投稿日 2023/05/30

マーケティング近視眼を克服!東京メトロの e スポーツ教室から学ぶ視座を高める方法

#提供価値 #マーケティング近視眼 #存在意義


あなたは今、ビジネスのどの部分に焦点を当てていますか?自社の商品やサービスの品質向上?それとも売上げの増大?

もちろんこれらは重要な要素ですが、それだけに縛られていると 「マーケティング近視眼」 という罠に陥る可能性があります。

今回は東京メトロの事例から、自社の存在意義を高い次元から再定義し、変化する環境に対応する方法を掘り下げていきます。これはビジネスに新たな成長のチャンスをもたらすはずです。ぜひ一緒に学んでいきましょう!

東京メトロの非鉄道ビジネス


出典: IGN Japan

地上で稼ぐ


東京メトロが非鉄道分野の事業を拡大しています。

e スポーツのトレーニングジムやロボットのプログラミング教室です。

東京地下鉄 (東京メトロ) が非鉄道分野の事業拡大に乗り出している。沿線近辺の空きビルなどを活用し、ゲーム対戦競技 「e スポーツ」 のトレーニングジムやロボットのプログラミング教室をオープン。新型コロナウイルス禍で移動需要が目減りする中、業界の殻を破った戦略を相次ぎ打ち出し、新たな収益源に育てている。

 「そうそう、その調子で前に出よう」 「もう少し上に向けて撃ってみようか」 

2022年1月の平日の夕方、南北線赤羽岩淵駅 (東京・北) のすぐ横にあるガラス張りの施設を訪れると、モニター画面の前に座って人気の射撃対戦ゲームに打ち込む小学生たちと、操作を見守りながら助言するインストラクターの姿があった。

ここは日本でまだ珍しい e スポーツ専用のトレーニングジム。東京メトロとスタートアップのゲシピ (同・千代田) が共同運営する。約50平方メートルのこぢんまりとした部屋には、専用のプレー設備12席が用意されている。2021年6月の開業以降、地元の住民たちが技を磨きにやって来る。

 「インストラクターが優しくコツを教えてくれる。家で練習するよりも楽しい」 。この日プレーしていた小学6年生の女の子 (12) は満足げな表情を浮かべていた。

事業拡大の狙い


東京メトロが鉄道以外の事業に拡大する狙いはどこにあるのでしょうか。

競技人口も増え続ける中で 「寺子屋のような小さいコミュニティー空間を作りたかった」 。東京メトロの新規事業推進担当、森井亮太氏はこう話す。

東京メトロがアピールするのは、「一見堅そうな鉄道会社ならではの安心感」 (森井氏) だ。ジムの室内は落ち着いた雰囲気の空間で、利用者の約6割を小中学生が占める。プロの e スポーツ選手を招いたイベントや、ゲームを題材にしたオンラインの英会話コースも用意する。森井氏は 「e スポーツを教育の手段にしたい」 と強調する。

たとえば、ゲームに熱中するあまり 「くそ!」 「なんでうまくいかないんだよ!」 と大きな声を出したり、物に当たったりしてしまう子供は少なくない。e スポーツジムではそうした暴言などを吐かないようにインストラクターが指導。チームプレーの中で 「勝つためには自分がいま何をすべきか」 といった協調性を学べるという。

小学生の子供3人を e スポーツジムに通わせる女性 (40) は 「すぐにイライラしない耐性や競技マナー、負けたと思っても諦めない気持ちを身につけられる」 と語る。ジムにはインストラクターが常駐しているため、「不審な人とオンラインでつながるリスクが低い。子供たちだけでゲームをさせるよりも安心」 。

 (中略) 

小学2年生の息子をプログラボに通わせる東京都千代田区在住の女性は、プログラミング教室は各地にあるなかで、「鉄道会社の運営なので安心して任せられる」 と入校を決めた。

鉄道事業をやっている東京メトロが e スポーツトレーニングジム、プログラミング教育など畑違いに映るビジネスを展開しています。

しかし一見堅そうな鉄道会社ならではの安心感がベースになっていることで、子どもを持つ親には魅力的な習いごとになっています。


学べること


では東京メトロの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

東京メトロの取り組みでつながるのは 「マーケティング近視眼」 です。

マーケティング近視眼


マーケティング近視眼は1960年にセオドア・レビットが提唱した概念です。

マーケティング近視眼とは視野が狭く事業定義の視点が自社商品の販売のみで、お客さんにとっての価値や求められていることが見えていない状態です。

マーケティング近視眼の例で出てくるのが鉄道会社なのですが、昔はアメリカでの人や物の移動手段には鉄道が使われていました。しかしその後は自動車や航空機が発達し、鉄道に取って代わっていきました。

鉄道会社はあくまで鉄道という手段にこだわり、お客さんの移動ニーズを捉えられなくなりました。後発の会社が自動車の輸送会社や飛行機の航空会社として成長し、一方の鉄道会社は衰退していったのです。

鉄道会社は自社の事業定義を 「鉄道事業」 と捉え続けました。もし 「総合的な輸送事業」 と存在意義を設定していたら、鉄道会社は違う未来を築いたかもしれません。

この鉄道会社の話がマーケティング近視眼の説明として用いられ、セオドア・レビットは 「顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまった」 と指摘しています。

鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客をほかへ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的とせず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。

because they assumed themselves to be in the railroad business rather than in the transportation business. The reason they defined their industry incorrectly was that they were railroad oriented instead of transportation oriented; they were product oriented instead of customer oriented.
Marketing Myopia, HBR, July-August 1960

高い次元での存在意義


ここで話を東京メトロに戻します。地下鉄を走らせている東京メトロが e スポーツやプログラミングの教育ビジネスに参入するのは、一見すると流行りに乗っかっているだけに見えるかもしれません。

しかし高い次元に立つことで、社会インフラの鉄道事業のように子どもの心の成長や学びへの姿勢を高めるためにやっていると捉えることができます。鉄道会社ならではの安心感を提供する役割を社会に果たそうとしているわけです。

自分たちを取り巻く環境は常に変わります。今認識している事業定義や存在意義は確かに設定した当時は良かったかもしれませんが、これからも同じであるとは限りません。変化に合わせて存在意義を問い直すことが必要です。

自分たちの存在意義は何か。既存のカテゴリーや市場、業務内容の範囲や視座にとらわれず、高い次元から存在意義を見つめ直してみよう。今回お伝えしたいメッセージです。


まとめ


今回は、東京メトロの非鉄道ビジネスへの拡大事例から学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ マーケティング近視眼に陥らない方法
  • マーケティング近視眼とは視野が狭く事業定義の視点が自社商品の販売のみで、お客さんにとっての価値や求められていることが見えていない状態
  • 自分たちを取り巻く環境は常に変わる。変化に合わせて存在意義を問い直すことが必要
  • 既存の枠組みにとらわれず、自分たちの存在意義は何かを高い次元から見つめ直してみよう


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。