#マーケティング #テストマーケティング #PMF

資生堂がひとつの 「小さな水たまり」 に活路を見出しました。

2025 年、資生堂が発売した洗顔料 「肌グミ」 。

売上は好調で、9 月の発売開始から 10 月末までの販売数量は計画比 2.4 倍を記録しました。

この事例は、テストマーケティングと PMF (Product Market Fit) という 2 つの視点で読み解くと示唆に富みます。

資生堂の洗顔料 「肌グミ」 

出典: PR TIMES

資生堂で 2024 年に新設されたのが 「新価値マネジメント部」 です。開発部門出身で 0 から 1 の価値づくりを得意とするメンバーが大半を占める組織です。

新価値マネジメント部が最初に開発し発売した商品が、洗顔料の 「肌グミ」 です。

ぷにぷにとした感触の洗顔料

特徴は、商品名とグミのような触り心地にあります。洗顔料といえばチューブ型の容器に入ったクリーム状の液体が主流ですが、肌グミは、お菓子のグミのようにぷにぷにとした感触の珍しい洗顔料です。

見た目のかわいさと、泡立て不要でなでるだけという機能性の高さも相まって若年層を中心に話題を呼びました。肌グミは発売直後から X や TikTok で注目を集め、9 月に発売した直後の 10 月末時点で販売数量が計画比 2.4 倍を超え、目標を 1 ヶ月以上前倒しで達成しました。

開発の経緯

肌グミは、資生堂ジャパン単独ではなく、マツキヨココカラ & カンパニーとの共同企画商品です。

開発のきっかけは、新価値マネジメント部のメンバーたちが参加した、ある展示会で発見した同じ資生堂グループの 90 歳の開発者による独自技術でした。

美容液を多く含む液体を 40 日かけて独自製法で熟成・濃縮することで、従来の固形洗顔料では難しいレベルまで美容液成分を配合できる製法です。

この技術に着目し、洗顔料をグミにするという着想で開発され生まれたのが 「肌グミ」 です。

テストマーケティングの実践

資生堂は肌グミの開発と販売において、「勝ち筋の見極め」 と 「小さな PDCA 」 という、テストマーケティングの定石を忠実に実行しました。

勝ち筋の見極め

テストマーケティングの役割は 「勝ち筋の見極め」 です。勝ち筋とは成功要因であり、勝つためのポイント、勝ちパターンを指します。

資生堂は段階的なアプローチで勝ち筋を探りました。

  1. 技術シーズの発見: 展示会で独自技術を発見したとき、チームメンバー全員が 「今日見た中で最もワクワクしたもの」 としてこの石鹸を挙げた。新規性と訴求余地の大きさという 2 つのポテンシャルを見出した
  2. 市場規模の確認: 洗顔市場が約 2,500 億円規模で、特に中価格帯 (1,000 ~ 2,000 円台) が伸長していることを確認。参入する 「正しい市場」 であることを検証した
  3. 顧客課題の特定: Z 世代の約半数が朝の洗顔料を使わない実態を発見する。使わない理由は 「面倒」 「泡立て時間がない」 「前髪や顔周りに泡がつくのが嫌」 などだった
  4. 限定チャネルでの販売: マツキヨ・ココカラファイン限定で販売するという絞り込みにより、いきなり広げなかった

小さな PDCA

本格的な販売の前にテストマーケティングをすることにより、「売り物」 と 「売り方」 の両方で改善の余地があるのかがわかります。

資生堂は複数の改善サイクルを回しました。

まず 「売り物の改善」 では、商品の美容液成分の配合バランスを開発元と繰り返し検証し、スキンケア効果を期待できる洗顔料として成立させるまで調整しました。

次に 「売り方の改善」 において、マツキヨ・ココカラファインに提案したパッケージデザインには、バイヤーから 「優等生すぎる」 との評価を受けたとのことです。店頭では目立たないデザインだとわかり、スタイリッシュなタイル風から成分を想起させるカラフルな 3 色デザインへ変更しました。

出典: 日経クロストレンド

もうひとつ、売り方の改善としてプロモーションでは、TikTok で複数動画を投稿する中で、ビジュアル訴求だけでは限界があることが判明しました。「泡立て不要」 「美容成分配合」 という機能面の訴求でコメント数が増加することを発見しました。

出典: 日経クロストレンド

資生堂はこうした小さな PDCA を繰り返し、限られた予算や人員の中で効果的な訴求方法を学習し、勝ち筋の有効性を検証していきました。

PMF の達成

テストマーケティングが順調に見える 「肌グミ」 ですが、ビジネスとしての成功と言える 「PMF」 を達成したと言えるのでしょうか。

ここであらためて PMF とは何かから見ていきます。

PMF とは

PMF は Product Market Fit の略です。日本語に直訳をすると 「プロダクトが市場にフィットしている状態」 です。

マーケティングの観点での PMF の意味合いは、商品やサービスが市場に受け入れられ、お客さんからプロダクトが必要とされ、これなしではいられずプロダクトが愛されている状態を指します。

想定するお客さんから 「お金を払ってでも欲しいプロダクトである」 「これがないと困る」 のように本当に必要とされている状況です。

PMF の前提は 「正しい市場」 にいることです。ここまでの話を図に表すと以下のようになります。

出典: 新規事業を成功させる PMF の教科書 (栗原康太) 

PMF になる前 vs PMF になった後

PMF を達成した前後で状況は大きく異なります。

PMF になる前 vs PMF になった後

PMF 前はさながら重い岩を押しながら山を登っている状態です。

PMF になってない商品は広告を出稿しても申込みはなく、営業パーソンが必死に売り込みをかけても発注をもらうことがなかなかできません。自分たちのプロダクトは PMF になっているかと疑問に思う時点で、そもそも PMF ではないわけです。

一方の PMF 後は、山からの下山で重い岩も勝手に山の斜面を転がっていくイメージです。

PMF となっていれば商品はお客さんに引っ張られるようにどんどん売れていき、引く手あまたな状態になります。お客さんは商品を使い続けてくれ、口コミをして他のお客さんを連れてきてくれたりもします。

これがプロダクトがお客さんやマーケットにフィットしているという PMF の状態です。PMF の前後ではこれくらい状況が違います。

PMF の因数分解

PMF をさらに中身を分解すると、次の 3 つになります。

  • 顧客に必要とされる
  • 収益化ができる
  • 持続可能性がある

PMF の因数分解

これら 3 つの要素が成立すると PMF の実現につながります。

3 つそれぞれについて詳しく見ていくと、1 つ目の 「顧客に必要とされる」 とは、お客さんから 「あったらいいな」 ではなく、「ないと困る」 「お金を払ってでも欲しい」 と思ってもらえているかです。顧客はプロダクトに他にはない価値を感じています。

2 つ目の 「収益化ができる」 とは、顧客への価値提供から収益化ができていることです。プロダクトからの売上と利益を生めるか、マネタイズの仕組みが構築されているかで PMF を見極めます。

3 つ目の 「持続可能性がある」 というのは、たとえ顧客から必要とされ収益化ができていても、一過性の現象であれば PMF としては弱いです。ビジネスモデルが中長期で回っているかが事業の観点からは大事です。

肌グミの PMF

では、資生堂の 「肌グミ」 は PMF を達成できているのでしょうか。3 つの要素で評価してみます。

顧客に必要とされる

顧客に必要とされているかは 「部分的な達成」 と評価できます。

発売直後の計画比 2.4 倍という初速の強さは、一定の顧客ニーズを捉えている証拠です。

新規性の価値 ( 「グミ洗顔って何?」 という好奇心) 、利便性の価値 ( 「泡立て不要でなでるだけ」 が Z 世代の 「面倒」 を解決) 、美容価値 (従来では難しいレベルの美容液成分配合) が評価されたことでしょう。

ただし 「TikTok 等での UGC の広がりは十分ではない」 という状況です。本当に 「ないと困る」 レベルの必要性になっているかはまだこれからです。

収益化ができている

この要素は 「検証段階」 と評価します。

2,420 円という中価格帯で初速好調であること、マツキヨとの共同企画によりリスクを分散できていることは良い兆候です。

ただ、売上や認知度が今後どこまで上がるかはまだ不透明であり、継続的な収益化の仕組みが確立されているとは言えません。価格への抵抗感や価値の伝達方法が課題として挙げられます。

持続可能性がある

持続可能性については 「未達成」 です。現時点で最も弱い部分と言えます。

発売から約 2 ヶ月で 「一過性の商品」 なのか 「中長期で定番となる商品」 なのか判断できる段階ではありません。販売チャネルの限定性により初回購入者がリピート購入したくても入手しづらい側面もあり、顧客が他の顧客を連れてくるという好循環がまだ生まれていません。

資生堂自身が 「テストマーケティングの初期段階」 と捉えているように、持続可能性の検証はこれからです。

肌グミの PMF は 「まだ道半ば」 

資生堂の 「肌グミ」 は、「PMF 前」 と 「PMF 後」 の中間で、山を登りきる直前の状態にあります。

計画比 2.4 倍という引きの強さ、Z 世代との親和性は勝ち筋を発見できた証です。一方で、チャネルが限定的でプロダクトが 「引く手あまた」 の状態まで至っておらず、PMF 後の好循環がまだ弱い状況です。

資生堂の 「肌グミ」 は、テストマーケティングによる 「勝ち筋 (Z 世代 × 時短 × 独自技術) 」 の発見には成功しました。

ここから真の PMF (岩が勝手に転がり続ける状態) に至るには、「一過性のブーム (グミ洗顔という珍しさ) 」 から 「不可欠な習慣 (時短洗顔) 」 へと、消費者の認識を変換できるかが次のフェーズの鍵となります。

今後数ヶ月でリピート率と UGC が伸びれば、重い岩を押す手を離しても勝手に転がり始める世界に入る可能性があります。資生堂の肌グミの挑戦はまだ始まったばかりです。

まとめ

今回は、資生堂の洗顔料 「肌グミ」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • テストマーケティングでは小さく始め、ニーズを検証しながら成功要因となる 「勝ち筋」 を探る
  • テストから 「売り物」 と 「売り方」 の両方で改善余地を発見する。商品開発・マーケティング・販売という全体プロセスを、小さな PDCA で小さく早く回し、勝ち筋の有効性を検証していく
  • PMF (Product Market Fit) とは、適切な市場を選択し、商品やサービスが市場に受け入れられている状態。お客さんから 「お金を払ってでも欲しい」 「これがないと困る」 と本当に必要とされ、プロダクトが愛されている状況を指す
  • PMF 前後の違いとして、PMF 前は重い岩を押しながら山を登る状態 (例: 広告を出しても申込みがない) 。しかし PMF 後は岩が勝手に山を転がる状態 (引く手あまたで買ってもらえ、口コミで他の顧客を連れてくる) 
  • PMF の 3 要素は、① 顧客に必要とされる、② 収益化ができる (マネタイズの仕組みが構築) 、③ 持続可能性がある (一過性ではなくビジネスモデルが中長期で回る)