今回のテーマは、新規事業開発です。
おもしろいと思ったヤマト運輸の事業開発を取り上げ、学べることを掘り下げます。
✓ この記事でわかること
- ヤマト運輸のマルチデジタルキープラットフォーム
- 開発背景は 「置き配」 と 「オートロック」
- 環境変化で生まれるビジネス課題
- ビジネスをつくることの本質
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
マルチデジタルキープラットフォーム
こちらの記事を読みました。
ヤマト運輸が開発! オートロック付きマンションで 「置き配」 する技術とは|DIAMOND Chain Store
以下はリード文からの引用です。
拡大する置き配ニーズにさらに応えるため、ヤマト運輸が打ち出した次なる一手が、複数のデジタルキーを一括で管理できる 「マルチデジタルキープラットフォーム」 だ。
仕様が異なるデジタルキーを配達ドライバーが解錠できるようになり、オートロック付きマンションへの置き配が可能となった。
「置き配」 を阻む壁
ヤマトがマルチデジタルキープラットフォームを開発した背景について、記事から見てみましょう。
このコロナ禍を機に一気に高まった、非対面での受け取りニーズ。EC で注文した商品を自宅玄関前などに配達する 「置き配」 は、もはや受け取り方法の一つとして市民権を得たと言っていいだろう。
しかし、置き配には大きな 「壁」 があった。オートロック付きマンションの存在だ。利用者が不在の場合、ドライバーはエントランスのオートロックを解錠してもらうことができない。このため、利用者宅の玄関前などへの置き配は不可能だった。
それでも近年、多くのマンションではエントランスに宅配ボックスを設置するのが当たり前になっている。が、「それでもお客様に一度で受け取ってもらうことは難しい」 と直井氏 (引用者注: ヤマト運輸 営業・オペレーション設計統括 営業開発部 マネージャーの直井人士氏) は指摘する。
「例えば50世帯のマンションに対して、宅配ボックスは10個ほどしか設置されていないため、これだけ EC が普及すると宅配ボックスが埋まってしまうことも少なくない。その場合はドライバーが持ち帰らなければならず、お客さまに再配達の手続きなどの手間を取らせてしまっていた」
ヤマトの解決策
問題の解決策が、「マルチデジタルキープラットフォーム」 でした。
オートロック付きマンションでは置き配ができない ―― 宅配業界の各社でもこの問題を重く見て、デジタルキーを解錠する仕組みの検証を進めているところだ。ヤマト運輸ももちろんその一つだが 「個々の会社単位の対応では、デジタルキーごとに複数のオペレーションが発生し、ドライバーの業務負荷につながってしまう」 (直井氏) との懸念を抱いていた。https://diamond-rm.net/wp-content/uploads/2022/06/31f2a20394d59c4efde45437b3517205.png
そこで、直井氏たちが考案したのが 「複数あるデジタルキーの規格を、同一のオペレーションで管理できる仕組み」 だ。それが、2022年3月28日にリリースした 「マルチデジタルキープラットフォーム」 (MDKP) だ。
MDKP の仕組みはシンプルで、複数の企業の異なるデジタルキーシステムと MDKP を API 連携するだけで導入が可能になる。導入後は、管理ダッシュボードを通じてどのマンションが解錠されたかが全て可視化される仕組みだ。
マルチデジタルキープラットフォームの概要図 (出典: DIAMOND Chain Store)
オートロックの解錠から置き配までの流れのイメージ (出典: DIAMOND Chain Store)
1年後に1万棟の導入をめざす
導入の目標規模感ですが、1年後に1万棟の設置を目指すとのことです。
ヤマト運輸では、この MDKP による置き配サービスを、2022年3月28日から東京都内の14棟のマンション (デジタルキー提供企業: ライナフ) で運用開始した。その後は、ビットキー、PacPort といった各デジタルキー提供企業とも連携し、順次サービスを展開していく。
また、デジタルキー提供企業だけでなく、両社で9割以上のシェアを占めるというパナソニック、アイホンのインターフォン提供企業との連携も推進していくことで、導入マンションを一気に拡大していく方針だ。「2023年3月中に、1万棟の導入を目指している」 (直井氏)
学べること
今回のヤマトの話は、新規事業開発に学びがあります。
環境変化で生まれる課題
目の前のビジネスに対応する中で、環境の変化により新しい課題が顕在化しました。環境変化とはコロナによる EC 利用の増加、Amazon の 「置き配」 の導入、置き配利用者が増えたことです。
マンションのオートロックは今までは問題にはなっていませんでしたが、こうした環境の変化によってヤマトにも消費者にも不都合な存在になってしまったわけです。
しかし、宅配のためにオートロックを取り除くことは現実的ではありません。違う方法で問題の解決を迫られ、ヤマトが一社だけで取り組むのではなく、複数の会社で構想された 「マルチデジタルキープラットフォーム」 を作り上げたのです。
ビジネスをつくることの本質
ヤマトのマルチデジタルキープラットフォームは、アンゾフのマトリクスに当てはめれば以下の図の右下にある 「多角化」 です。
出典: NIJI BOX
多角化とは、新しいお客さんに新しいサービスを提供することです。顧客設定とサービス内容 (問題解決のソリューション) の両方で新しい領域に入っていくわけです。
マルチデジタルキープラットフォームの場合は、エンドユーザーのお客さんは宅配する生活者で変わりはありませんが、マルチデジタルキープラットフォームを設置するお客さんはマンションの不動産所有者または管理会社です。関連するパートナー企業は、デジタルキーやインターホンの会社に広がっています。
事業を多角化すると聞くと、何か高尚なことのように聞こえるかもしれません。しかし実際にやっていることは、環境変化によって生まれた課題への真摯な対応です。
この時に大切なのは、「自分たちのお客さんは誰か」 「お客さんに提供する本質的な価値は何か」 です。2つの問いに向き合い、応え続けた結果としてビジネスがつくられていくのです。
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