投稿日 2024/06/14

初デートは内見の 「婚家結」 。異業種の視点での問題解決と、”そのうち顧客” の獲得

#マーケティング #ビジネスモデル #想起

そろそろ結婚を考えたとき、2人のパートナーの間で住まいに対する “価値観” は一致しているでしょうか?同じだと思っていた家への好みが、実は違っていたと後から気づくかもしれません。

ご紹介するオープンハウスグループの 「婚家結 (こんいえむすび) 」 は、そんなカップルの悩みを解決するマッチングサービスです。

今回は、異業種からの新しい発想方法、そして新しいお客さんを獲得する秘訣を紐解きます。

マッチングサービス 「婚家結」 


出典: PR TIMES

住宅大手のオープンハウスグループが、2024年1月に始めたマッチングサービスがユニークです。

サービス名は 「婚家結 (こんいえむすび) 」 です。住みたい家から始める婚活サービスとして、理想の住まいと理想の結婚相手を同時に探すというのが特徴的です。

 「住みたい家への条件」 でマッチング


通常のマッチングサービスとは異なり、希望する家の条件のみからマッチングをしてくれます。

登録時に必要な入力情報は 「今の住まいが賃貸か持ち家か」 や 「月ごとの家賃」 などです。マッチングサービスでよくある顔写真や学歴、年収などは登録しません。

家や住まいへの条件とは、たとえば 「住まいは (相手に) 買ってあげたいか、買ってほしいか、一緒に買いたいか」 「立地と間取りと価格、どれを重要視するか」 「希望の価格帯」 「住みたい地域」 などです。

ユーザーは条件を選ぶと、オープンハウスグループの担当者が無料で合う相手を探してくれます。そして、マッチングした相手とは 「理想の家」 の内見で初対面となります。

このサービスは、住宅購入における価値観のズレを解消し、将来の住宅購入につながることを目指しています。

サービス開発の背景


婚家結というユニークなマッチングサービスの開発背景を見てみましょう。

開発したきっかけは営業の声だった。企画段階から関わってきたブランドコミュニケーション部の山尾祥平主任は 「内見では新婚のカップルが多いが、家に関する考え方が合わずにけんかになることが少なくない。最悪の場合は別れてしまうこともあるとの悩みが現場から出ていた」 と話す。

家に関する価値観のズレを解消するため 「交際前から希望の住まいや生活スタイルをマッチングしてはどうか」 との意見が出たことから、開発に着手した。突貫作業で進め、わずか3週間ほどでサービスを立ち上げた。

サービスは中長期の需要に照準を合わせる。「結婚を契機に家を買う人は依然として多い。もし交際が順調に進んで新居を検討するときに一番に思い出してもらえるメーカーになれれば」 (オープンハウスグループ) 。もしマッチングした相手とうまくいかなくても 「家だけ気に入ってくれる可能性もある」 

学べること


では、新居の条件で婚活マッチングする 「婚家結」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

顧客起点の新規ビジネス開発に示唆があります。

顧客の 「不」 が起点


オープンハウスグループが開始した 「婚家結」 は、住宅メーカーが提供する異色のマッチングサービスです。

現場で見聞きした、お客さんの不都合を抽出し、素早くサービスに展開した事例です。

内見では新婚のカップルが多いが、家に関する考え方が合わずにけんかになることが少なくない。最悪の場合は別れてしまうこともあるとの悩みが現場から出ていた

そこで婚家結は、結婚を控えたカップルが直面する住まいに関する価値観のズレという問題を解決するために設計されました。お客さんの不都合を抽出し、それを新しいサービスに展開したビジネスです。

住まいへの価値観の相性を優先


言われてみれば、確かに住まいや室内環境の価値観は人それぞれが持っています。

恋人同士の交際段階では必ずしも 「家への価値観の不一致」 は表面化することはなく、一定期間を一緒に過ごす同棲時期を経たとしても、同棲していたときの家や部屋と、結婚後に住む家では、住環境や日常生活は同じではありません。

結婚して新しい家になって、初めて2人の価値観の違いが浮き彫りになり、ともすると夫婦関係の悪化につながることもあるでしょう。

だからこそ、結婚前の交際中にお互いの価値観や好き嫌いを知っておくことは大事になります。しかし、家の好みや住まいへの相手の価値観は実際に住んでみないとわからないので、卵と鶏の関係のような現実にはなかなか解決が難しい問題が潜んでいるわけです。

住宅大手のオープンハウスグループの婚家結はここに着目したマッチングサービスです。

結婚を前提としていても、住まいの価値観を優先して共有しあい、初対面のときから理想の住環境を探ることから始めるという新しいカップリングへのアプローチを婚家結は提案しています。

異業種からの参入


注目したいのは、婚家結というサービスはオープンハウスグループという住宅メーカーによって生まれたことです。

従来の婚活サービス企業が提供するマッチングサービスとは一線を画し、住まいの条件や価値観をもとにしたマッチングに特化することで、異業種からの新たなサービスが市場に参入しているという構図です。

業界の外からの視点が既存の市場に新しい価値をもたらし、良い意味で門外漢のような素人の発想が 「住みたい家への価値観でマッチングする」 というユニークなサービスにつながったわけです。

将来顧客の 「想起集合」 に入るために、今からアプローチ


もう1つ注目したいのは、婚家結は、今すぐに住宅を購入するお客さんだけでなく、将来的に家を購入するかもしれない 「見込み顧客 (そのうち顧客) 」 にも焦点を当てているところです。

すぐには住宅を購入することはないものの、いつかその日が来て、新居のことを考え始めるシチュエーションにおいて、自社企業やサービスのことを思い出してもらえるという 「未来の想起」 を期待しての打ち手です。

マーケティング視点で捉えると、住宅購入のニーズが顕在化してはいない 「そのうち顧客」 のときからアプローチをしておき、住宅購入の気持ちが生まれ、ニーズがいざ顕在化する 「今すぐ顧客」 になったときに、自分たちがお客さんの頭の中に自分たちがその選択肢、すなわち 「想起集合」 に入ることを狙っているわけです。

カップルとしてマッチングされ、理想の住まいを見つける過程で、オープンハウスグループのブランドに親しみを持つことを目指しています。長期的な顧客関係を築こうとする、長い目で見た効果を狙っている打ち手です。

婚家結のサービス開発からの示唆


婚家結のビジネスモデルから学べるのは、顧客起点で新しいサービスを開発する重要性です。

現場で得たお客さんの声や不をもとにビジネスアイデアを形にすること、そして異業種からの着想が新たな市場を切り開く可能性を秘めていること、さらには中長期的な視点を持ってお客さんとの関係を今から構築することが大事です。

これらの点は、どの業界においても新規ビジネスの開発において示唆を与えてくれます。


まとめ


今回は、住まいや家への条件・価値観で結婚相手を探せるマッチングサービス 「婚家結」 から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 住宅メーカーのオープンハウスグループが展開する 「婚家結」 は、カップルの住まいに関する価値観の不一致を解消するマッチングサービス。現場でのお客さんの 「不」 を起点に新しいサービスを生み出した

  • 異業種からの参入により、従来の婚活サービスにはなかった 「住まいの価値観」 を重視するマッチングを提案。市場に新たな価値をもたらしている

  • 婚家結は長期的な顧客関係の構築をつくろうとしている。住宅購入ニーズが顕在した 「今すぐ顧客」 だけではなく、将来的に家を購入するかもしれない 「そのうち顧客」 にも焦点を当てている。そのうち顧客に、住宅購入のシチュエーションになったときにブランドを想起してもらえることを目指す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。