#マーケティング #顧客定義 #価値実現
モスバーガーが始めた 「こどモスプロジェクト」 は、小さな子どもを持つ親が言葉にできなかった困りごとを解決し、客数増加という成果を生み出しました。
なぜモスバーガーは成功したのか。そこには、顧客の解像度を高め、潜在的な悩みを発見し、選ばれる理由をつくるというマーケティングの本質が隠されていました。
こどモスプロジェクト
出典: モスバーガー
モスバーガーは 2024 年 5 月から 「こどモスプロジェクト」 をスタートさせました。
スタート時は全国 181 店舗での展開でしたが、取り組みは好評を博し、開始から 1 年弱で 260 店舗にまで広がり、2026 年 3 月時点で 400 店舗以上にまで拡大ました (実施店舗一覧はこちら) 。
こどモスプロジェクトでは、具体的には次のようなサービスがモスの店舗で提供されます。
- こどモス優先席: 小学生以下の子ども連れが利用できる専用の席
- こどモス文庫: 読まなくなった絵本を交換でき、店内で自由に読んだり一冊持ち帰ることができる
- こどモスチャレンジ: 子どもが一人で注文に挑戦。成功するとごほうびシールがもらえる
- こどモス半分こ: 大きなハンバーガーを子どもの小さな口に合わせてカットしてくれる
- こどモスオーダー: ポテトの塩抜きや離乳食の温めなど、子どもが自分の好きなように注文できる
- こどモスツール: 子ども用の椅子や食器が使える
これらのサービスは、一つひとつが子育て中の親の 「そうそう、これが欲しかった!」 という声に応えるものです。
こどモスプロジェクトは、モスバーガーで働くパパやママたちのアイデアを中心に立ち上げられました。子連れでの外食に対する不安や気遣いを減らし、気軽にモスバーガーに来店してもらいたい思いからです。
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では、こどモスプロジェクトの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
顧客は誰か?
売りたい商品があっても、それを必要としているお客さんがいなければ、ビジネスは成立しません。
ビジネスへの第一歩は、お客さんが誰かをはっきりさせることです。これができていないと、どんなにすばらしい商品を持っていても、買ってはもらえないでしょう。
モスバーガーは、注力顧客が抱える具体的な悩みや感情を深く理解することから始めました。
モスバーガーは、こどモスプロジェクトにおいて、想定する注力顧客をただ単に 「家族連れ」 とひとくくりにはしませんでした。モスが向き合ったのは、もっと解像度の高い顧客像です。
それは、「小さな子どもがいて、外食に楽しさよりも不安や申し訳なさを感じている親」 でしょう。
子どもが泣き出したらどうしよう。食べ物をこぼして汚してしまったら。周りのお客さんから冷たい目で見られないだろうか。そんな心理的な負担を抱えながら、それでもたまには息抜きをしたい、子どもに外で食べる楽しさを体験させてあげたいと願う親たちです。
お客さんをひとくくりにせず、自分たちのお客さんの解像度を高めるほど、それはすなわち自社のビジネスの特徴を知ることにつながります。
お客さんが誰なのかを決めることはビジネスの一丁目一番地です。
ビジネスの目的があり、目的を達成するための戦略を立て、戦略から施策を実行し展開していくにあたって、最初にはっきりさせるべきなのは 「自分たちのお客さんは誰か」 なのです。
マーケティングの本質
注力顧客を定めたら、次はお客さんから 「選ばれる理由」 をどうつくるか、というステップに進みます。
お客さんから選ばれる理由をつくる
マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。
お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できます。
ここでモスバーガーに話をつなげると、ハンバーガーチェーンは数多く存在します。
味や価格、スピードで競争が起こっている中で、モスバーガーは 「子育て中の親子が、最も安心して気兼ねなく過ごせる場所」 という、これまでとは違う選びたくなる理由を消費者に提示しました。
ハンバーガーのおいしさという土俵だけでの勝負ではありません。「こどモス優先席」 がもたらす心理的な安堵感、「こどモス文庫」 が生み出す穏やかな時間、「こどモスチャレンジ」 が提供する子どもの成長体験。これらすべてが合わさり、他の飲食店にはない、モスバーガーだけの 「選ばれる理由」 をつくろうとしたわけです。
お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、ビジネスの文脈では自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。
決定権は常にお客さんにある
選ばれるために忘れてはならない大前提があります。
それは、選ぶという行為の最終的な決定権は、常にお客さんにあるということです。企業側の論理だけで 「これが良い製品だ」 「この機能が優れている」 と主張しても、それだけではお客さんの心は動きません。
重要なのは、「誰に」 「どんな価値」 を届けたいのか、そしてそのお客さんは 「なぜ」 他の商品ではなく自社の商品を選んでくれるのか (あるいは、選んでくれないのか) です。
お客さんの立場に立って、深く、そして具体的に理解することが大事です。
モスバーガーのこどモスプロジェクトは、プロジェクトを推進したのが当事者であるパパ・ママ社員だったことからも、顧客起点になった取り組みです。
ビジネスの本質は 「困りごと」 の解決
では、どうすればお客さんの立場に立ち、お客さんから選ばれる理由をつくることができるのでしょうか?
その答えは、ビジネスの基本的な原則に立ち返ることで見えてきます。
お客さんの困りごとを解決するのはあらゆる商売の基本です。お客さんは自分の困りごとを解決するものを選びます。
困りごとを自分たちならではの方法、つまり商品やサービスで解決し価値をもたらし、提供価値への対価をもらうのがビジネスの本質です。
モスバーガーのこどモスプロジェクトが解決しようとした困りごとは、表面的には見えにくいものでした。
子連れでの外食時に感じる気まずさ、遠慮、あきらめ。これらは明確に言葉にはされていない潜在的な困りごとでしたが、確実に存在していました。
子どもの優先席があることで周りへの遠慮が減る。絵本があるので子どもが食事に飽きてもグズることはない。ハンバーガーを半分にカットしてもらえることにより食べこぼしの心配が減り、テーブルや床をきれいにする手間がなくなる。
こどモスプロジェクトのサービスが、親たちの具体的な困りごとの解決に結びついているのです。
困りごとからニーズとウォンツへ
お客さんの困りごとに加えて、ニーズとウォンツを把握することがお客さんへの深い理解につながります。
ニーズの本質を捉える
もともと英語でのマーケティング用語の Needs とは、人が持つ基本的な欲求や必要性のことです。生活の中で欠かせないもの、たとえば水分を飲む、食べものを食べる、安全にすごすなどです。
英語圏での Needs という言葉のニュアンスは 「人が生きていくために欠かせない欲求」 です。必要度合いが高いことが特徴です。
子育て中の親が持つニーズは、「子どもと一緒に安心して外食を楽しみたい」 「たまには料理の手間から解放されて、心穏やかな時間を過ごしたい」 という、ごく自然な欲求です。
ウォンツという具体的な解決策
ニーズとセットになる概念が 「ウォンツ」 です。
ウォンツとは、ニーズを満たすための具体的な手段や方法を指します。たとえば、お腹が空いたので何か食べたいというニーズに対して、ウォンツはコンビニに売っているお弁当やおにぎり、食品、レストランやカフェ、デリバリーサービスなどです。
抽象度が高いのがニーズ、具体的なものがウォンツです。心理的な流れとしては 「ニーズ (食べたい) → ウォンツ (飲食店) 」 となります (ただしマーケティングの実務面では、厳密にはウォンツのこともひとくくりにニーズと呼んでいることは普通にあります) 。
モスバーガーのこどモスプロジェクトで注目したいのは、ともすると抽象的なニーズを具体的なウォンツに変換したところにあります。
「子どもと一緒に気兼ねなく外食したい」 というニーズに対して、子どもへの優先席、絵本文庫、ハンバーガーの半分カット、離乳食対応といった具体的なウォンツを数多く用意しました。
安心して外食したいというニーズに対して、「こどモスプロジェクトのあるモスバーガー」 が具体的なウォンツの受け皿となり、解決策として現れるわけです。心理的な流れとしては 「ニーズ (安心して外食したい) → ウォンツ (こどモスプロジェクトのあるモスバーガー) 」 です。
選ばれ続けるための進化
こどモスプロジェクトは、開始から 1 年弱で 181 店舗から 260 店舗まで拡大しました。導入した店舗の客数は 2024 年 5 ~ 12 月に前年同期比で、導入していない店よりも数ポイント上回ったとのことです (参考情報) 。
成功の背景には、注力顧客を定め、お客さんの本当の困りごとを見つけ、それを具体的な価値に変えるという、マーケティングの王道があります。
働く親たちのアイデアから生まれたこのプロジェクトは、内部の声を活かすことで、より深い顧客理解を実現しました。子どもが騒いだら申し訳ないという、誰もが感じたことのある困りごと。それがビジネスチャンスに変わる瞬間を、モスバーガーは見事に捉えたのです。
マーケティングの本質は、お客さんから選ばれる理由をつくることにあります。こどモスプロジェクトは実践例として、学びを与えてくれます。
まとめ
今回は、モスバーガーの 「こどモスプロジェクト」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 注力顧客の解像度を高める。お客さんのことを例えば 「家族連れ」 のような大きなくくりではなく、「小さな子どもがいて外食に不安や申し訳なさを感じている親」 のように顧客像を具体化する
- ビジネスの原則は、顧客が抱える困りごとの解決にある。特に、本人も意識していない潜在的な悩みや不便さを見つけ出すことでビジネスチャンスが生まれる
- マーケティングは、お客さんから選ばれる理由をつくること。偶然ではなく意図的に選ばれる確率を高めるための顧客価値を提供する
- 常に顧客の立場に立ち、最終的な決定権はお客さんにあると心得る。企業側の論理や 「良いものを作った」 という思い込みではなく、お客さんがなぜそれを選ぶのか (あるいは選ばないのか) を考え抜く
- 選ばれるために、顧客の根源的な欲求 (ニーズ) を捉え、具体的な解決策 (ウォンツ) として提示する。顧客の 「こうだったらいいな」 というニーズを把握し、ニーズを満たすための具体的な商品やサービスとして形にし、結びつける
