投稿日 2024/06/30

移動販売からライブコマースまで。自ら出向いてお客さんとつながる顧客接点の新時代

#マーケティング #顧客接点 #出稼ぎ

ビジネスの成長を目指すために、新しい顧客接点をどう開拓し、そこでお客さんとの距離を縮めるかが大事になります。

今回は、ユニークな “出稼ぎ” のアプローチとして、百貨店や化粧品メーカーが展開する事例を取り上げます。

どうすればお客さんと直接つながり、相手の心を動かす体験を提供できるのか、ぜひその秘訣に迫っていきましょう。

自ら出向いての 「出稼ぎ」 


2つの異なる事例を知り、おもしろいと思ったので共有します。

デパ地下が地上へ出稼ぎ


百貨店のデパ地下が、来店型ビジネスモデルから一歩踏み出し、移動販売や宅配サービスを展開しています。

出典: 日経

たとえば、阪急うめだ本店は 「走るデパ地下」 としてスイーツの移動販売を開始し、郊外や関西域外へと販売エリアを広げています。この新サービスは、新規顧客の獲得から売上の拡大を狙っています。

また、西武池袋本店はランチ需要を捉えた宅配サービスを提供し、三越銀座は食品自販機を通じた百貨店の外での館外販売を実施しています。

これらの百貨店の動きは、市場の成熟や消費者ニーズの多様化に対応し、新たな販売チャンネルと顧客体験をつくるという百貨店の新しい挑戦です。

自社店舗にお客さんが来るのを構えているという 「待ち」 から 「街」 へと自ら繰り出し、百貨店業界は独自の目利き力や企画力を活かし、変化する顧客ニーズを応え、消費者の心を動かすことを目指しています。

資生堂がバーチャルでの出稼ぎ


もう1つ別の事例です。

資生堂は2021年7月に資生堂インタラクティブビューティーを設立し、社員インフルエンサー施策に力を入れています。

約40名の社員がオムニパーソナルビューティーパートナー (オムニ PBP) として、ソーシャルメディアを通じて活動し、ライブコマースも強化しています。

出典: MarkeZine

オムニ PBP は20代から40代までの男女で、そのうちフォロワー1万人以上のメンバーは7名、中にはフォロワー6万人を超える社員もいます。1週間の売上目標を1日で達成するなどの成果を上げることもあるようです (参考記事) 。

資生堂が運営する EC ライブコマースの 「ワタプラ Night!」 を活用するなど、これまで累計150回以上のライブを配信してきました。ライブコマースでも企画・台本作成・出演・配信・PDCA の全てをオムニ PBP が担当しています。


学べること


では2つの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

2つの事例の共通点


取り上げた2つの事例、百貨店のデパ地下からの移動販売と資生堂インタラクティブビューティーによるソーシャルメディアを活用したライブコマースは、表面的には異なるアプローチを取っているように見えます。

しかし、これらの取り組みの根底にあるのは、自らお客さんのほうに近づいていき、直接的な顧客接点を積極的につくり出すという共通の戦略です。

変化する市場環境や消費者行動に応じて、売り手はいかに柔軟に対応し、新たな買い手との接触機会を持つ重要性を示しています。

顧客接点の開拓


百貨店のデパ地下の移動販売では、移動販売車でお客さんの元に出向き直接商品を届けます。

移動への制約や時間的な制約によって店舗を訪れることが難しいお客さんに対して、お客さんの利便性を高めるとともに、新たな購買体験をもたらしています。

もう1つの事例である資生堂によるソーシャルメディアを利用したライブコマースは、デジタル化が進む中でお客さんとのバーチャルな接点を強化することに注力しています。

ライブコマース中は、視聴するお客さんは実際に商品を手に取ることはできませんが、リアルタイムでのやり取りを通じて商品に関する質問や、スキンケアやメイクの方法を訊いたり、商品への感想や使用感を共有することで、購買意欲が刺激されるでしょう。お客さんは自宅にいながらにして、お店に足を運ぶのと同様の、あるいはそれ以上の売り手と買い手の心理的距離の近い購買体験にできます。

このように、百貨店のデパ地下の移動販売は物理的な顧客接点を、ソーシャルメディアでのライブコマースはバーチャルでの顧客接点を従業員自らが開拓しているのです。

顧客接点を増やしての価値提案


これら2つの事例から学べるのは、お客さんとの接点をつくるためには、物理的な場所やデジタル空間を問わず、企業が積極的にお客さんのほうへと近づいていく必要があるということです。

相手 (お客さん) がお店に来てくれるのをただ待つのではなく、売り手が積極的に顧客接点をつくることの重要性を教えてくれます。

顧客接点はつくって終わりではありません。顧客接点を通じて、お客さんに新しい体験を提供し、顧客満足度を高めることが長期的な顧客関係の構築につながります。

百貨店や化粧品メーカーに限らず他業界の企業にとっても、お客さんのところに足を運び、顧客文脈にフィットするような顧客接点をつくり、そこで相手に響くコミュニケーションや価値提案ができるかが、お客さんを増やしビジネスを成長させるためのカギを握っています。


まとめ


今回は、百貨店のデパ地下からの移動販売と資生堂インタラクティブビューティーによるソーシャルメディアを活用したライブコマースの取り組みから、共通点を見出しマーケティングの観点で考察をしました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 企業は顧客のもとへ積極的に近づき、物理的またはデジタルな空間での直接的な顧客接点をつくり出すことの重要性を、百貨店やメーカーの 「出稼ぎ」 の事例から学べる

  • 移動販売や宅配サービスは顧客の利便性を高める新たな購買体験を、ライブコマースはリアルタイムのやり取りで購入意欲を刺激し、より心理的に近い購買体験を提供する

  • お客さんとの接点を増やすことは、新しい体験を提供し顧客満足度を高め、長期的な顧客関係を構築する。積極的な顧客接点の開拓、相手の文脈にフィットする顧客接点でのコミュニケーション・価値提案によって、新しいお客さんが増えビジネスの成長につながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。