投稿日 2024/06/29

JA ハイナンの 「ブロッコる?」 。顧客理解からの POP と POD で価値創出

#マーケティング #差異化 #POPとPOD

なぜ、ある商品は市場で輝くのに、別の商品は影が薄いのでしょうか?
何が明暗を分けるのでしょうか?

ビジネスを成功させる秘訣は、お客さんのことの深い理解と独自の価値提案にあります。

今回は、静岡の JA のブロッコリー商品を取り上げ、「差異化」 という切り口で掘り下げます。市場参入のための基本要素 (POP) と差別化要素 (POD) をいかに融合させ、お客さんからの期待を超える価値を創出する秘訣を紐解きます。

JA ハイナンの 「ブロッコる?」 



地方の優れた商品やサービスが消費者に届かないことは珍しくありません。静岡県牧之原市の JA ハイナンは、ブロッコリーでこの問題に挑みました。

販売に苦戦


かつて JA ハイナンが苦戦していたのが 「ブロッコリー」 の売上でした。

ブロッコリーはベータカロテンとビタミン C が豊富で、生活習慣病や老化性疾患の予防効果を期待できる野菜の1つです。日本では、出荷量が増えて国民生活に欠かせない野菜と国が判断し、2026年度からは 「指定野菜」 に追加されることになりました。

このようにブロッコリー自体への健康価値は消費者から知られてはいました。しかし、数多あるブロッコリーの中から 「JA ハイナンのブロッコリーを買いたい」 という明確な購入動機が欠けていたわけです。

インタビュー調査からの発見


そこで JA ハイナンは、ブロッコリーは消費者からどのようなイメージを持たれているかを理解しようとしました (参考記事) 。

ブロッコリーのことを 「普段使いする主婦・主夫」 と 「筋トレユーザー」 のそれぞれに、1人ひとりにインタビューを実施しました。

主婦・主夫に共通して得られたキーワードは 「子どもに栄養価の高い食事をつくりたい」 や 「なるべく料理は時短で手軽なほうがいい」 、他には 「毎日の献立を考えるのが大変」 といった、理想と現実のギャップに悩んでいる実態が見えてきました。

一方の筋トレユーザーのヒアリング結果は、主婦・主夫とはまったく異なりました。特に 「ブロッコリーを食べているというよりは、栄養を食べている」 という声があったことに象徴されるように、筋トレユーザーはブロッコリーを栄養として摂取していました。

ブロッコリーが時短で食べられることは筋トレユーザーへの便益になりそうでしたが、筋トレユーザーは海外産の冷凍ブロッコリーを大量に購入するケースが見られ、JA ハイナンからすると国産ブロッコリーであることや近隣のスーパーで購入できることには、あまり価値を感じてもらえなさそうでした。

ターゲット顧客の設定


JA ハイナンは自分たちのブロッコリーのターゲット層を時短で調理をしたい主婦・主夫層としました。手軽に食べられて栄養価の高いブロッコリーを支持する人たちです。

ちなみに、もう1つのターゲット顧客候補であった筋トレ層は、調査の結果を踏まえてターゲット顧客からあえて外すことにしました。

筋トレをしている人たちにとってのブロッコリーは、おいしく食べるよりも栄養を取る位置づけが強く、安い海外産のブロッコリーを大量に買う傾向があることからも、国内産ブロッコリーとの相性は必ずしも良くないとの判断からです。

 「ブロッコる?」 のコンセプト


ターゲット顧客の設定と顧客理解から、JA ハイナンはカット済みブロッコリーの新商品 「ブロッコる?」 のコンセプトをつくっていきました。

コンセプト設計は次のとおりです。

✓ コンセプト設計
  • コアアイデア (商品やサービスを一言で言い表したもの) : レンチン3分、ブロッコれます。
  • トップベネフィット (商品やサービスの最大の価値) : 健康 / 便利 / おいしい + かわいい。だからずっと続けられる。

✓ トップベネフィットを支える根拠
  • 原料: アミノ酸栄養液 「シィー.プロテイン」 を配合し、豊富なミネラルを摂取できる
  • 機能: 袋のままレンジで3分チンするだけ。洗わずにそのまま食卓へ。忙しい人にピッタリ
  • 情緒: パッケージをキャッチーにし、思わず手に取ってしまうかわいいデザイン

JA ハイナンの 「ブロッコる?」 は、「レンジで3分温めるだけ」 の手軽さをコンセプトに、新たな販路を開拓していきました。訴求方法をこのように変えて打ち出したところ、一気に販路が広がりました。


学べること


では、静岡県牧之原市の JA ハイナンの 「ブロッコる?」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

この事例からは、差異化に示唆が得られます。差異化の概念として POP と POD の2つをキーワードにして掘り下げます。

POP と POD


出典: MarkeZine

POP は Points of Parity の略で、その商品カテゴリーでお客さんから最低限の求められる必須の要素です。

英語の Parity は等価という 「等しい」 というニュアンスがあります。POP はそのカテゴリーの中でどの商品も等しく持っている特徴 (必須の要素) です。売り手にとってはカテゴリーに参入するために必要なチケットや入場券のような存在です。POP は他社には 「負けない」 という内容です。

POD は Points of Difference の略で差別化要素です。

商品やサービスが他と異なるユニークな価値をつくることで、お客さんからの関心を引き、選ばれる理由を提供します。POD は他社に 「勝てること」 です。

 「ブロッコる?」 の POP と POD は?


では、POP と POD を 「ブロッコる?」 に当てはめてみましょう。

ブロッコリーの POP は、おいしくて健康的な要素であり、これは消費者がブロッコリーに期待する基本的な要求です。POP はカテゴリー参入における入場券であり、POP を満たすことが第一歩となります。

それに対して差別化要素となる 「ブロッコる?」 での POD は、より手軽に調理ができること、具体的には袋のままレンジで3分チンをすれば、洗ったりする手間もなくそのまま食卓に出せるところです。

また、かわいいパッケージデザインになっていて、思わず手に取って使いたくなるような情緒的な価値もあります。

手軽さとデザイン性 (ストーリー性) という2つが POD という差別化要素になっています。

顧客定義と顧客理解からの価値創出


それでは、JA ハイナンの 「ブロッコる?」 の事例から学べることを汎用化してみましょう。

ポイントは3つあります。

✓ ターゲット顧客の設定と顧客理解
  • ビジネスは向き合うお客さんを決め、顧客ニーズ、取っている行動、思考や心理、何に価値を見出すかの価値観までのお客さんを理解することから始まる
  • JA ハイナンは、インタビュー調査を通じて主婦・主夫層と筋トレユーザーのニーズや生活文脈を理解した。調査から主婦・主夫層をターゲット顧客と定めた
  • 深い顧客理解は市場における成功の土台となる

✓ 提供する顧客価値の定義
  • 顧客理解にもとづき、自分たちの商品・サービスが提供する顧客価値を明確にする
  • 「ブロッコる?」 は、健康的かつ手軽に調理可能なブロッコリーというバリュープロポジション (提供する顧客価値) を構築した

✓ POP と POD による価値の訴求
  • 市場での基本的なニーズ (POP) を満たした上で、他とは異なる独自の価値 (POD) を訴求する
  • POP があっての POD という順序が重要。まずはその市場やカテゴリーでの基準を満たし、その上で差異化を図る

この事例は、顧客理解にもとづいた商品開発と、顧客文脈に沿った価値提案の重要性を教えてくれます。

ビジネスの世界では、お客さんの期待を超えることを目指し、独自の顧客価値を提供し続ける姿勢が求められます。JA ハイナンの事例は、他の業界やビジネスにも適用できるヒントになります。


まとめ


今回は JA ハイナンの 「ブロッコる?」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 顧客設定と顧客理解: 「ブロッコる?」 は、インタビューを通して消費者のブロッコリーの捉え方や食べ方・使われ方を理解した。筋トレユーザー層は外し、主婦・主夫層をターゲットに選定

  • POP と POD: POP は Points of Parity の略で、その商品カテゴリーでお客さんから最低限に求められる必須の要素 (他社には 「負けない」 内容) 。POD は Points of Difference の略で差別化要素で商品やサービスの他と異なるユニークな価値 (他社に 「勝てること」 ) 

  • 価値創出の順番: 参入の入場券となる POP を満たしつつ、POD という独自の顧客価値でお客さんの期待を超える。POP があっての POD という順番


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。