#マーケティング #ブランディング #らしさ
自社の商品やサービスには、他にはない 「らしさ」 はあるでしょうか?
そしてその 「らしさ」 は、お客さんからの選ばれる理由をつくり出しているでしょうか?
今回は、森永製菓の 「板チョコアイス」 の事例から、ブランディングへの学びを掘り下げます。
森永製菓 「板チョコアイス」
出典: 森永製菓
森永製菓の 「板チョコアイス」 は、1995 年の発売以来、多くの人に親しまれてきたロングセラー商品です。
商品名の名前の通り、板チョコのような見た目と、「パキッ!」 とした独特の食感が特徴のアイスです。
板チョコアイスは長年、秋冬の限定商品として確固たる地位を築いていましたが、消費者からの 「夏でも食べたい」 という声に応え、2020 年から通年販売へと変えました。
しかし、思うように夏場の売上が伸びないという状況に直面します。
そこで森永製菓は方向転換を決断します。
2023 年から夏限定のさっぱり味、秋冬限定の白い板チョコアイスを投入。季節に合わせた商品を用意しました。
加えて重要だったのは、消費者へのデプスインタビューから得た気づきでした。お客さんは板チョコアイスを 「自分へのご褒美」 として食べていました。
そこで新たな CM では 「板チョコちゃうねん、アイスやねん」 というメッセージを展開。
板チョコの代替品としてではなく、特別なデザートとしての価値を訴求する方針へと舵を切りました。
* * *
では、森永製菓 「板チョコアイス」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、ブランディングの観点で学びが得られます。
ブランド設計
ブランドとは、お客さんの心の中に生まれる 「好ましい感情」 が伴った商品やサービス、あるいは企業のことです。
好ましい感情とは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したいなどの気持ちです。
では、森永製菓の板チョコアイスは、どのようにしてその感情をデザインし直したのでしょうか?
板チョコアイス 「らしさ」 の創出
板チョコアイスが消費者から愛される理由は、他のアイスにはない特有の 「らしさ」 があるからです。
ここで言う 「らしさ」 とは独自性です。板チョコアイスでは、「パキッ!とした食感」 と 「なめらかなアイスの口当たり」 のふたつの要素が絶妙な組み合わせがそうです。
アイスのフレーバーとしてのチョコレートは他のアイスにもありますが、板チョコアイスはチョコレートをそのままアイスにしている商品です。
本物のチョコレート感として重要となるパリパリ食感と、冷凍下で食べる際に口どけの良いチョコレートが追求されたアイス。ここに板チョコアイスの 「らしさ」 があります。
商品やサービスに 「らしさ」 があるからこそ、お客さんは数ある商品・サービスの中から 「これがいい」 と指名買いのように選ぶわけです。ブランドは「らしさ」 に 「好き」 「満足」 「共感」 といった好ましい感情が結びついた時に、その輝きを増します。
森永製菓は、板チョコアイスの限定商品を展開する際も、パキッという食感となめらかさを決してブラしませんでした。
夏はさっぱり、冬はホワイトチョコと、板チョコアイスのフレーバーのバリエーションは広げつつも、ブランドの軸である顧客価値は一貫して守り抜いたわけです。だからこそ、新しいお客さんを獲得しながらも、既存のお客さんを裏切ることがなかったのでしょう。
「ご褒美」 という感情移入の発見
森永製菓が行った方向転換で興味深いのは、消費者の声からお客さんにとっての板チョコアイスの価値を見出したことです。
森永製菓は当初は 「夏に食べられる板チョコ」 として、板チョコの代替品のような位置づけをとっていました。
しかしユーザーインタビューで明らかになったのは、お客さんは板チョコアイスを 「自分へのご褒美として食べている」 ということでした。板チョコの代わりではなく、特別な時に食べる贅沢なものとして板チョコアイスのことが認識されていたのです。
自分へのご褒美というのは、満足感や自分への誇り、ちょっとした贅沢感といった感情と結びついています。今日も一日がんばった自分を労って癒やすちょっと特別な存在。そんな情緒的な価値が、物理的な 「パキッ」 という板チョコアイスの食感の上に積み重なっていたわけです。
チルドデザートやコンビニスイーツの値段が上がる中で、板チョコアイスは 「お得で手に取りやすい贅沢」 というポジションを狙えます。日常のささやかな贅沢とつながる、ちょうどいい特別感。これが板チョコアイスのブランドイメージをつくります。
ブランディング活動
商品・サービスが、お客さんの心の中に好ましい感情を伴って育つように土壌を耕すのが、ブランディング活動です。
良い商品体験があってこそ、ブランディングは効果を発揮します。
体験に感情が伴いブランドができる
ブランドは五感での体験から生まれ、感情移入を経て、価値のイメージとして定着します。
板チョコアイスは、この流れが設計されています。
板チョコそっくりの見た目という視覚的インパクト。パッケージの 「パキッ!」 という表示も食感を視覚的に伝えます。
袋を開けた瞬間のチョコレートの香り、割る時の 「パキッ」 という心地よい音、歯で噛んだ時の硬い感触、その後に広がる滑らかな口どけ。これらの五感での要素が組み合わさることで、板チョコアイスに対して 「おいしかった」 「板チョコアイスが好き」 などの好ましい感情が生まれることでしょう。
さらに 「自分へのご褒美」 という意味づけが加わることで、板チョコアイスへの満足感や誇り、高揚感といった感情移入も起こります。
板チョコアイスの 30 周年企画で展開されたアイドルマスターとのコラボや、タレントをアンバサダーに起用した企画は、板チョコアイスへの 「好き」 や 「応援したい」 という感情を醸成します。また、30 年前に社員が描いた誕生秘話漫画を公開することにより、「板チョコアイスにはこんな想いが込められていたんだ」 という共感も生まれるでしょう。
板チョコアイスへの 「板チョコらしいパキッと、アイスならではのなめらかさ」 という品質価値に、「ちょっとした特別感のあるアイス」 という情緒価値が合わさり、消費者の頭の中に 「板チョコアイス = ちょうどいい贅沢」 という価値イメージが定着するわけです。
板チョコアイスのブランディング活動
板チョコアイスの顧客価値を、お客さんに知ってもらったり、思い出してもらう、あるいは忘れられないために、板チョコアイスは様々なブランディング活動を展開しました。
まず、通年販売と季節限定品の投入です。板チョコアイスがいつでも買えるという状況をつくると同時に、限定商品は今しか味わえないという特別感を両立させました。
また、強い想起フレーズと視覚記号の活用もあります。「板チョコちゃうねん、アイスやねん」 という言葉や、商品パッケージの 「パキッ!」 という文字は、ブランドの中心的な価値を訴求したり思い出してもらうフックとなります。
そして、30 周年のストーリーやコラボレーションによるブランディングです。
板チョコアイスの誕生秘話の漫画で商品の背景にある想いを伝え、人気アイドルやアンバサダーとの特別企画で板チョコアイスへの 「好き」 「応援したい」 という気持ちを増幅させる。ブランドと顧客との情緒的な絆を深め、より豊かな関係性を築き上げます。
板チョコアイスの成功は、決して偶然の産物ではありません。自らのブランドとしての 「らしさ」 を深く見つめ、消費者やお客さんの声に真摯に耳を傾け、顧客価値を磨き続ける。そして、その価値を伝え続ける地道な努力の積み重ねが、30 年という時を超えて愛される強いブランドを育んだのです。
こうした森永製菓の地道な取り組みの積み重ねが、2024 年度は前年度比 28% 増でという誕生 30 年目にして過去最高の売上という結果につながりました (参考情報) 。
まとめ
今回は、森永製菓の 「板チョコアイス」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドとは、お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業。好ましい感情とは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ち
- 強いブランドは、他社にはない特有の 「らしさ」 を持っている。らしさが顧客にとっての価値となり 「これがいい」 と選ばれる理由になる
- ブランド構築では、ブランドコンセプトを軸に、商品やサービスの顧客体験を通じてブランドの 「らしさ」 を一貫して提供する。結果としてお客さんの頭の中にブランドイメージが定着する
- ブランディングは、お客さんが良い商品体験で感じた価値を思い出したり忘れられないための活動。顧客の離反を防ぐ役割も果たす
