投稿日 2024/06/06

愛車をメディアに、推し活動を広告に。マイカー広告で生まれる消費者とブランドの新たな関係

#マーケティング #広告 #ファン心理

今回は、ユニークな広告媒体を取り上げます。

自分の車のドアや後方のガラス窓に広告を貼るという 「マイカー広告」 です。

マイカー広告に学ぶ、消費者の心をつかむ方法、Win-Win となるビジネスモデルをつくる秘訣を、ぜひ一緒に探っていきましょう。

マイカー広告


出典: Cheer Drive

走った分だけ報酬ゲット


自家用車を使った広告を手掛けるスタートアップ、チアドライブのサービスが人気を集めています。

マイカー広告というもので、所有する自分の車に好きな商品やサービスの広角ステッカーを貼って走ると、広告を付けた車で走った分だけ報酬として広告掲載料が得られます。サービス開始から約2年半で登録者数は5万5000人を突破したとのことです (参考記事) 。

マイカー広告サービスの中身


どういった広告があるかというと、広告主は野球やサッカーなどのプロスポーツチーム、ゲーム、ご当地キャラクター、飲食店までと幅広いです。ユーザーは専用アプリをダウンロードし、好きな商品やサービスの広告を選んで申し込みます。

送られてきたステッカーを車体に貼り付け、外観と走行距離メーターを撮影してアプリから申請します。

チアドライブが提供するマイカー広告ステッカーにはシースルーフィルムを使い、運転時の後方の視界も見えるようになっています (ちなみに後部のガラス窓はステッカーを貼っても交通違反にはならない) 。

 「推し活」 としても人気に


チアドライブのマイカー広告は、広告シールを車体に貼り付け、決められた距離を走行すると、1ポイント1円相当の走行ポイントや企業からの特典が獲得できるという仕組みです。

金銭価値のあるポイントを得ることでお小遣いや副業にもなりますが、自分の好きなアイドルやキャラを応援する 「推し活」 の一環として参加する人もいるようです。

たとえば、キャラをアイドルに育成する人気ゲーム 「アイドルマスター」 の広告ステッカーを貼る企画は、すでに4回実施され、申込者数が通常のキャンペーンの何倍にもなるとのことです (参考記事) 。

他には、仮想アイドル 「初音ミク」 を使った 「レーシングミク」 のキャンペーンでは、走行距離に応じて関連グッズがもらえるので、広告を貼る車の持ち主側が参加費を支払う仕組みにだったもかかわらず、出足が好調でした。申込みは最低でも通常の 2 ~ 3 倍に到達すると期待されていました。


学べること


ではチアドライブのマイカー広告の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

チアドライブの広告サービスは、次の2つが成立しているおもしろい仕組みです。

  • 広告をする 「ドライバー」 も、その 「広告主」 にも双方にメリットがある (Win-Win の仕組み) 
  • 広告ステッカーをつけて走ることが 「ファン活動」 や 「推し活」 になる

ドライバーの恩恵


ドライバー側のメリットに焦点を当てると、マイカー広告の利用者は日常の中での運転を通じて副収入を得ることができます。インフレ基調の物価高の現在において、収入源を複数持つために有効な手段となります。

さらに、マイカー広告を通して金銭的な収入を得られるだけでなく、特定のブランドや商品のファンである人にとっては、自らが推し活動の一環として参加できることで、感情的・情緒的満足感も得られます。自分の好きな商品やサービス、キャラクターを宣伝することでブランドや推しへの愛着を深めることにつながるでしょう。

広告主のメリット


広告主は、広告を貼った車が市内の道路を走行することで、自社のブランドや商品の認知度を高められます。その地域に根ざした広告効果を期待できるほか、推しのコミュニティなどの特定のターゲット層へのアプローチも期待できます。

ドライバーからのフィードバックとして、たとえば走行データを分析することで、次のマイカー広告の精度を高めることもできるでしょう。

他の広告手法と比べ、広告ステッカーを貼って走ってくれるドライバーは、自らが商品やサービスの広告を選んだ人、応援してくれるファンと言えます。こうした人たちを通じて広告を行うことで、より信頼性の高い宣伝になります。

ファン心理をつく仕組み


チアドライブのマイカー広告で注目したいのは、このサービスがファン活動や推し活につながっているという点です。

商品やブランドのことを好きでいてくれる人の中には、単に商品を購入するだけではなく、ブランドや商品に対しての愛着から、より積極的に支持したいと思ってくれる人もいることでしょう。

チアドライブは、自分の好きなブランドやキャラクターがいる人に対し、マイカー広告の参加でその愛着を具体的な行動に変える機会を提供しています。お客さんやファンとブランドの関係を強化し、長期的なロイヤルティを構築するために効果的に機能します。

また、一部ではあると思いますが、同じ広告ステッカーを貼っているドライバー同士の交流やコミュニティ形成を促進します。

同じ商品やサービスを支持する人々が、広告ステッカーを通じて互いに認識し、コミュニティでは情報交換や共感を共有する場が生まれることでしょう。自分たちの推しに対する熱量はさらに高まります。

* * *

ここまで見てきたように、チアドライブのマイカー広告というビジネスモデルは、ドライバーと広告主の両方にメリットをもたらすだけでなく、消費者とブランドの間に新たな関係性を築きます。

このような多層にわたって Win-Win となるチアドライブの事例は、広告だけにとどまらずビジネスへの示唆があります。


まとめ


今回はチアドライブのマイカー広告を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • チアドライブの事例は、マーケティングにおける信頼性の高い広告とは何かに示唆がある

  • マイカー広告はドライバーと広告主の双方に利益をもたらす。ドライバーにとっては日常運転から副収入が得られるだけではなく、応援や推しの機会になる

  • 広告主にとっては、ユーザー自らが商品やサービスの広告を選び、応援してくれるファンもいることから、走行地域に根ざした広告効果を期待できる。推しのコミュニティなどの特定のターゲット層にアプローチできる

  • ファン心理をうまくつく仕組みになっている。広告を通じた 「推し活」 は消費者のブランドへの愛着を深める。ファンコミュニティの形成も促進する可能性も生まれる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。