投稿日 2024/06/09

想い出の解体工事現場。お客さんの困りごとの奥にあるインサイトに響く価値提供

#マーケティング #顧客理解 #問題解決

お客さんが直面している 「困りごと」 をどれほど深く理解し、それに対する解決策を提供できているでしょうか?

自社で日々扱う商品やサービスは、顧客ニーズを満たすこと以上のものをお客さんにもたらせる可能性を秘めています。ただし、その潜在的な価値を引き出すためには、お客さんの悩みや未解決の問題に対して共感し、それらを解決する手段をつくり出すことが必要になります。

今回はユニークなサービス事例から、お客さんの心理を読み解き、相手の心に深く共感し、他にはない独自の価値を提供する方法について掘り下げます。

想い出の解体工事現場


出典: PHP online

昔の恋人からのプレゼント、かつて夢を追っていた時代を象徴するモノ――。そんな過去の未練を断ち切るイベントが開催されていたのをご存知でしょうか?

この無料イベントの名は 「想い出の解体工事現場」 です。

参加者は事前に思い出の品を郵送し、解体現場 (千葉県柏市) から離れた場所 (東京都渋谷区にあるマイラボ渋谷) で、遠隔でショベルカーを参加者自身の手で操作し、思い出のモノを破壊します。

バレンタインデーを目前に控えた2月8日、東京・渋谷の 「マイラボ渋谷」 には心に古傷を抱えた人たちが集まっていた。「X (旧ツイッター) でみつけて来ました」 。大学生の早川侑杜さん (21) が持ち込んだのは元カノからクリスマスにもらった加湿器だ。「他の男性と手をつないで歩いていたのを見つけてしまった。どうにでもなれという気持ちで応募しました」 

白衣のスタッフが説明を始める。「解体したものは二度と返ってきません。どうしても未練が断ちきれず、自らの手で解体できない場合はスタッフが代わりに重機を操作して解体させていただきます」 。黙ってうなずく早川さん。レバーを握って動かすと、ガコンという音とともにスクリーンに映ったショベルカーの首が左右に動く。

 「…… 設置させていただきました」 。千葉県柏市の解体現場にいるスタッフから神妙な声が響く。ショベルの真下にある加湿器を確認した早川さんがレバーを引く。ドゴンという重い音と共に思い出は粉砕された。

モニターに映し出された破片をスマホで撮影し 「かなりすっきりしました」 と笑顔をみせた早川さん。付き添いでやってきた友人2人は晴れやかな表情を見て 「別れた当時はひどいものでしたが、いい感じに未練を断ち切れたよう。これからは就職活動に専念できそうです」 と安堵する。

学べること


では 「想い出の解体工事現場」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

相手の 「困りごと」 をまるごと引き受ける


このイベントがやっていることを抽象化して捉えると、相手の 「苦手なこと」 や 「困っていること」 、「やりたいのにずっとできていないこと」 をまるごと引き受けることで、価値をお客さんに提供しているというものです。

心のどこかではやりたいと思っていても、手が付けられていなかったことに対して、きっかけを作って完了することを支援するのが 「想い出の解体工事現場」 というサービスです。

 「想い出の解体工事現場」 という解決策


少なくない人が、過去の思い出や関係、大切だったモノへの執着によって心理的な重荷を感じていることでしょう。

しかし、こうした深いジレンマや未練を断ち切る行為は感情的な難しさを伴い、なかなか自分1人では実行に移せません。その結果、家の収納スペースの中の奥に長く眠ったままの状態だったわけです。

ここに 「想い出の解体工事現場」 というイベントはユニークな解決策を提供しました。

人が直面している問題 (未練の断ち切り) を全面的に引き受け、それを特別なイベントに変えることで、破壊するという単なる物理的な行為を超えた深い心理的な満足感をお客さんにもたらします。

参加者は遠隔でショベルカーを操作して自らの手で思い出の象徴を粉々に壊すことができます。このプロセスは、ただ何かを捨てるという行為よりも、はるかに感情的な達成感や解放感があることでしょう。

どこかで過去の思い出を大切にしたいと感じている一方で、手放したい思う物をただ捨てるのではなく、手放すことを 「儀式」 に変えることによって、参加者にとって有意義に未練を断ち切れる体験となります。

お客さんの 「前向きな変化」 を促す


ビジネスとしてこの事例から学べることは、想定するお客さんの内に秘めたニーズに対して深く共感し、抱えている問題、困りごとや葛藤を解決するための独自の方法を提供することの重要性です。

その行為自体を非日常的な特別なイベントや儀式にすることによって、ただ単に済ますだけではなく、物理的にも身も心もスッキリするという顧客体験価値もつくり出せます。

この体験は、お客さんの生活における 「前向きな変化」 を促し、新たな始まりへの一歩を踏み出すきっかけとなり得るでしょう。

お客さんの未来に貢献する


加えて、この事例は、お客さんが自らの問題を解決するプロセスに積極的に参加してもらうことで、解決の達成感をより強く感じることができるという点を示しています。

人は自分自身で問題に取り組み、それを乗り越えることで、自己効力感や自己肯定感を高められ、未来に向けて前向きな一歩を踏み出すことできるのです。

顧客理解からの価値提供


学びを一般化して捉えると、ビジネスにおいては、向き合うお客さんの心理、悩みや困りごと、本当のニーズ、何に価値を見出すかの価値観に対して深く目を向けたり耳を傾けること、そして、これらを満たすための創造的で感動的な体験を提供することが重要です。

 「想い出の解体工事現場」 は、そのようなアプローチがどのように実践されるかを具体的に示しています。お客さんの心に深く響くサービスにするビジネスにとって学びを提供してくれます。


まとめ


今回は、ユニークな限定イベント 「想い出の解体工事現場」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 顧客の困りごとを解決: お客さんが手が付けられてない問題を引き受け、解決することで価値を提供する

  • 前向きな変化を促す: 非日常的なイベントのようなきっかけをつくり、物理的・心理的な満足のある体験を提供し、お客さんの生活に前向きな変化を促す。問題を解決するプロセスにお客さんに参加してもらうことで、自己効力感や自己肯定感が高まることを目指す

  • 顧客理解からの価値提供: お客さんのニーズ、顧客心理、悩みや困りごと、価値観を理解して深く共感し、他にはない体験を提供することで、お客さんに価値をもたらすことにつながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。