投稿日 2023/05/17

2030年の広告ビジネス。消費者への向き合い、広告主の変化、広告代理店の再定義

#マーケティング #広告 #本


今回は、書籍 2030年の広告ビジネス - デジタル化の次に来るビジネスモデルの大転換 (横山隆治, 榮枝洋文) を読んで考えたことです。


具体的には、

  • お客さん中心のマーケティング設計の方法
  • 消費者インサイトから共感インサイトへ
  • これからの広告主が求めること
  • 広告ビジネスの変化、広告代理店が果たす役割

これらについて順番に解説していきます。

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

消費者への向き合い方


マーケティングではお客さんの理解が成功のカギです。

お客さんの心理を見出し、効果的なアプローチで成果を上げるために、消費者にどう向き合うかを考えていきましょう。

お客さん中心の設計


マーケティングでよく聞く USP (ユニーク・セリング・プロポジション) は、売り手側の視点からの概念です。お客さん目線になるためには、USP の概念を消費者の立場で言い換えた 「バイイング・バリュー・プロポジション」 に変換することが重要です。

バイイング・バリュー・プロポジションという買ってもらうための価値提案を売り手はしていくわけですが、消費者の価値観は人それぞれ異なるため、1つの広告クリエイティブでは対応しきれなくなりつつあります。

この背景に SNS の普及により、消費者は企業が提示するメッセージを自分たちのフィルターを通して受け入れるようになったことです。ブランドメッセージは消費者と一緒につくり出す姿勢が求められるようになりました。

そこで大事なのは消費者インサイトから発展した 「共感インサイト」 という考え方です。売り手と買い手 (消費者) が同じ共感ポイントを共有できることで、より効果的なコミュニケーションが実現されるでしょう。

コミュニケーションに 「買う理由付け」 という要素を加えることも大切です。買う理由付けとは消費者が自分自身に対して用意する言い訳です。

お客さんが買いたくなる瞬間


お客さんが商品やサービスを買いたくなる瞬間を理解するうえで、この本に書かれていた 「ビンゴカード」 の例えがおもしろかったです。

ビンゴカードはお客さん1人ひとりが持っているもので、カード上のマス目が共感インサイトです。「心のホットボタン」 や 「響くポイント」 とみなし、心のツボが一定数押されるとカードに穴が空き、横一列など条件がそろうとお客さんは商品を買いたいと感じるようになるというイメージです。

人それぞれのビンゴカードは中身は異なり、また同じ人でもさまざまなビンゴカードを持っています。ビンゴカードは、コミュニケーション設計につながります。

例えば、あるお客さんのビンゴカードでは、響くポイント 4, 5, 6 がそろうと 「ビンゴ!」 になるとします。この3つの心のホットボタンを押すための施策やコミュニケーションメディア、メッセージをプランすることが、このお客さんに対する攻略法です。

何かを買うことを決める要因は、お客さんがどんな認識や感覚、印象を持つかによって変わります。マーケティングではお客さんのビンゴカードの理解を深め、それぞれのターゲットに対して効果的なアプローチを実施することが重要です。

前半のまとめ


ではここまでの内容をまとめておきます。

  • USP (ユニーク・セリング・プロポジション) を消費者の立場で言い換えた 「バイイング・バリュー・プロポジション」 を考慮し、お客さん中心の設計を行う

  • 消費者インサイトから 「共感インサイト」 に発展させ、売り手と買い手が共感ポイントを共有する。コミュニケーションに 「買う理由付け」 を加えると効果的

  • お客さんが商品やサービスを購入したくなる心理を理解し、それぞれのターゲット顧客に対して効果的なアプローチを実施することが大事


これからの広告ビジネスの展望


それでは次に、広告ビジネスの 「これから」 について見ていきましょう。

広告主が求めるもの


広告主が広告代理店に求めるものは変化しています。

単なる広告の支援だけではなく、マーケティング活動全体の最適化を求めるようになりつつあります。広告はマーケティング活動の一部に過ぎないため、広告主はより広範囲なマーケティングの全体への支援を必要としているのです。

広告主が広告代理店に求めるものは 「成功した実際のマーケティング知見」 です。知見には失敗からの教訓も含まれます。

代理店が強化すべきは広告の範囲だけでなく、マーケティング全体をサポートし最適化していく力です。広告だけの支援ではこれからの広告主の要求に応えることが難しいため、広告代理店はさまざまな戦略や手法を提案し、何よりも実践し成果を出すことが重要となります。

広告ビジネスの変化


今後、広告主側の機能再編が進むと予想されます。広告代理店にとってこれが意味するのは、売り先が 「広告枠を購入する部署」 から 「マーケティング活動を最適化する部署」 に変化するということです。

それに伴い、広告ビジネスも 「売り物 (クリエイティブやメディアプラン) 」 が変化するでしょう。

従来は、メディアプランは効率的な 「売り物」 、すなわちどの広告主にもある程度パターンが決まったメディアプランが作られていました。しかし、今後はクリエイティブだけではなくメディアプランにおいても広告主ごとに個別化された提案が求められるのです。

こうして広告代理店の労力と負担は増大する一方で、メディアマージンは従来と同じか低くなります。その結果、従来のようにメディアプランニングフィーを無料にすることが難しくなるでしょう。

このような状況を受けて、AI を活用した 「売り物」 作りの改革が進むと考えられます。コンセプト、クリエイティブ、プランニング、エグゼキューションにおいて人の対応ではコストが見合わず、AI が積極的に使われるはずです。

これからの広告ビジネスは 「売り物」 軸から 「売り先」 軸へのシフトが起こり、AI という電子知能を活用した 「売り物」 作りがカギになるのです。

広告代理店は 「オーケストレーター」 を目指せ


広告代理店と戦略コンサルティングの会社が競合する状況が増えているようです。広告代理店の優位性を見出すとするなら、マーケティング活動の最適化をリードする実戦経験の豊富な人財を育成し、提供することにあります。

この本で印象的だったキーワードの1つは 「オーケストレーター」 です。

オーケストレーターは、クライアントである広告主へのコンサルティングやプランニングだけでなく、実行力も伴った人です。実戦経験を持つ人材が全体最適をリードできるオーケストレーターこそ広告代理店が育成すべき人財です。

デジタル時代において広告ビジネスは消費者の共感を呼ぶコミュニケーションプランニング、AI も活用し広告主のマーケティングの最適化を実現していくのです。

後半のまとめ


ここまで見てきた 「広告ビジネスのこれから」 についてのまとめです。

  • 広告主は広告代理店には広告支援だけでなく、マーケティング活動全体の最適化を求めるようになっている

  • 広告ビジネスは 「売り物」 軸から 「売り先」 軸へのシフトが起こる。売り先 (広告主) ごとに売り物 (クリエイティブだけではなくメディアプランも) が個別化されるため、AI を活用した売り物をつくるようになる

  • 広告代理店は、マーケティング活動の最適化をリードする実戦経験が豊富な 「オーケストレーター」 を育成することで競合優位性につながる


おわりに


今回は 2030年の広告ビジネス - デジタル化の次に来るビジネスモデルの大転換 (横山隆治, 榮枝洋文) を読み、考えさせられたことを共有させてもらいました。

本書では2030年に向けた7つのトレンドが紹介され、広告業界が今後どのようなビジネスモデルに転換し、どう対応すべきかが広く議論されています。

広告業界の未来に興味がある方におすすめの1冊です。よかったらぜひ読んでみてください!



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。