考記事) 。

LTV 重視を実現する打ち手


方針転換に伴い、次のような打ち手を行いました。

✓ CRM の強化
  • 2020年からお客さんとの対話を重視し、オンライン家庭訪問 (詳細は後述) やコンタクトセンターなどでお客さんの定性的な情報までを収集
  • 顧客情報をデータベースに蓄積し、商品やサービスの改善に活用

✓ 商品のリニューアル
  • 集めたお客さんの声を商品開発に反映。例えば DHA & EPA + セサミン EX の成分やパッケージ (色使いなど) を見直した
  • Web サイトや広告にも、顧客理解にもとづいたより詳しい情報を記載し、商品の価値を伝える

✓ アプリの提供
  • 2023年に健康アプリ 「Comado」 の提供を開始し、商品と健康習慣を組み合わせて顧客接点を拡げた
  • アプリユーザーの健康的な習慣や行動を促し、ポイントや特典を提供している

こうした様々な打ち手の中でも興味深いと思ったのは 「オンライン家庭訪問」 です。

オンライン家庭訪問


オンラインでの家庭訪問は、顧客理解を深め、CRM 強化による LTV 重視型に切り替えるための象徴的なアクションでした。

サントリーウエルネスは、2020年9月から全社員がお客さんと対話する機会をつくり、Web 会議ツールを使ってインタビューを実施しました。その数1400人超のお客さんと話してきたとのことです。

オンライン家庭訪問の対象者は、自社商品を継続的に購入しているお客さんだけでなく、過去には買っていたものの今はもう買わなくなった人 (離反顧客) も含まれます。既存顧客と離反顧客の両方から多角的にお客さんが購入する理由、期待すること、買わなくなったことを訊き、顧客理解を深めるわけです。

オンライン家庭訪問から得られたお客さんのリアルな声はデータベースに蓄積し、商品開発や改善、Web サイトの改修などに活用します。


サントリーウエルネスから学べること


では今回の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

サントリーウエルネスの取り組みは、お客さんとの直接的な対話を設けることの重要性を示しています。

対話から深める顧客理解


対話をする相手は、既存顧客や優良顧客だけでなく、離反顧客に対しても1人ひとりの顧客理解を深めることが理想です。

サントリーウエルネスはインタビュー調査を全社員で行っています。

これを 「オンライン家庭訪問」 と位置づけているというのは、単にお客さんに商品のことを尋ねること以上の意味を持ちます。リモートツールを使っているとはいえ、家庭環境という商品が使われたり保管されている状況、さらにはお客さんの生活環境を垣間見にいくわけです。

こうした生活感のある顧客情報の収集は、顧客ニーズや期待を理解するだけでにとどまらず、お客さんが抱えている悩みや困りごと、課題感、問題点やその解決策につながるための洞察を得ることを目指しています。

サントリーウエルネスはオンライン家庭訪問を通じて、商品や Web サイトの改善に直接つながる貴重なフィードバックを集めています。お客さんとの対話から得られる情報は、数値データやアンケートからの調査では捉えきれない、お客さんの本質的なニーズや感情が入っているので、商品開発やマーケティングにおいて有効です。

顧客理解の社内共有


顧客情報をデータベースとして社内に蓄積し、社員それぞれが獲得した顧客理解を社内で共有できる形式知にしているのも、サントリーウエルネスから学べることです。

お客さんからの直接的なフィードバックをデータベース化しておくことで、お客さんの声を必要に応じて適切に使える仕組みが整います。分析や統合をしていくことで、お客さんが本当に求めているニーズを発掘し、期待に応える商品や新たなサービスの考案につながるでしょう。

顧客理解のデータベース構築と社内共有は、顧客と企業との間に強い信頼関係を築き上げる基盤となります。

顧客中心の文化醸成


サントリーウエルネスでは全社員がお客さんとの対話を経験することで、顧客体験や顧客文脈を肌で感じ取る機会を組織的につくり出しています。

社員1人ひとりが顧客視点になれ、「あのときにオンライン家庭訪問をしたあのお客さんの立場」 が自身の業務に活かされます。結果として、顧客満足度の向上に貢献するだけでなく、社内の顧客志向の強化にもつながります。社内に顧客中心の文化が醸成されることでしょう。

* * *

サントリーウエルネスの取り組みは、顧客理解の解像度を高めることが、顧客満足度の向上、継続的な顧客関係の構築、そしてブランドや企業の競争力強化につなげるものです。

マーケティングの観点から見ると、顧客理解を深めることはお客さんの真のニーズに対応した商品開発やサービス提供、効果的なマーケティングには必要不可欠です。サントリーウエルネスのセサミンの事例は、その具体的な実践例として参考になります。


まとめ


今回はサントリーウエルネスの取り組みから、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • お客さんとの直接の対話を重ねることで、既存顧客のニーズ、離反顧客の隠れた不満を理解できる。お客さんの直接の声から商品やサービスの改善に直結する貴重なフィードバックを得られる

  • あらゆる社員がお客さんとの対話を経験することで、顧客中心の文化が醸成されていく

  • 社員1人ひとりが顧客視点を持って業務に取り組め、お客さんのほうを向いた外向き姿勢の仕事が顧客満足度の向上、継続的な顧客関係の構築、そしてブランドや企業の競争力強化につながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。