投稿日 2023/05/22

スギ HD のデジタル台帳。マーケティング近視眼にならない存在意義を再定義する方法

#マーケティング #存在意義 #提供価値


あなたのビジネスは、本当にお客さんが求めるものを提供できていますか?また、そのビジネスの存在意義は何でしょうか?

多くの企業がモノやサービスを売ることに重点を置きすぎるあまり、お客さんの本当の望みや企業自身の存在意義を見失ってしまうことがあります。

今回は、スギ HD の事例から 「マーケティング近視眼」 に陥らず、事業の存在意義を高い次元から再定義するヒントを見つけにいきます。一緒に新たな視点を探求し、学びをビジネスに活かしてみませんか?

スギの取り組み


スギ HD が健康状態や生活習慣に合わせた販促に力を入れています。

健康状態や生活習慣に合わせた販促


スギ HD がどのような取り組みをしているのかを具体的に見てみましょう。

スギ HD は店舗のポイントをためたりクーポンを利用したりできる 「スギ薬局アプリ」 と、健康管理アプリ 「スギサポ」 の2種類のアプリを展開している。23年1月から店舗アプリの利用者に健康管理アプリの ID 登録を必須にしている。

 (中略) 

健康管理アプリのスギサポのシリーズには、日々の歩数や消費カロリーを自動で記録する 「スギサポ walk」 、食事内容や体重、基礎代謝を記録する 「スギサポ eats」 などがある。シリーズ全体で230万回以上、ダウンロードされた。スギ薬局の店舗で使えるポイントももらえる。

健康に関するアンケートをアプリで実施したり、食事の写真から人工知能 (AI) がカロリーや栄養素を解析するなど、機能を追加してきた。

データ活用からの価値提供


スギ HD が目指しているのはお客さん1人ひとりに合わせた商品やサービスの提案です。データ活用から今まで以上の価値提供を狙っています。

スギ HD は健康管理アプリで計測したデータと店舗アプリの購買データを個々の客ごとに一括で管理することを目指す。健康状態や関心をもとに最適な商品のクーポンを配信するなど販促に生かす。スギ HD の杉浦伸哉取締役は 「24年2月期中に試験運用を始めたい」 と力を込める。

 (中略) 

杉浦氏は狙いについて 「目指しているのは一人ひとりに最適な商品を提供する 1on1 (ワンオンワン) マーケティングだ」 と話す。店頭での接客データを販促につなげることも検討している。まずは化粧品部門でどのようなサンプルを試したか、どのような要望があったかを記録する台帳をデジタル化し、スギ薬局アプリでの販促に生かす。

調剤部門で処方した薬歴や、管理栄養士が受けた相談内容も記録する方針だ。杉浦氏は 「まだ構想の段階だが、健康の一元管理ができる顧客とのデジタルコミュニケーション台帳をつくりたい」 という。
出典: 日経


学べること


ではスギ HD の取り組みから学べることを掘り下げていきましょう。

マーケティング近視眼


スギ HD の取り組みでつながるのはセオドア・レビットの 「マーケティング近視眼」 です。マーケティング近視眼は1960年にセオドア・レビットが提唱した概念です。

マーケティング近視眼とは、現状の製品ばかりで、お客さんから本当に求められていること、お客さんへの提供価値が何かが見えていない状態です。視野が狭く事業定義の視点が商品の販売のみで、お客さんにとっての価値を考えてない状況を指します。

マーケティング近視眼の例で出てくるのが鉄道会社なのですが、昔はアメリカでの人や物の移動手段には鉄道が使われていました。しかしその後は自動車や航空機が発達し、鉄道に取って代わっていきました。

鉄道会社はあくまで鉄道という手段にこだわり、お客さんの移動ニーズを捉えられなくなりました。後発の会社が自動車の輸送会社や飛行機の航空会社として成長し、一方の鉄道会社は衰退していったのです。

鉄道会社は自社の事業定義を 「鉄道事業」 と捉え続けました。もし 「総合的な輸送事業」 と存在意義を設定していたら、鉄道会社は違う未来を築いたかもしれません。

この鉄道会社の話が 「マーケティング近視眼」 の説明として用いられ、セオドア・レビットは 「顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまった」 と指摘しています。

鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客をほかへ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的とせず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。

because they assumed themselves to be in the railroad business rather than in the transportation business. The reason they defined their industry incorrectly was that they were railroad oriented instead of transportation oriented; they were product oriented instead of customer oriented.
Marketing Myopia, HBR, July-August 1960

高い次元での存在意義


ドラッグストアのビジネスは一般的には処方箋の薬の調剤、一般薬、食品や日用品の販売です。

スギ HD はより高い次元に立ち、生活者の健康まわりを全てサポートすることを存在意義として再定義しました。具体的な打ち手が例えば健康管理アプリの提供です。

目指しているのは生活者の QOL を向上するための価値提供です。医薬品や日用品の販売はそのための1つにすぎません。

自分たちを取り巻く環境は常に変わります。今の認識している事業定義や存在意義は確かに設定した当時は良かったかもしれませんが、これからも同じであるとは限りません。変化に合わせて存在意義を問い直すことが必要です。

自分たちの存在意義は何か。既存のカテゴリーや市場、業務内容の範囲や視座にとらわれず、高い次元から存在意義を見つめ直してみよう。今回お伝えしたいメッセージです。


まとめ


今回はスギ HD のデジタルコミュニケーション台帳の取り組みをご紹介し、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ マーケティング近視眼にならないために
  • マーケティング近視眼とは、現状の製品ばかりでお客さんや本当に求められていること、提供価値が何かが見えていない状態
  • 今の事業定義や存在意義が将来も同じとは限らない。環境変化に合わせて、既存の参入市場や業務内容にとらわれず存在意義は何かを高い次元から見つめ直してみよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。