#マーケティング #トレードマーケティング #顧客理解
かつてメーカーの営業といえば、「いかに安くできるか」 が勝負の分かれ目でした。
しかし、値引きという武器に頼らない戦略で商品をヒットさせている企業があります。それがユニ・チャームです。
ユニ・チャームの成功の裏には、一体どのような秘密が隠されているのでしょうか?
今回は、ユニ・チャームの事例を紐解きながら、「トレードマーケティング」 の本質に迫ります。
トレードマーケティング
今回の事例でキーワードになるのが 「トレードマーケティング」 です。
トレードマーケティングとは
トレードマーケティングとは、小売とショッパー (お店への来店客) をつなぐ取り組みです。商品を見つけやすく、買いやすい売場を実現することで、売上拡大を狙います。
営業活動や販促活動の裏側には 「誰に」 「どんな価値を」 「どう届けるか」 という視点があります。トレードマーケティングはそれを流通と店頭という現場で体現する仕組みです。
トレードマーケティングは、配荷、棚割り、価格、店頭販促という4つの領域を戦略的に組み合わせ、ショッパーが自然に商品を手に取れる環境を整えます。
トレードマーケティングによって、小売業からの仕入れ需要を促進したり、来店したショッパーの店頭需要を喚起します。トレードマーケティングは 「商品とショッパーをつなげる架け橋となる」 という捉え方ができます。
ユニ・チャームの取り組み
ユニ・チャームは 「値引きで売る」 ではなく、来店客にとって 「買いやすい売場をつくる」 ことを起点に動きました (参考情報) 。
例えば、都心のドラッグストアでは、面積の制約から小売店からはペット用品が敬遠される傾向にありました。しかし実際にはペットを飼う世帯は増加し、消費者からのニーズは確実に存在していたのです。
ユニ・チャームはその隠れた需要を見抜き、ペットフードやおやつを導入すればショッパーの利便性が高まり、店舗の来店動機が生まれると小売のバイヤー (製品の仕入れ担当者) に提案しました。
結果、お店への来店客は 「ここなら愛犬のフードが買える」 という利便性を実感し、自然にリピート客となっていきました。
商品とショッパーをつなぐ架け橋を実現した好例です。
トレードマーケティングで重要なインサイトの発掘
トレードマーケティングでは、バイヤーが抱えているカテゴリー課題に向き合います。
バイヤーの課題感に対し、メーカー側は 「自社ブランドが持つカテゴリー全体の売上や成長への貢献要素を見出し、ショッパーの課題感を解消するための戦略・アイデア」 を提供していきます。
ここで重要になるのが 「インサイト」 です。インサイトとは購入しようと意思決定するにあたっての無意識での判断軸のことです。
「売りたいか」 と 「売れるのか」
小売のバイヤーのインサイトには2軸あります。「売りたいか」 と 「売れるのか」 です。
前者の 「売りたいか」 とは、バイヤーがこの商品を売りたいと思えることです。バイヤーが抱える課題や困りごとを解決してくれると期待できる要素です。
一方の 「売れるのか」 は、購買者のショッパーが買いたくなる要因です。ショッパーが店頭で手に取ると信じるに足る理由があることが大事です。
売れるのかの証明には、商品力、企画力 (マーケティングや販促) 、データや調査からのファクトの提示、消費者やショッパーのインサイトの言語化と一般化がポイントになります。
ユニ・チャームが発掘したインサイト
ユニ・チャームが東京・港区のドラッグストアで実践したペット用品の展開は、「売りたいか」 と 「売れるのか」 の2つの軸をうまく捉えた事例です。
バイヤーインサイトの 「売りたいか」 という観点では、ドラッグストアは新しい来店動機が欲しい、合わせ買いで客単価を上げたいという課題を抱えていました。新聞購読率の低下でチラシの効果が薄れ、値引き販促では限界があるため、カテゴリー全体を伸ばす提案が求められていたのです。
一方、ショッパーインサイトへの 「売れるのか (買いたいか) 」 では、例えば、都市部の高収入世帯が EC サイトのネットで買っていたペットフードを、帰宅途中にドラッグストアで手軽に買えるなら便利だと感じる利便性が購買のトリガーでした。
都心のドラッグストアの多くは、面積の小ささを理由にペットフードなど客層が限定される商品の仕入れを嫌う傾向がある。しかし、実際には都心でペットを飼う家庭が増えており、需要は高まっている。このギャップに、ユニ・チャームは着目したわけです。
ユニ・チャームはバイヤーインサイトとショッパーインサイトの両面を押さえ、ペットフード商品をお店に扱ってもらえれば、カテゴリー全体の来店動機が生まれるというロジックを提示。ユニ・チャームの営業企画部のメンバー全員で赤坂の街を歩き回り、ペット用品が充実している店舗はほとんど見つからなかったという事実も、小売のバイヤーへの説得力のある材料となりました。
ユニ・チャームは、現場にいる小売のバイヤーですら気づかない新たな来店動機をいち早く見抜き、説得力のある材料で販売提案を行ったのです。
バイヤーの頭の中 (売上の分解)
バイヤーは、頭の中で無意識的にも売上の分解を考えています。
売上は客数と客単価に分けられますが、バイヤーの思考は、客数である 「カテゴリー客数の増加」 、客単価となる 「来店頻度や購入頻度」 、「商品単価やカテゴリー単価」 の向上につながるかを考えています。
これらの課題というのは、特定の商品やブランド単体ではなく、あくまで 「カテゴリー全体視点」 での課題感です。
よって、あるブランドの販売増によってそのブランドの購入数量が伸びたとしても、カテゴリー全体で数量の伸長が見られなかったり、(価格が安いブランドであったため) カテゴリー全体の売上が下がれば、それはバイヤーにとっての売上課題の払拭にはならないのです。
そこで、売上課題に対するバイヤーの 「売りたいか」 をメーカー担当者が満たすためには、「カテゴリー客数」 や 「カテゴリー客単価」 が上昇するという期待感を醸成するような訴求が必要になります。
因数分解で見えたユニ・チャームの成長の道筋
ユニ・チャームは売上を 「購入単価 × 購入点数 × 購入頻度」 に分解して提案しました。
カテゴリー客数では、ペットフード導入により新規客層を呼び込むことができます。都心でペットを飼える層は高収入である確率が高く、価格よりも利便性を重視する優良顧客になる可能性が高いでしょう。
カテゴリー客単価については、ペット用おやつだけでなく、ペットシートの 「デオシート」 や猫用トイレ 「デオトイレ」 などの関連商品の合わせ買いで引き上げることができます。食品売場とペット用品売場を隣接させるレイアウトを提案し、買い物中の視界に自然と入る設計まで考え抜きました。
購入頻度の面では、ペット飼育世帯は高頻度で買い続けるリピーターになります。愛犬のお気に入りのおやつがあれば、それを求めて定期的に来店する強力な動機となることでしょう。
このように、ユニ・チャームの提案はバイヤーが無意識に考えている 「カテゴリー全体の売上貢献」 へ直結することが期待できます。メーカー視点の 「商品単体やブランドの売上」 ではなく、バイヤー視点の 「カテゴリー売上」 を伸ばす姿勢が信頼を獲得しました。
トレードマーケティングの実践
では、最後のパートでは、トレードマーケティングから成功にどうつなげるかを詳しく見ていきましょう。
メーカーの営業担当者の役割
メーカーの小売への営業に求められる役割は変わりました。もはや価格条件に終止する交渉だけでは通用しないでしょう。
営業は価格条件だけではなく、カテゴリー全体を伸ばすストーリーをバイヤーに提示する必要があります。ショッパーインサイトに刺さり 「なぜ売れるのか (買いたいか) 」 を証明し、バイヤーが 「売りたいか」 とも思える提案です。
メーカーが目指すべきは、自社商品の売上増だけではなく、バイヤーが担当するカテゴリー全体の客数や客単価アップを実現すること。これこそが、バイヤーの 「売りたいか」 というインサイトに直接響くのです。
ユニ・チャームの提案ストーリー
かつての営業は 「いくら値引きできるか」 で勝負していました。一方のユニ・チャームは、データと現場観察からの洞察を武器に、バイヤーの課題に結びつくストーリーを提示しました。
ペット用品売場と食品売場を隣接させるレイアウトをどう展開すると売上を最大化できるかの企画を立案。さらに、別の食品のキャンペーンと連動させ、ペット用おやつや関連商品を同じ動線に配置して、買い物中の視界に自然と入る設計としました。
ペットフードは新規来店動機の創出、食品をついで買いしてもらい来店1回あたりの売上増加と、これらは 「カテゴリー全体の伸長」 を狙っての提案です。
注目したいのは、ユニ・チャームが毎週商談に行くことを営業部門のルールとして徹底している点です。週次で前週の実績を確認し、次週の施策を提案する。失敗したとしても迅速に次の提案を持っていく。その繰り返しが小売からメーカーへの信頼につながります。
同様の成功は、ベビー用おむつでも実現しています。
スーパーでは小容量パックしか置かないのが定石でしたが、小売店の販売データである ID-POS データを分析すると、少量ではなくリピート買いが習慣化しているショッパーが多いことが判明しました。
そこで大容量パックを主力に据えることで、来店1回あたりの売上を押し上げる提案が功を奏しました。
営業企画部では 「買った商品点数」 「単価」 「購入頻度」 のどこで伸ばすかを週次の商談テンプレートに落とし込み、成功した方法は横展開して翌週の商談に即投入しています。
リアリティに乏しい現場感のない机上の提案を避けるため、営業企画部自らも店舗の売場を回る運用を徹底。現場100回という営業手法は昔から言われますが、データを眺めているだけでは、商売の本質が見えてこないことを教えてくれます。
三方良しの実現
トレードマーケティングの真髄は、メーカー・小売・ショッパーの三方良しを実現することにあります。
バイヤーの Win は、新しい来店動機を得て、競合店舗との差異化とカテゴリー全体の売上増を達成できることです。値引き競争から脱却し、利益率を改善しながら成長できる点です。
次にショッパーの Win は、欲しい商品が身近なドラッグストアで手に入り、利便性と買い物体験の質が向上することにあります。都心の忙しいパワーカップルが愛犬のおやつを帰宅途中に買える、子育て世帯が大容量おむつをまとめ買いできるなど、これらはショッパーの生活を豊かにします。
メーカーであるユニ・チャームの Win は、価格競争に巻き込まれず、小売との信頼関係を強化しつつ新しい成長機会を獲得できることです。
ユニ・チャームは値引きではなく、三方良しで売場を活性化するというトレードマーケティングの理想形を体現していると言えます。
メーカーは自社の利益だけでなく、カテゴリー全体の成長を目指す視点が重要です。
バイヤーとショッパーの Win-Win を実現することでバイヤーや小売店との信頼関係を構築する。ひいては自社の Win にもつながる三方良しを目指す。この三方良しの関係こそが、トレードマーケティングが目指したい姿なのです。
まとめ
今回は、ユニ・チャームの小売への営業事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- トレードマーケティングとは、小売業者とショッパーのニーズを理解し、商品配荷や棚割り、価格設定、店頭販促などの施策により商品とショッパーをつなげる取り組み。売場全体の価値を高めることを目指す
- 売上を増加させるためには、ショッパーの視点に立ち、商品を見つけやすく 「買いやすさ」 を最大化させる
- 魅力的な提案のために、顧客文脈や無意識的な購買心理 (ショッパーインサイト) 、小売のバイヤーの課題感や判断軸 (バイヤーインサイト) も深く理解する
- トレードマーケティングで求められるのは、バイヤーが 「売りたい」 と思えるようなカテゴリー全体の成長を目指す施策と、ショッパーの 「買いたい」 という気持ちを同時に満たす提案
- メーカーは自社の利益だけでなく、カテゴリー全体の成長を目指す視点が重要。バイヤーとショッパーの Win-Win を実現することでバイヤーや小売店との信頼関係を構築する。ひいては自社の Win にもつながる三方良しを目指す
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