投稿日 2024/06/05

罠ブラザーズ。参加ハードルを下げて新規のお客さんを増やす秘訣

#マーケティング #新規顧客獲得 #関与人口

今回は 「罠ブラザーズ」 というユニークなサービスをご紹介します。

罠ブラザーズから学べるのは、新しいお客さんをどのように増やすかです。お客さんからの興味を引き出し、ビジネスの 「関与人口」 をいかに広げるかに示唆がある事例です。

ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

罠ブラザーズ


鹿の害獣被害が深刻化する中、ユニークな対策として登場したのが 「罠ブラザーズ」 です。

長野県上田市の山学ギルドが展開する捕獲用の罠のシェアリングサービスが注目を集めています。

罠の 「所有権」 を買う


実際に仕掛ける罠 (出典: 日経クロストレンド

参加者は罠の所有権を購入し、実際にその罠で鹿が捕獲されると、鹿肉が罠の所有者に還元されるという仕組みです (1頭につき約 500g の肉が届く) 。

罠ブラザーズの特徴は、お金を払う商品が鹿を捕まえる 「罠」 であることです。

30日間限定で罠の所有権 (1人税込み2万2000円) を購入することで、罠の設置や捕獲など猟師の活動に関する動画を受け取れ、罠にかかった鹿の肉も得られます。ユーザーは罠を所有し、遠く離れた都会にいながらでも、狩猟を疑似体験できるわけです。

動画やレポートで詳細の説明


罠ブラザーズで活動する猟師の様子 (出典: 日経クロストレンド

罠の所有権を買うと、30日間の所有者でいる間は、猟師の活動に関する動画やレポートを受け取ることができます。

有害鳥獣駆除の許可を持つ罠担当の猟師が、毎日4つのエリアを巡回し、罠の状況や山の様子、地元の猟師の暮らしぶり、さらに希望者には捕獲時の様子などをまとめた動画などのコンテンツが定期的に配信されます。

罠の設置場所は足場が悪いうえに、獲物が罠にかかっていたらすぐに捕獲作業に入るため、猟師が余裕を持って動画を撮影している状況ではないこともあります。

そこで現場での動画撮影は30秒程度にとどめ、捕獲した鹿がどのような個体だったかなどの詳しい状況説明は巡回後に書くレポートで説明します。動画だけに頼らず、レポートの文字情報も併用することで、猟師の現場での負担を減らしつつ、質の高い捕獲コンテンツを罠の所有者に届けています。

調理イベントも開催


狩猟期間が終了すると、参加者は自宅に送られてきた鹿の肉を持参し、罠ブラザーズの料理人が調理するイベントも都内で実施しています (別途料金が発生) 。

鹿を捕って終わりではなく、おいしく食べるところまでが、罠ブラザーズという考え方からです。プロの料理人が調理することで鹿肉のおいしさが実感でき、調理法も学べるイベントです。イベントに参加することで鹿肉の需要が高まり、廃棄される害獣が減ることも狙っています。

罠ブラザーズの成果


2020年2月のサービス開始後、これまでに罠ブラザーズの販売を8回実施し、延べ100人が所有権を購入しています (参考記事) 。

初回の参加者は関係者など数人でしたが、次第に評判が口コミで広がり、取材も相次いだことで、回を追うごとに参加者が増加しました。2023年10月に実施した回には、過去最高の30人以上が参加したとのことです。

罠ブラザーズは、捕獲された鹿の肉を有効活用することで、鹿肉の需要を高め、害獣の廃棄を減らす成果を着実に出しています。


学べること


では罠ブラザーズから、学べることを掘り下げていきましょう。

罠の所有のメリット


鹿などの害獣対策のために、その地元で野生の鹿のハンターになってもらうことのハードルは高いですが、罠の所有権を30日間保有するということであれば、擬似的にハンターになれるのでその敷居はぐっと下がります。

罠の所有権を持つことのメリットは多岐にわたります。

  • 新鮮な鹿の肉を送ってもらえる
  • 設置した罠に野生の鹿がかかる様子、罠の設置から捕獲後のプロセスを動画や文章レポートから知れる。都会にいながら狩猟の疑似体験ができる
  • 鹿の獲得頭数により、送られてくる肉の量が変わるゲーム性のあるエンタメ体験
  • 鹿肉を持ち寄って調理するイベントが開催され、ユーザー同士で交流し楽しめるコミュニティがある

 "関与人口" の裾野を増やす


罠ブラザーズの事例を一般化すれば、商品やサービスの 「関与人口」 の裾野を増やす取り組みです。

従来は関与したり直接の参加へのハードルが高い状況において、これまでよりもライトな関与体験を用意することによって、トータルでの関与人口を増やすことが期待できるわけです。

罠ブラザーズでもう1つ注目したいのは、興味喚起や参加意欲をうまくつくり出していることです。というのは、興味を持ってもらったり参加してもらうために、参加する動機を慈善事業としてや善意だけに頼った仕組みだと、どうしても義務的な参加になってしまうことでしょう。やらなければいけないという義務感だけでは、一時的な関与を生み出す可能性はあるものの、長期的な関与や興味を引き続けるには限界があります。

一方で罠ブラザーズでは慈善活動や義務としての側面もありますが、それ以上のメリットが用意されています。鹿の罠の所有権を買うという手軽さ、鹿の捕獲プロセスや鹿肉を食べるエンタメ的な楽しさ、ユーザー同士での横のつながりにも発展できるコミュニティ要素などです。

こうした複数のメリットが組み合わせることによって、その商品やサービスを使いたい・買いたいという気持ちをつくることができるのです。

新規顧客の獲得への示唆


参加のハードルを物理的にも心理的にも下げ、より多くの人々が関与しやすい仕組みをつくり、そしてさまざまな楽しみ方を提供することで、サービスや商品に対する興味・関心を深めることができます。

罠ブラザーズのアプローチからは、参加のハードルを下げ、多様な魅力をもたらすことによって関与人口の裾野を広げるこでの新規顧客の獲得への示唆が得られます。


まとめ


今回は罠ブラザーズというユニークなサービスを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 罠ブラザーズの事例は、参加へのハードルを下げることでの 「関与人口」 の裾野を広げる重要性を示している

  • 参加へは義務感だけではなく、エンタメ要素やコミュニティ形成を通じて、お客さんの自発的な関与と興味を促進するアプローチが効果的

  • マーケティングへの学びにつなげると、新規顧客の獲得には、商品やサービスへの物理的・心理的なハードルを下げ気軽に始められるようにし、多様な楽しみ方を提供することが大事


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。