なぜビジネスの成長につながると思われた施策が、期待通りの成果を上げないのでしょうか?
その答えは 「マーケティング 思考 (マーケティング OS) 」 の有無にあるのかもしれません。
そこで今回は、 「マーケティング思考 - 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること (山口義宏) 」 という本を補助線にして、ビジネスの成功に導くマーケティングの本質と、その実装方法を紐解きます。
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ぜひ一緒に学んでいきましょう。
本書の概要
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マーケティングを強化したのに、期待したほど業績が伸びないのはなぜでしょうか?
その理由はマーケティング人材が 「木を見て森を見ず」 の状態だからかもしれません。
この本のタイトルは 「マーケティング思考」 ですが、マーケティングを活用してビジネスや仕事で成果を出すための考え方を解説する本です。
後ほど詳しく触れますが、「マーケティング OS」 (OS はスマホの iOS や Android などの Operating System のこと) を、いかに持つかというテーマで書かれています。
本書は企業が陥りがちな落とし穴に焦点をあて、BtoC, BtoB の事業形態を問わず、マーケティングから成果を出せる組織・チームとは何か、その育成法をわかりやすく紹介します。
マーケティング OS
OS はオペレーティングシステム (Operating System) の略で、スマホのアプリやパソコンを動かすために必要なシステムです。
マーケティング思考で大事になるのが、マーケティングにおける OS に当たる部分です。具体的には次の3つです。
✓ マーケティング OS
- 誰に (顧客理解)
- 何を (顧客価値)
- どのように (施策の全体概要 (例: 4P (Product, Place, Price, Promotion) ) )
これらがマーケティングの OS に当たります。
マーケティング OS を構成する 「顧客理解」 と 「顧客価値」 が重要です。この2つがあってこその、"どのように" に該当する施策が活きるわけです。そして、OS が動かす 「アプリ」 は、施策の詳細内容の把握と実行の領域です。
OS とアプリの強化については、マーケティング OS は内部人材の育成を行うことが大事です。アプリ強化については、外部リソースの活用も検討に入れるといいでしょう。
事業の4つのフェーズ
この本では、マーケティングで成果を出すにあたって、4つのフェーズに分けて解説しています。
✓ 四段階のフェーズ
- 立ち上げフェーズ (0 → 1)
- 成長フェーズ 前半 (1 → 10)
- 成長フェーズ 後半 (10 → 100)
- 市場や自社シェア縮小の局面
順番に見ていきましょう。
立ち上げフェーズ (0 → 1)
新商品の開発、新しいビジネスを立ち上げる初期フェーズが 「0 → 1」 となる段階です。
立ち上げフェーズにおいて、マーケティング OS の1つである 「顧客理解」 で注力して掘り下げるのは、購入顧客の選んでくれた理由、買った理由です。商品やサービスの具体的に何が魅力なのか、どこが刺さってているのかを理解します。
もう1つの OS の要素である 「顧客価値」 で焦点を当てるのは、選択の候補に入るためのカテゴリーで求められる基本的な価値 (POP (Points of Parity) ) と、独自性の価値 (POD (Points of Difference) ) です。他より安いという価格以外での独自価値があるかどうかに注目します。
立ち上げフェーズで成功を分けるのは、顧客理解と顧客価値を合わせての 「PMF の達成」 です。PMF は Product Market Fit の略で、プロダクトがマーケットにフィットしているか、つまり自社商品がお客さんに、その価格で本当に欲しいと思ってもらえているかです。
立ち上げフェーズでは事業を小さく生んで、大きく育てることがセオリーですが、一番の成功パターンは、 参入した市場でお客さんから新しいサブカテゴリーと認識される独自性を打ち出し、市場に対してその独自性がいかに優れているかを啓蒙し、徐々にそのサブカテゴリーへの需要自体がメジャーなニーズへと育てていくというアプローチです。
このときに、低コスト体質から価格を安くしたり、または先行企業にはない独自の強みを発揮することで勝ち筋を見出せるといいでしょう。
成長フェーズ 前半 (1 → 10)
立ち上げフェーズで PMF が見えてきたら、次のステージに入ります。
PMF が実現できていれば、引く手あまたな状況になります。商品の良さが伝わり、認知や知名度が上がり、商品がお客さんを連れてきてくれるという、お客さんがお客さんを呼んでくれるような状態です。
成長フェーズの前半 (1 → 10) で力点を置く 「顧客理解」 は、継続購入顧客についてです。リピート顧客が自社商品を選び続けてくれる理由は何かです。
もう1つ顧客理解で深めたいのは、購入の候補に入ったり検討はしたものの買わなかった人の非購入理由です。買おうと思ったのにもかかわらず、なぜ結局は選ばなかったのかです。
次に 「顧客価値」 で磨くのは、立ち上げフェーズから継続して、カテゴリーで求められる基本価値 (POP) と、独自性の価値 (POD) です。
成長フェーズの前半で目指すのは 「LTV > CAC」 という、顧客生涯価値 (Life Time Value (LTV) ) が顧客獲得単価 (Customer Acquisition Cost (CAC) ) を上回るユニットエコノミクスの実現です。「LTV > CAC」 の状態が意味するのは、お客さんを獲得するためのコスト (CAC) よりも、お客さんがもたらしてくれる価値が多いこと (LTV) 、つまりお金をかけた以上の収益が生まれることです。
顧客期間全体で見たときの黒字化というユニットエコノミクスが成立していれば、目先の赤字を掘ってでも勝ち筋に投資をしていくことが大事です。これを実践しているのが成功するベンチャー企業の特徴です。
成長フェーズ 後半 (10 → 100)
顧客層を増やし、それぞれに合った顧客価値を増やしていくのが成長フェーズの後半です (10 → 100) 。このステージでは、事業の複雑性が一気に高まるのが特徴です。
顧客数を増やすためには、今までとは違った新たなお客さんの獲得が必要になります。よって、顧客理解では新しい見込み顧客の理解を深めるといいです。選ばれる理由での新しい視点は何かです。また、引き続きリピート顧客の継続購入理由の理解も深めていきます。
顧客価値では新しい顧客獲得のために、今までとは異なる顧客文脈における価値をつくっていくことが大事です。
成長フェーズの後半ではクロスセルが有効な1つになります。
なお、クロスセルには注意点があり、クロスセルは既存の主力商品への信用があってサブカテゴリーなどの商品を買ってもらえます。しかし肝心の主力商品の魅力がなくなっていくと、クロスセルが効かなくなることに注意が必要です。主力商品へ継続的な投資が大事だということです。
成長フェーズを経て会社の規模が創業時から大きくなると、業界では中規模の会社に成長します。
ここに中規模企業ならではのポジショニングの難しさがあります。というのは、大手ほど規模が大きくなく、小規模企業ほどはスピード感が出せないという中途半端な状態に陥ってしまうからです。
そこで、それぞれを逆手に取り、大企業よりは対応スピードが早く、柔軟性や密着型の対応ができること、その一方で小規模企業よりも規模がある会社と思ってもらい、会社としての信用度をアピールするといいでしょう。このように弱みと見られそうな要素を、それぞれへの強みに転換するわけです。
市場や自社シェア縮小の局面
フェーズで最後の四段階目が、市場自体が成長していないフェーズです。
市場が成熟していたり、縮小傾向にある状況です。または、市場全体は伸びているのにもかかわらず、自社商品・サービスの人気に陰りが出で、自社が衰退している状態もこのフェーズに含まれます。もし市場が縮小する中で、さらには自社シェアも低下するとダブルで売上が減るという危機的な事態に陥ります。
成熟や衰退のフェーズの顧客理解で必要になるのは離反理由、競合他社へのスイッチ理由です。こんな状況でも残ってくれている既存顧客はありがたい存在ですが、顧客理解において掘り下げるべきは離れてしまっている・しまったお客さんの行動と心理です。
顧客価値では、市場での競争力の回復のために今までの顧客価値を見直すときが来ています。
自分たちのビジネスのテコ入れのためには、分散していた施策やリソース配分の再設計も必要になるでしょう。
事業資産と施策のかけあわせ
ビジネスの成果は、「環境 × 事業資産 × 施策」 という掛け算で見通すことができます。
まず成果への前提として参入している市場というビジネス環境があります。
事業資産とは
そこに事業資産を使うわけですが、事業資産とは、ヒト・モノ・金などのリソースやブランド資産、顧客資産などです。
- 実体資産 (例: 研究開発力, 技術力, 製造力, 組織力など)
- ブランド資産 (対象市場で知覚認識されている名前, ロゴ, 提供する顧客価値への期待, 信頼などのイメージ)
- 顧客資産 (既存顧客の数と質, 見込み顧客の数と質)
事業資産に戦略から落とし込まれたマーケティング施策が掛け合わさることで、どれぐらいの成果になるのかが決まります。
事業資産に見合わない施策をすると…
もし事業資産が劣化してしまっていたり、目標とする成果に対してそもそも資産が足りない状況では、いくら施策の筋が良くても期待水準に達する成果とはならないでしょう。
事業を立ち上げてからの 「成長フェーズ」 で組織が疲弊するのは、事業資産が十分に蓄積されていない中で、資産に見合わない無理な施策を強行しているか、資産に対して目標売上が高すぎる場合においてです。
資産価値以上の売上成果を社内に求め続けてしまうと、マーケティング施策の ROI (Return of Investment 投資対効果) は悪化し、顧客獲得コスト (CAC: Customer Acquisition Cost) が上がります。
こうなると実態を超えた価値に見せて無理やり売ることにつながり、いざ売れても継続購入されず、評判も悪化するという負のサイクルを誘発します。
事業資産に投資し運用していく
だからこそ、施策を掛け合わせる対象となる 「事業資産」 について、(目に見えないものも含まれるので) 定義や評価をし、自社の事業資産は何がどれほどあるかを明確にすることが重要です。
また、将来の事業資産の構築に向けて投資をし、資産を運用していく意識を持つことも大事です。
マーケティングが強い組織
マーケティングが組織的に "機能しない要因" は大きく3つです。
- エースが孤立し、他のメンバーがついていけない
- 組織全体のマーケティングのレベルが低い
- マーケティングの知識はあるが、実行力が弱い
経営者のマーケティング組織への評価でよく起こりがちなのは、マーケティングに期待をしているものの、成果がわかりにくく、マーケティングの中身が具体的に何をやっているかわからずブラックボックスになっていることです。
こうしたことから、経営者の頭の中ではマーケティング組織やマーケティング自体への不安や不信感が生まれてしまいます。
マーケターが一番向き合うべきは社外のお客さんですが、マーケティングを広く捉え社内の関係者もお客さんと見立てる 「インターナルマーケティング」 では、経営層へのマーケティングにも注力すべきでしょう。
それが自分自身やマーケティング組織を助けることになります。
まとめ
今回は、書籍 「マーケティング思考 - 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること (山口義宏) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ビジネスの成功へは 「顧客理解」 「顧客価値」 「適切な施策」 の3つの要素で形成されるマーケティング OS が大事になる。OS を実装し、具体的に施策の実行領域に当たるアプリを動かしていく
- 事業の各フェーズ (立ち上げ, 成長前半, 成長後半, 市場成熟・縮小) に合わせた戦略が必要。各段階で顧客設定と理解、提供する顧客価値、その方法を見直し、適応することが成功へのカギを握る
- マーケティングの成果は 「環境 × 事業資産 × 施策」 の掛け算から。環境の良し悪しがあり、事業資産の適切な管理と投資、そして施策の量と質が長期的な成功を左右する
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