投稿日 2024/06/01

中川政七商店 「さんち商店」 。お客さんの困りごとを丸ごと引き受けての価値創出

#マーケティング #顧客の不 #価値提供

今回は、中川政七商店のユニークな取り組みをご紹介します。

お客さんの困りごとを丸ごと自社で引き受けることで、顧客の 「不」 をビジネスチャンスに変えている事例です。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

さんち商店街


中川政七商店が、中小工芸メーカーの販路支援を目的に EC モール 「さんち商店街」 を開設しました。

中川政七商店は製造小売や中小工芸メーカーへのコンサルティングなどを手掛ける企業です。さんち商店街で提供するサービスは、大きく3つあります。

  • Web サイトの制作
  • 集客力アップ
  • 物流業務の代行

出店メーカーへの3つの支援


3つの支援についてそれぞれ補足すると、

✓ Web サイトの制作
  • 中川政七商店の担当者がカメラマンと中小工芸メーカーに出向き、ものづくりの現場を取材、撮影したうえで、各ブランドのページを作成する

✓ 集客力アップ
  • さんち商店街は、中川政七商店の会員向けのメールマガジンなどを通じて、出店メーカーの商品を紹介する
  • 自社単独ではできない新しい顧客獲得につながる

✓ 物流業務の代行
  • 中川政七商店が商品の出荷から配送までの物流業務を代行
  • 出店メーカーは物流に関する実務作業をする必要がなく、商品制作に専念することができる

こうした中川政七商店からの支援により、さんち商店街に出店する中小工芸メーカーは EC 運営の負担が軽減され、自社の商品を効率的に開発・販売することができます。

[成功事例] 明山窯


さんち商店街に出店するメーカーの中でも、自社 EC サイトとの比較で顕著に売上を伸ばしたのが 「明山陶業 (めいざんとうぎょう) 」 です (参考記事) 。

滋賀県甲賀市にある明山陶業は、400年以上の歴史があります。扱っているのが信楽焼の窯元の 「明山窯 (めいざんがま) 」 です。明山窯は信楽焼の歴史と技術を受け継ぎ、新しい技法や表現に挑戦するブランドです。

定番品以外に450ものオリジナル商品を自社 EC サイトで展開するものの、かつては売上は多くはありませんでした。

しかし、さんち商店街に出店すると、これまでとは違う客層の目に触れ、商品の売上が約1ヶ月で自社 EC サイト販売と比べて5倍に拡大し、一時は欠品が続いたほどでした。


学べること


それでは、中川政七商店の 「さんち商店街」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

顧客課題のどこを支援するか


さんち商店街は、顧客接点となる販売場所の EC サイト構築、新規顧客の集客、商品から購入者への物流を引き受けています。

出店メーカーにとっては、こうした実務作業を中川政七商店に任せることで、その分を想定するターゲット顧客の定義や顧客理解、商品のものづくり、価格設定に注力することができるわけです。

マーケティングの 4P に当てはめれば、Product (商品) と Price (価格) は自社で専念し、4P の残りの2つである Place (販売チャネル) と Promotion (販促活動) は中川政七商店がやるという役割分担がきれいにできています。

顧客企業の 「不」 を引き受ける


では、中川政七商店のやっていることを汎用化して捉えてみましょう。

お客さんが抱えている 「不」 にはビジネスチャンスが眠っています。

不というのは、たとえば、可能なら本来はやりたいことなのに、人材や設備、資金、技術・ノウハウが不足していることによって十分にできていない、あるいは中途半端に取り組んでいることで他のことへの手が回っていない状況のことです。

将来を考えると重要なことだとわかっているものの、一方で緊急を要するものではないために、ズルズルと後ろ倒しになっているケースです。

こうした 「顧客の不」 を自社で引き受けることで、お客さんにとっての価値を発揮できる機会になり得るのです。

 「お客さんの苦手なところや対処し切れていない課題を、自分たちで丸ごと引き受けられないか」 。中川政七商店からは、こうした発想で市場でのビジネスチャンスをつかみにいく貪欲な姿勢を学べます。


まとめ


今回は中川政七商店の 「さんち商店街」 の事例から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • さんち商店街は、出店する中小工芸メーカーのマーケティングの 4P の中で、Place (販売チャネル) と Promotion (販促活動) の役割を担う。出店メーカー社は中川政七商店に任せることで、自分たちは Product (商品) とPrice (価格) に集中できる

  • 顧客が抱える不 (人材, 設備, 資金, 技術の不足などによる課題の未対処) はビジネスチャンスになる。顧客の不を自社で丸ごと引き受け支援することで、お客さんにとっての価値を提供する。その結果として自社の市場価値が高まる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。