投稿日 2022/09/17

逆両替機 「コインスター」 に見る、意識高いマーケターが陥りやすい罠

#マーケティング #顧客理解


今回は、流行へのアンテナ感度が高いマーケターには 「陥りがちな罠がある」 という話です。

おもしろいと思った両替サービスから、マーケティングに学べることを掘り下げていきましょう。

✓ わかること
  • “逆” 両替機 「コインスター」 がおもしろい
  • 取り残されたニーズ
  • 意識の高いマーケターが陥る罠、教訓

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

 ”逆” 両替機 「コインスター」 


こちらの記事を読みました。

硬貨を紙幣に両替する "逆" 両替機 「コインスター」 は普及するか?|日経クロストレンド



以下は記事からの引用です。

キャッシュレス決済の普及が進むのはいいが、たまった硬貨をどうすればよいか──。こんな悩みを持つ消費者は、高齢者を中心に実は少なくない。

これまでは銀行や郵便局に持ち込めばよかったが手数料が必要になった。そこで注目を浴びているのが、米コインスターが提供する硬貨 "逆" 両替機 「コインスター・マシン」 だ。

 (中略) 

日々の生活の中で消費者が現金による支払いを続ければ、財布やポケットの中にどうしても硬貨がたまっていく。

これまでは、たまった大量の硬貨を銀行や郵便局 (ゆうちょ銀行) などに持ち込めば、額面の大きな紙幣に両替してくれたり、自身の口座に入金してくれたりした。ところが、銀行や郵便局は、硬貨を両替する手間とコストを嫌って、一定枚数以上の硬貨の両替を徐々に 「有料化」 していった。

硬貨両替の手数料 (出典: 日経クロストレンド

コインスターの使い方


10円玉などの硬貨を投入すると、コインスターは毎分600枚以上という速さで自動的に硬貨枚数と金額を計算します。

投入金額から手数料 (両替金額の 9.9%) を差し引いた額が表示され、その金額での引換券が発行されます。引換券を指定の場所に持っていけば設置店舗の商品やサービスを買えたり、引換券分の紙幣と交換できます。


両替をエンタメとして楽しむ人も


使用者にとってはコインスターの存在は両替という単なる手段以上のものがあるようです。

何より、コインスター・マシンを利用するユーザーの多くが 「コインスターを使って喜んでいるのがありがたい」 と小松原氏 (引用者注: スーパーマーケットチェーンのイズミの顧客サービス部業務課課長) は言う。サービスカウンターの責任者である石井真弓氏もこう話す。

 「例えば子連れの家族にとっては、コインスターに硬貨を投入し、金額が表示され、引換券が出るところまでがイベント。子どもと一緒になって硬貨を投入し、『楽しかった』とお礼を言ってくれる顧客が何人もいる。必要な方には、硬貨をすくう道具としてマグカップをサービスカウンターで貸し出しているほどだ。

一方で、高額を両替に来る顧客も少なくない。開業当初は20万円前後を持ち込み、1回当たりの上限が5万円なので何回かに分けて入金する顧客が月に7 ~ 8組はいた。手数料はかえって割高になるはずなのだが、それでも『買い物のついでにためていた硬貨を両替できるのはありがたい』と言ってくれる」 

置き去りにされたニーズの解消


スーパーなどの小売の多くはセルフレジの設置、クレジットカードや電子マネー、QR コード決済など多様なキャッシュレス決済手段の導入を進めています。

ただし今はまだ過渡期であり現金払いの来店客はいます。硬貨がたまってしまう消費者は一定数で確実に存在するわけです。

この受け皿になっているのが逆両替機のコインスターです。世の中から取り残されつつあるニーズを解消しているのです。


学べること


ではコインスターから学べることを掘り下げていきましょう。

意識高いマーケターが陥る罠


流行に敏感なマーケターは最新のサービスのことには関心が高いです。

しかし、キャッシュレスというトレンドが進むのにまだ現金で支払う人のことには目が向きにくく、手元に大量の硬貨が残ってしまう消費者の 「不」 にはあまり気づきません。

自分とは違う価値観や行動をしている人のことを理解するのは簡単ではありません。良い意味で意識の高いマーケターは 「世の中から取り残されつつある消費者ニーズ」 にはそもそも関心が向きにくいのです。

ここにアンテナ感度の高いマーケターが陥る罠があります。

マーケターへの教訓


教訓として残しておきたいのは 「自分の見ている・知っている世界が全てではない」 ということです。

少なからず 「無知の無知」 があります。少しでもまずは 「無知の知」 、つまり自分が知らない世界を見ようとする意識が大切です。

たとえ生活者やお客さんの行動が合理的ではないと思えても、すぐに不合理だと決めつけて捨てないようにします。

今回のコインスターの例では使っている人のことは合理的に見えないかもしれません。

✓ マーケターの見方
  • 未だに現金で支払うのは不便で理解できない
  • わざわざ手数料をかけて両替をするのは損をしている (コインスターは投入額の 9.9% が両替手数料) 

このようにマーケターには非合理に思えても、生活者にとっては現金で支払って手数料のかかる両替機を使う合理的な理由があります。例えばコインスターの両替を家族でエンタメとして楽しめるからコインスターの両替を使っています。

生活者の合理はマーケターにとっては非合理であり、逆にマーケターの合理は生活者の非合理です。

世の中にはまだまだ知らない見落とされたビジネスチャンスが埋もれています。自分の合理はいったんは捨て、生活者やお客さんの見ている世界を知りにいき、相手の文脈でお客さんを理解することが大事です。


まとめ


今回は逆両替機のコインスターを取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 意識の高いマーケターが陥りがちな罠
  • 流行に敏感なマーケターは、世の中から取り残されつつある生活者ニーズを見落としがち
  • マーケターには非合理に思えても、生活者にとっては合理的な理由がある
  • 自分の見ている・知っている世界が全てではない。自分の合理はいったんは捨て、生活者やお客さんの見ている世界を知りにいき、相手の文脈での顧客理解が大事


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。