#マーケティング #ブランディング #変えない軸
プレミアムアイスクリームの代名詞、ハーゲンダッツ――。
1984 年の日本上陸から 40 年以上が経過した今でも、ハーゲンダッツは存在感を放ち続けています。
なぜハーゲンダッツは、長年にわたって成長し続けることができるのか。今回は、ブランドの視点からハーゲンダッツの成功要因を紐解いていきます。
日本でのハーゲンダッツの歴史
出典: GIFTPAD egift
ハーゲンダッツが日本に上陸したのは 1984 年のことです。
当時、アイスといえば 「子どもが夏に食べるもの」 という印象が強く、日本ではプレミアムアイス市場は未成熟でした。
そこでハーゲンダッツは、販路を百貨店や高級スーパーに限定し、セレブリティを活用したイベントで 「大人のアイス」 というポジションを狙いました。
その後、日本市場に合わせた 「ミニカップ」 を開発し、コンビニやスーパーへと販路を拡大。一気に 「自分へのご褒美アイス」 としての地位を確立しました。
1990 年代後半には国内に研究開発センターを設立し、日本人の嗜好を反映した 「グリーンティー」 を開発。2000 年代には 「クリスピーサンド」 で新カテゴリーをつくり出すなど、時代に合わせて進化を続けてきました。
こうした取り組みが、ハーゲンダッツの 40 年以上にわたる成長を支えています。
ブランドとブランディング
ではハーゲンダッツの強さを理解するために、まず 「ブランド」 について整理していきましょう。
ブランド
ブランドとは 「お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業」 です。
好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ちで、こうした感情が深いほど商品やサービスは強いブランドです。
ブランドは商品やサービスを超えた、独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねによってつくられ、商品体験からつくられます。そして、お客さんの心の中に根付いた信頼の証のような存在となります。
ブランドには他にはない 「らしさ」 があります。らしさとは、ブランドが体現するブランドの理念や価値観、品質や価値へのイメージ、感情的な結びつき (例: 共感, 憧れ, 誇りなど) などで形づくられます。
ブランドは特有の 「らしさ」 を持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。だからこそブランドはお客さんから 「これ "が" いい」 と選ばれる存在となるわけです。
ハーゲンダッツというブランド
ここでハーゲンダッツに話をつなげ、当てはめてみましょう。
ハーゲンダッツの 「らしさ」 の根幹には、「誰もがおいしいと感じるアイスクリームは、シンプルな素材からしか生まれない」 という信念と、「品質への徹底したこだわり」 があります。
余計なものを加えず、素材本来の味わいを引き出すという哲学が、「ぜいたくで濃厚な味わい」 「高品質でおいしい」 という一貫した品質イメージを形成します。
ハーゲンダッツ特有のこの 「らしさ」 が、消費者の心に 「自分へのご褒美」 「食べると幸せな気分になれる」 「ぜいたく感」 「特別感」 といった好ましい感情を呼び起こします。
こうした強い感情的な結びつきが、「ハーゲンダッツがいい」 という指名買いを生み出すわけです。
ハーゲンダッツが 「高級アイスと言えば?」 という問いに、消費者が高い想起率を示すのは、消費者の心の中に信頼の証としてハーゲンダッツが根付き、他には真似のできない 「らしさ」 という資産が確立されていることを示します。
ブランドができる流れ
ブランドは体験を通して形成されます。
体験は、見る (視覚) 、聞く (聴覚) 、触る (触覚) 、味わう (味覚) 、嗅ぐ (嗅覚) によって、五感での体験から、感情移入が起こります。
最終的に、商品やサービスへの価値のイメージが、すなわちブランドが頭の中でできあがります。
ブランドができるまでをまとめると、次のようになります。
- 五感でのユーザー体験
- 五感を通した体験からの感情移入
- 価値のイメージが形成
ハーゲンダッツの五感体験の追求
ハーゲンダッツは、素材本来の味わいを引き出すことに徹底的にこだわります。
消費者はまず、ぜいたくで濃厚な味わいという強烈な商品体験をします。味覚も含め、次のような五感での体験です。
- 味覚: 濃厚で雑味のない味わい、素材主義が生み出す本物の味
- 嗅覚: 香料に頼らず素材を引き出す香り
- 触覚: ミニカップの手に持ったときの適度な重さという心理的高級感
- 視覚: バーガンディーレッドの世界観、上品なパッケージデザイン
- 聴覚: CM の世界観が醸し出す静謐さ・余白・情緒
こうした五感でのハーモニーを奏でる体験が、「1 日の終わりに自宅でゆっくり味わう」 「誰にも邪魔されない自分だけの時間」 といった消費シーンと結びつき、ご褒美や癒やしになるという感情移入が起こるのです。
その結果、消費者の頭の中では 「プレミアム」 「間違いない品質」 「自分へのご褒美」 といったハーゲンダッツのブランドイメージが形成されていきます。
こうした体験と感情の積み重ねによって、「ハーゲンダッツ = 大人のアイス」 「プレミアムアイスの代名詞」 という揺るぎない価値のイメージ、すなわちブランドが頭の中にできあがります。
ハーゲンダッツのブランディング
ブランディングとは、お客さんが商品に感じた価値を思い出してもらったり、忘れられないようにするための活動です。ブランディングにより、お客さんの商品からの離反や商品の忘却を防ぐわけです。
ハーゲンダッツは、一度形成した体験価値を忘れられないための活動を多岐にわたって展開しています。
例えば、テレビ CM による想起活動として、コロナ禍には 「女性 (女優の小松菜奈さん) が自宅に帰りハーゲンダッツを食べる至福の瞬間」 を描きました。
消費者が過去に体験した 「ご褒美としての体験価値」 を鮮明に思い出させる役割を担うものです。ハーゲンダッツへの体験があるからこそ CM が響くというブランディングを体現した施策です。
他のブランディング施策には、店頭での想起活動もあります。
ハーゲンダッツの多様なフレーバーを並べる 「集約型陳列」 と 「ブランドカラーのバーガンディーレッド」 で統一された売場は、消費者に 「ハーゲンダッツの世界観 (高級感・特別感)」 を一目で認識させます。これもまた、過去のぜいたくな体験を思い出させ、離反を防ぐブランディング活動です。
また、定期的に期間限定商品を送り出すことで新鮮味を維持し、ブランドを想起してもらう機会をハーゲンダッツはつくり出しています。
「変えないこと」 を知っている、「すべてを変えること」 ができる
ここまで、ハーゲンダッツがいかにして 「顧客体験」 をつくり、そこから 「ブランド」 をつくり上げているかを見てきました。
ハーゲンダッツが 40 年以上もトップを走り続けた戦略の根幹には、「変えないことを知っているから、すべてを変えることができる」 という、一見矛盾するような、しかし非常に重要な哲学があると見ます。
ハーゲンダッツが絶対に変えないこととして明確に定めている軸は、「品質への徹底したこだわり」 と 「素材本来の味わいを引き出す」 という信念です。
素材主義 (余計なものを加えない) 、高品質・高価格帯、プレミアムアイスの象徴であること、ご褒美という情緒価値は、ハーゲンダッツというブランドの根本であり、40 年以上一切ブレていません。
変えない軸が明確だからこそ、ハーゲンダッツは以下を大胆に変えることができました。
- 販路展開: 百貨店・高級スーパー → 大衆スーパー・コンビニへと柔軟に拡大
- 商品パッケージ: アメリカでは主流のパイントサイズ → 日本向けミニカップへ最適化
- 商品ラインアップ: グリーンティーで日本人の嗜好を反映、クリスピーサンドで新カテゴリーを創出
- コミュニケーション: 時代やニーズの変化に応じた訴求内容の刷新 (コロナ禍での自分を満たす価値の強調など)
変わらない軸が強固だからこそ、新しい挑戦がブランドを壊すことなく積み重ねられ、ブランド価値がむしろ強化され続けているのです。
ハーゲンダッツは、「品質」 という変えない軸を徹底して守り抜くことで、「濃厚でおいしい」 という強烈な五感体験を提供し続けました。その体験が 「ご褒美」 という好ましい感情を生み、「プレミアムアイス」 という価値イメージ (ブランド) を確立しています。
そして、CM や店頭といったブランディング活動でその価値を思い出させると同時に、軸以外の部分 (商品ラインアップや販路) は大胆に変えて挑戦し続けています。
これこそが、「変えない軸を明確にしたからこそ、その他すべてを変えられる」 を体現するブランド戦略です。
変化の激しい時代において、何を変え、何を変えないのか。ハーゲンダッツの事例は、この問いに示唆を与えてくれます。
まとめ
今回は、日本のハーゲンダッツの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドとは、お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業。好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ち
- 軸を守り続ける一貫性はお客さんに安心や信頼を与え、変わらない価値を五感で繰り返し体験することで 「気持ちのいい記憶」 として蓄積される
- 強いブランドは、他社にはない特有の 「らしさ」 を持っている。らしさが顧客にとっての価値となり 「これがいい」 と選ばれる理由になる
- 変えないことを知っているから、すべてを変えることができる。まず 「変えないこと」 を明確にする。変えない軸が中心に通っているからこそ、思い切った挑戦や変更ができる
