投稿日 2023/05/31

聖域のカレー粉 「赤缶」 がついに進化。変化を恐れず進化する方法

#マーケティング #ブランド拡張 #変化


伝統的な商品をどう変革し、新たな価値をいかに生み出すか。

時代の変化に対応しながらも、ブランドのアイデンティティを保つのは難しい課題です。しかしだからこそ、ブレイクスルーができれば大きなチャンスがあります。

今回はエスビー食品の赤缶カレー粉の事例から、その秘訣をぜひ一緒に探っていきましょう!

✓ わかること
  • エスビー食品の赤缶カレー粉のブランド拡張
  • ブランド拡張とは?
  • 聖域に切り込み生まれた新商品
  • 環境変化に取り残されない方法
  • 変えないことの見極め、全てを変える勇気

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

エスビー食品 「赤缶カレー粉」 の進化



聖域への挑戦


ご紹介したいのはエスビー食品の 「赤缶カレー粉」 のブランド拡張の事例です。

エスビー食品は2023年、創業100年を迎えた。2月には主力調味料 「赤缶カレー粉」 を使用した新商品を投入する。グループ会社を含めた社員から新商品案を公募し、約2年の開発期間をかけた。

これまで聖域だった 「赤缶」 のブランド拡張で、会社としても次のステージへと成長を図る。

ブランド拡張とは


ブランド拡張とは、今あるブランド (商品・サービス) を他のカテゴリーでの新商品に新しく活用することです。

既存のブランドの知名度や人気を活かせるので、ゼロから新たにブランドを立ち上げるよりも展開がしやすいです。

ただし注意点があります。

新しく出す商品・サービスと、もとのブランドイメージが違いすぎると、お客さんから見ればブランドの世界観に一貫性がなくなり、混乱を生んでしまいます。場合によっては今までのブランドイメージを毀損することにもつながりかねないのが、ブランド拡張の注意点です。

エスビー食品での背景


エスビー食品のブランド拡張の背景を見てみましょう。

創業100年に向けた新商品を開発しようと、同社初の公募をかけたのは20年12月。1カ月の応募期間で約600人の社員から865件もの商品案が集まった。カレー粉に関する応募が最も多く、中でも同社を代表する赤缶に焦点をあてたものが目立った。

1950年に発売した赤缶は同社を代表する商品だ。30種類以上のスパイスを焙煎・熟成し、カレーだけでなく料理に調味料として加えることで様々なレシピが楽しめる。一方で、社内ではどことなく 「伝統の味に手を出しづらい」 (同社) 雰囲気があった。

100年という数字は伝統の壁を打ち破った。

生まれた新商品


左: 赤缶カレー粉 // 中央: 新商品 「S&B 赤缶カレーパウダールウ」 // 右: 新商品 「カレー粉スティック」 (出典: エスビー食品

エスビー食品の創業100年に向けた社内公募から2つの商品が生まれました。

1つ目はスティックタイプの商品です。赤缶を使った 「カレー粉スティック」 です。色々とアレンジできるレシピを順次公開していくとのことです。

2つ目は 「赤缶カレーパウダールウ」 です。加熱する素材・しない素材に分け、2段階でスパイスを調合する独自の特許技術 「パウダールウ製法」 と赤缶を組み合わせた商品です。

赤缶カレーパウダールウについて、開発担当者の方が商品の魅力を次のように語っています。

やはり、「赤缶カレー粉」 ならではの香り立ちの良さではないでしょうか。単品のスパイスをミックスして作ったスパイスカレーは、少々角の立った風味になることが多いのですが、「赤缶」 はまとまりのあるいい香りが特徴です。スパイシーながら、家庭のカレーならではの懐かしさや安心感を持っていただける商品だと思います。

原料は、赤缶カレー粉を中心として、味わいを構成する主原料に国産素材をこだわって使用しています。小麦粉を使わないことで、より赤缶カレー粉の香り立ちの良い味わいが完成しました。香料・甘味料を使っていない、というところもポイントです。

 「赤缶」 定番の香り立ちを大事にしながら、「これまでにないカレー」 を生み出す、というところにいちばん苦労しましたが、結果、「これしかない!」 という商品が完成したと思っています。まずは、パッケージのレシピ通りにカレーを作って味わっていただきたいですね。

学べること


ではエスビー食品の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

ロングセラーを変える


2つの新商品は消費者視点では一見すると、元々の赤缶とそんなに変わったようには見えないかもしれません。しかし当事者からすると進化と言える新しい第一歩です。

1950年に発売されロングセラーだった赤缶カレー粉には、社内ではどことなく 「伝統の味に手を出しづらい」 雰囲気があったとのことでした。エスビー食品は創業100年の記念としてイベント化し広く公募することで、新しい商品につなげました。

事例を一般化すると、聖域とも言える事業や商品をどう進化させるかに学びがあります。

変わらないことのリスク


変わらない・変えないことにはリスクが伴い、生き残り続けるための不確実性が増します。

生活者環境は常に変わり、お客さんも変わり続けます。そんな中で作り手や売り手が変わらないままでは変化に取り残され、やがては衰退し生き残れません。

 「何を変えて、何を変えないのか」 は、ビジネスをやる以上は向き合い続ける必要がある問いです。

変えないことの見極め、全てを変える勇気


今回のエスビー食品の事例で思い出したのはある社長の言葉でした。

私が新卒で入った会社の当時の社長の話で、今も印象に残っている言葉です。

こんなことを言っていました。

 「変えないことを知っているから、全てを変えることができる」 

文だけを読めば矛盾しているように見えるかもしれません。しかし、この言葉の真意はまず変えないことを見極め、何を変えないかを知っているからそれ以外の全ては変えることができるという意味です。

環境変化に取り残されないための変化の重要性と、同時に 「変えないこと」 を持つことの大事さです。

ブランドのコアとなる商品への世界観やこだわり、込めたスピリッツのような軸は変えず、生活者環境やニーズに合わせて変えていく。今回お伝えしたいメッセージです。


まとめ


今回はエスビー食品の事例を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 変化を恐れず進化する方法
  • 生活者環境やお客さんは変わり続けるので、売り手も変わらないと生き残れず衰退する
  • 自ら変化するためには変えないことを見極め、それ以外は変えていくことが大事
  • 商品の世界観や込めた魂のような軸は変えず、生活者環境やニーズに合わせて変えていこう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。