今回のテーマはお客さんへの価値をつくる方法です。
東京銭湯ふ動産の 「風呂なし物件」 の事例から、マーケティングの興味深い側面を学んでいきたいと思います。一見すると風呂なし物件は魅力に欠けるように思えますが、どのように価値を再定義し、お客さんに魅力を伝えているのでしょうか?
一緒に学んでいきましょう!
✓ わかること
- 風呂なし物件が密かに人気
- 風呂なしのメリットとデメリット、居住者の特徴
- 価値をつくる方法
- マーケターの役割とは
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
風呂なし物件が人気
出典: 東洋経済オンライン
家にお風呂がない 「風呂なし物件」 が密かに人気を呼んでいるとのことです。
銭湯のある暮らしを提案
ご紹介したいのは不動産情報サイト 「東京銭湯ふ動産」 の事例です。風呂なし物件のみを扱っているユニークな不動産情報サイトです。
東京銭湯ふ動産を運営する東京銭湯 (東京都渋谷区) は、若年層をターゲットに銭湯業界の活性化に取り組んでおり、Web メディア 「東京銭湯 -TOKYO SENTO-」 を通じて銭湯の魅力を発信している。
東京銭湯ふ動産では、風呂なし物件と 「銭湯まで徒歩0分物件」 の情報を掲載。全ての物件情報には 「最寄り銭湯までの距離」 が記載されており、各銭湯の価格やサービス、風呂の数などを詳しく紹介している。物件情報よりも銭湯情報の方が多いのでは? と思うくらい、銭湯の情報が豊富なのが特徴だ。
風呂なし物件 (出典: ITmedia)
サイトでは物件と一緒に銭湯の写真も紹介している (出典: ITmedia)
お風呂がない物件は不便な印象がありますが、風呂なし物件の人気の理由はどこにあるのでしょうか?
風呂なし物件のメリット
先ほどの記事には風呂なし物件の特徴とメリットは次のように書かれていました。
東京銭湯ふ動産では、最低でも徒歩15分圏内に1 ~ 2軒銭湯がある物件を扱う。風呂なし物件は大きく分けて (1) トイレ・玄関共用で4畳半の 「寮」 のような物件 (2) トイレ付きで6畳 + キッチン2畳程度の 1K の物件 ―― の2パターンあるらしい。都内では早稲田などの大学があるエリアや渋谷区、目黒区、京王線沿いに風呂なし物件が多いという。
風呂なし物件のメリットは 「家賃が安いこと」 。首都圏の場合は、相場の半額程度で住むことができる。「例えば、渋谷に住みたいけれど7万 ~ 8万円は出せない場合、風呂なしであれば3万円程度で住むことができます。1カ月の銭湯代金1万5000円 (500円 × 30日) ) は追加でかかりますが、それでも合計4万5000円とかなり破格です」 ( 「東京銭湯ふ動産」 の運営を担当する鹿島奈津子さん)
デメリット
もちろんメリットだけではなく風呂なし物件にはデメリットもあります。
風呂なし物件のデメリットは 「風呂に入りたいときに、すぐ入れないこと」 だという。銭湯は利用できる時間が限られているため、飲み会や残業があるとお風呂に入れないということも。
(中略)
風呂なしと聞くと、「すごく古そう」 という印象もある。築年数もデメリットになるのではないか。
「風呂なし物件はやはり古く、1965 ~ 1980年に立てられた物件が多いですね。居住者の方は、この『古さ』を好む方が多い傾向があります。最近の真っ白で、つるんとした味気ない印象の物件ではなく、木造で、畳やふすまがある『レトロ』な雰囲気を好む方も多くいらっしゃいます」 (鹿島さん)
居住者の特徴
風呂なし物件はどのような人たちに人気があるかと言うと、
居住者は24時間営業のフィットネスに加入している人が多く、会社の近くのジムでシャワーだけ浴びて帰宅する人も多いそうだ。7000円程度で入会できるフィットネスも多いため、銭湯とフィットネスをうまく使い分ける人もいる。
(中略)
風呂なし物件に住む人の多くは独身の20 ~ 30代。社会人が7割、学生が3割程度だという。女性の居住者も多く、約 40% に上る。銭湯のすぐそばの物件に住んだり、自転車で銭湯に通う人が多い。
風呂なし物件に住む人は、ミニマリストや、フリーランスが多いという。また、「固定費を削って別の部分にお金を使いたい」 と考える人も多い。
「風呂なし物件と聞くと『若い人の貧困が原因だ』などという意見が集まります。しかし、実際に内見、契約をされるお客さまで『お金がなくて風呂なししか選べない』という人はほとんどいないように感じています」
「『どこにお金をかけるか』をきちんと考えている人が多いですね。お金の使い方を考える中で、固定費の見直しをする人が増えているようです。その過程で、風呂なし物件は新たな選択肢として注目を集めています。」
「『7万円払って風呂付きの物件に住んでいたが、2年間シャワーのみで1度も風呂を使用しなかった』という人が、4万円で風呂なし物件に住めば、1万5000円の銭湯代を引いても1万5000円浮きます。実際の居住者の方は、浮いたお金を株や投資に回す方も多くいらっしゃいます」 (鹿島さん)
前半のまとめ
では一度ここまでをまとめます。
- 東京銭湯ふ動産は最寄り銭湯まで徒歩0分の風呂なし物件を扱う不動産情報サイト。銭湯業界の活性化を目指し、若年層に向けた発信を行っている
- 風呂なし物件は家賃が安く、木造で畳やふすまがあるレトロな雰囲気がある
- 風呂なし物件の居住者はミニマリストやフリーランス、固定費削減を考える人たち。社会人と学生が 7 : 3 の割合で、男性ばかりではなく4割は女性。住民の多くは、削減した固定費を投資にまわすなどお金を使うメリハリを大切にしたいと考えている
学べること
では風呂なし物件を扱う東京銭湯ふ動産の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
価値のつくり方
学びとしたいのは、東京銭湯ふ動産が切り口を変えて価値をつくり出していることです。
✓ 価値の見せ方
- 風呂なし生活ではなく 「銭湯のある暮らし」 ができる物件
- 築年数が古い家に住むことを 「レトロな生活」 と捉える
✓ 具体的なメリットの共有
- 家賃が安い (例: 相場の半分)
- 無駄になっていた固定費を削れる
- 浮いたお金は投資などの違うものに使える
- 風呂の掃除をしなくていい
風呂なし物件の良さを捉え直し価値を見出し、利用者にとって住む意味合いを伝えているのです。
マーケターの役割
マーケティングとはお客さんから選ばれる理由をつくることです。
東京銭湯ふ動産がやっていることをマーケティング視点で捉えれば、風呂なし物件が選ばれる理由をつくっています。
選ばれるのはお客さんにとって価値があるからです。マーケターの役割はお客さんがまだ気づいていない側面に光を当てて価値をつくり出し、価値をしっかりと伝えることです。お客さんを理解し、お客さんの文脈に沿った意味やベネフィットを提案するのがマーケティングです。
同じものでも切り口を変え、お客さんが知らなかった魅力を伝えることで価値が生まれるのです。
まとめ
今回は風呂なし物件のみを扱う東京銭湯ふ動産を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ 価値のつくり方と伝え方
- マーケティングとはお客さんから選ばれる理由をつくること
- 同じものでも切り口を変え、お客さんが知らなかった魅力を伝えることで価値が生まれる
- 気づいてもらうのを待つのではなく、売り手が相手の文脈で価値をしっかりと提案し、お客さんが買う意味を伝えよう
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