#マーケティング #顧客ニーズ #解像度

今回は、男性向けの美顔器のヒット商品を取り上げます。

事例からの学びとして、顧客ニーズの解像度を上げて、それぞれのニーズにきめ細かく対応していくことの重要性を具体的に掘り下げます。

アンファー DISM の男性向け美顔器

出典: PR TIMES

アンファーが展開するドクタースキンケアブランド 「DISM (ディズム) 」 。

DISM から登場した初の美容家電が 「ディズム EMS EER メディスキンケアデバイス」 です。

DISM の美顔器の特徴は T 字型のデザインです。90 度回転させると従来型の I 字にもなり、頬などの広い部分から目の下などの細かい部分まで、これ一台でケアできます。

出典: DIME

EMS (Electrical Muscle Stimulation の略で電気的筋肉刺激を意味する、微弱な電流を流し筋肉を強制的に動かす) やラジオ波、美容成分の浸透をサポートするエレクトロポレーションなど、8 つもの本格機能をこのコンパクトなボディに搭載する本格派でありながら、コンパクトで軽量です。1 回わずか 3 分でスキンケアが完了する手軽さも魅力です。

開発の背景には、「美顔器は女性のもの」 「操作が複雑で面倒」 といった、男性が抱える美顔器への高いハードルを取り除きたいという思いがありました。目指したのは、エステのような体験ではなく、美容クリニックの知見を活かした 「おうちクリニック」 という新たな価値です。

実は当初、男性が美顔器を使うのか不安もあったといいます。しかし蓋を開けてみれば、20 代から 50 代まで幅広い男性層に加え、想定外だった女性ユーザーからも高い評価を獲得しました。

価格は 35,000 円ほどと、美顔器としてはそこまで高額ではありません。初めての美顔器として、あるいは持ち運び用のセカンドデバイスとして、幅広い層から支持を集めたのでしょう。

発売からわずか 3 ヶ月で完売し、売上は計画比 600% を突破したとのことです (参考情報) 。当初は 1 年かけて販売する予定だった製品が、あっという間に一時欠品になるほどのヒット商品となりました。

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DISM の美顔器が発売 3 ヶ月で計画比 600% というヒットを記録した要因のひとつは、想定顧客が抱える 「困りごと」 や 「ニーズ」 を高い解像度で把握し、的確なアプローチを行ったマーケティングがありました。

DISM 美顔器のマーケティング

顧客ニーズは、潜在的な状態から顕在化したニーズまで複数の段階が存在します。

それぞれの顧客ニーズの状態に対して、DISM がどのようにアプローチしたのかを見ていきましょう。

対策の必要性に気づいていない

そのカテゴリーの商品やサービスに対して、そもそもの必要性を感じていないという状態です。

実は商品を使うことでの対策をする必要がありますが、当の本人は必要だとは思っていません。

美顔器の場合は、肌の手入れに美顔器という選択肢がなく、手入れには洗顔や化粧品などで済ませる程度だったりと、美顔器を使ってまでスキンケアをする必要性を感じていない人です。特に多くの男性がこの層にあたります。

マーケティングのポイントとしては、課題感を醸成し、ニーズという必要性が生まれるための掘り起こすところからです。

DISM は 「美顔器 = 女性向けで特別なもの」 という男性の持つ固定観念を覆そうとしました。

1 つ目は美顔器の形状の工夫によってです。DISM の美顔器は多くの男性が日常的に使う 「T 字カミソリ」 の形を採用しました。美顔器を 「スキンケアの延長線上にある、自分ごと」 として自然に認識させ、心理的なハードルを下げる狙いからです。

2 つ目は課題の具体化です。「美容」 という漠然としたテーマではなく、「オンライン会議で顔が疲れて見える」 「日々の髭剃りで肌が荒れる」 など、男性に馴染みのある具体的なシーンを提示し、「これは自分の問題かもしれない」 と気づかせるきっかけをつくりました。

このように注力顧客がまだ言葉にできていない潜在的な不満を、日常の行動や習慣と結びつけて可視化することによって、潜在顧客にアプローチすることができます。

必要性を自覚しているが、まだ何もやっていない

商品・サービスを使うなどの何かしたほうがいいとわかっているものの、特に何も行動していない状態です。

スキンケアの場合は、肌のハリや弾力が昔ほどはないと感じる瞬間があったり、シワやシミが自分にも出てきたなどの肌の悩みは感じているが、「美顔器は面倒くさそう」 「置き場所に困る」 「高価だ」 といった理由で、これまでの行動や習慣を変えておらず、次の行動に移せていないという状態です。

そこで、マーケティングは 「購入へのバリア (障壁) 」 を取り除くことがポイントです。

DISM はこの消費者層が抱くであろう不安や面倒さを捉え、製品設計で解決しました。

バリアには物理的なバリアと心理的なバリアがあります。

物理的バリアの排除には、DISM は 「軽量・コンパクト」 「1 回 3 分で完了」 「USB Type-C で充電可能」 といった仕様で、「時間がない」 「場所を取る」 「面倒」 といった行動の障壁を取り除きました。

心理的バリアに対しては、「美容賢者」 と呼ばれる専門家やインフルエンサーに先行して試してもらい、TikTok などの SNS で 「小さいのにパワフル」 といった高評価を獲得。「専門家も認めているなら安心」 という権威性、口コミによる信頼感で、購入への最後の一押しを演出しました。

想定顧客が行動しない理由を物理的なバリアと心理的なバリアの両方から洗い出し、ひとつずつ潰していくことで、購入をスムーズに導くことができます。

対策を色々と検討し始めている

課題感を感じ、必要性を自覚していて、対策のために色々と検討するなどニーズが顕在化し行動に現れている状態です。

美顔器の場合は、美顔器を使うことが自分ごと化され、買って使うのが現実的となり、ネットなどで情報を集め、商品を比較検討している人です。

対策を色々と検討し始めている状態のニーズには、そのカテゴリーでの 「比較基準」 を啓蒙し、自社の優位性を示すと効果的です。

DISM の事例では、DISM は他社の美顔器とは違う独自の価値基準を提示しました。

美容クリニックの知見を活かした 「おうちクリニック」 というコンセプトを提示。比較検討の軸を 「手軽さ」 から 「本格的なケア」 へとシフトさせることを狙いました。

そして独自性の訴求です。DISM の美顔器の特徴である 「T 字から I 字に変形して細かい部分もケアできる」 「肌を耕し、成分を届け、引き締める」 という医療発想の 3 つのモードなど、ユニークで分かりやすい利点を伝えることで、他社製品との違いを明確にしました。

お客さんから選ばれるために、独自の価値基準 (選ぶ理由) を提示し、自社が最も輝く比較の土俵を自らつくりにいくことが重要です。

商品を色々と検討してかなり詳しくなっている

ニーズが顕在化して後にしばらく経っているので、その間にいろいろと調べたりした結果、対策の方法や商品・サービスについてかなり詳しくなっている状態です。

美顔器の機能や技術に詳しく、スペックや成分などを詳細に比較して、最も優れた製品を選びたいと考えている人がこれに当たります。

マーケティングでは、そのカテゴリーのリテラシーの高い層を納得させる詳細な情報と、自社製品の独自性や強みの訴求が重要になります。

DISM の例では、知識が豊富な 「目利き層」 に対しても、DISM の美顔器に納得できるだけの技術的な裏付けを示しました。

具体的には、専門性の高い情報の提示です。「高い周波数と低い周波数を組み合わせた EMS」 「エレクトロポレーション機能」 「ドクターとの共同開発」 といった専門的な情報を積極的に示し、製品への信頼性と説得力を高めるように努めました。

また、DISM は自社製品へのこだわりを語ることに注力しています。「コンパクトなのにパワフル」 という、通常は両立が難しい要素をいかにして実現したか、その開発ストーリーやこだわりを語ることで、製品の付加価値を高め、リテラシーの高い顧客の心をつかむことを目指したわけです。

製品の詳細なスペック情報に加え、背景にある技術や思いを語ることは、ストーリー性によって価格以上の独自性や価値を感じさせます。

商品を使い始めている

実際にそのカテゴリーの商品やサービスを購入し、使い始めている状態です。

スキンケアでは、すでに何らかの美顔器を購入し、使い始めている人です。

ここでのマーケティングのポイントは、使っている商品が自社製品であれば、離脱を防ぎ、継続利用を促すことです。

美顔器にありがちな 「買って最初は満足したものの、いつの間にか使わなくなっている」 という状況にならないようにする仕組みがあるかです。

DISM の場合は 「軽量で腕が疲れない」 「3 分で自動的に電源が切れる (オートオフ) 」 「手軽に充電できる」 といった特徴を備え、美顔器の継続利用を 「がんばってやること」 から 「習慣化し無意識にやっていること」 に変えることを狙いました。

買ってくれたお客さんの利用の継続性を高めるには、購入後のマーケティングだけでなく、いかに継続利用しやすいかという観点で製品開発の段階から設計に組み込むことが大事です。

お気に入りの商品はあるが、もっといいものを探している

そのカテゴリーで既に良いと思っていて、お気に入りの商品が手元にあるものの、使いにくさなどの多少の困りごとがあるので、もっと良い商品があれば躊躇なく買い換えるような状況です。

美顔器のケースで言えば、現在使っている美顔器に満足はしているが、より良い製品があれば乗り換えや買い増しを検討している人です。

マーケティングのポイントになるのは、乗り換えや追加購入への 「決定打」 を提示することです。

DISM は既存の他社製品の美顔器ユーザーに対しても、新たな購入動機をつくり出しました。

新たな利用シーンの提案として、すでに高機能な美顔器を持っている人に対しては 「旅行や出張に便利な持ち運び用」 というセカンドデバイスとしての価値を提案しました。

現在の使い方を 「アップグレード」 する提案や、「別の利用シーン」 を提示することにより、追加購入の需要を掘り起こすことができます。

体験機会の創出としては、家電量販店などで実際に製品に触れてもらう機会を設け、そのコンパクトさやパワフルさを実感してもらい、乗り換えへのハードルを下げました。

また、ギフト需要の喚起もしています。「大切なパートナーへのギフトにもおすすめ」 と訴求し、自分用だけでなく贈答用という新たな購入機会を生み出しました。

過去に色々試したが、諦めて特に何もしていない

今までに複数の商品やサービスを使ってみたものの、いずれにも満足できず、今はもう新しく何か対策の方法を探すことに諦め、何もしていない状態です。

スキンケアの例では、過去に美顔器を試したが、「重い」 「面倒」 「効果がなかった」 などの理由で挫折し、カテゴリー自体に失望している人がこれに当たります。

マーケティングでは、過去の不満を覆す具体策を示し、期待値を再設定することです。

DISM はこの層が抱えるネガティブな記憶を正面から受け止め、それを全て解決できる製品であることを明確に伝えました。

具体的には、「美顔器は重くて続かなかった」 → 「T 字型で驚くほど軽い」 。「面倒で使わなくなった」 → 「たった 3 分で完了」 。「効果を感じられなかった」 → 「クリニック発想の本格パワフル設計」 というようにです。

過去の不満と今回の解決策をセットで提示し、なぜ今回は違うのかを明確化することによって、「これなら続けられるかも」 という新たな期待を持ってもらいます。

想定顧客がそのカテゴリーに対して抱いている 「不満の歴史」 を理解し、「私たちの製品はその問題を解決するために生まれた」 という明確なメッセージを伝えることで、離れてしまった人を呼び戻すことを狙います。

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アンファーの DISM の美顔器のヒット要因は、優れた製品を作ったからだけではありません。

お客さん一人ひとりが今どのニーズ段階にいるのかを洞察し、それぞれの段階にいる人の心に響くメッセージと製品価値を的確に届けたからこそです。顧客理解の解像度の高さが生んだ必然的な結果と言えるでしょう。

ニーズの解像度を上げるという視点は、業界や商材を問わず、マーケティング活動において持っておきたいものです。

まとめ

今回は、DISM の美顔器の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントのまとめとして、ニーズの推移と対応です。

  1. 対策の必要性に気づいていない → そもそもの課題感の醸成
  2. 必要性を自覚しつつも行動していない → 物理的・心理的な購入バリアの除去、専門家による権威性、SNS・口コミによる共感で心理的障壁を下げる
  3. 検討し始めている → そのカテゴリーでの比較基準を啓蒙、その比較軸で自社の優位性アピール、具体的な利用シーンの提示
  4. 検討し詳しくなっている → 詳細の比較ができる情報提供、カテゴリーでの独自性の提示、開発ストーリーの訴求
  5. 商品を使い始めている → 自社製品を購入した人に離脱防止と継続利用を狙う
  6. 他にもっといいものを探している → 既存他社ユーザーへの新たな利用シーン提案、乗り換えや追加購入の促し
  7. 過去に試したが満足するものはなく、諦めて特に何もしていない → 期待値の再設定と過去の不満を解消する価値提案