投稿日 2023/07/20

ロートのフレグランス 「ベレアラボ」 。官能から機能性へのポジショニング変更で成功

#マーケティング #価値提案 #パーセプションチェンジ


香りは、私たちの身体や心にどのような影響を与えるのでしょうか?

ロート製薬が展開するフレグランスブランド 「ベレアラボ」 は、従来のフレグランス商品とは違ったアプローチで、ターゲット顧客を広げることに成功しました。

今回は、ベレアラボがいかにしてフレグランス市場に新風を巻き起こしているのかを見ていきます。ぜひ一緒に新しい価値提案の秘訣を学びませんか?

ロート製薬のフレグランス



ロート製薬といえば市販薬や化粧品のイメージが強いですが、ロート製薬はアロマやフレグランスの分野でも事業を展開しています。

その中でもフレグランスブランドの 「ベレアラボ」 が好調です。

ベレアラボは2019年にローンチし、「香りで空間と時間の質を変える」 をコンセプトに、これまでアロマオイルやフレグランススプレーを販売。23年2月21日には持ち運びタイプのアロマディフューザーを発売した。売り上げは好調で、22年度の販売実績は、21年度の約3倍に着地する予定だ。

ロート製薬がベレアラボを立ち上げた理由は2つあり、製薬会社として香りで心身をサポートできると考えたこと、日本のフレグランス市場にポテンシャルを感じたことにあります。

ベレアラボは日本人の感性に合った香りを開発し、嗜好品以外の用途を提案することで、これまでフレグランス商品に関心がなかった人にも手に取ってもらえるようになりました。


学べること


ではロート製薬の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

ターゲット顧客の設定


日本では香水やアロマは、官能的で情緒的なイメージが一般的です。

ロート製薬はベレアラボのターゲット顧客をビジネスパーソンに設定し、香りに機能性を付加することでポジショニングを変えることを狙いました。

見込み客への新しい価値提案


ロート製薬は香水の嗜好品以外の用途に着目しました。それが 「機能性」 です。

さらに香りに "機能性" を持たせて訴求した。「リラックスすることで仕事がはかどる」 「睡眠の質が向上する」 など、サッカーや e スポーツなどのアスリートを対象に検証を行い、その結果を学会やプレスリリースで発表することで、香りを嗅いだことによるベネフィットが伝わりやすいようにした。市場でもリラックスや睡眠効果をうたうフレグランス商品はあるものの、より説得力を持たせたわけだ。

一例として、e スポーツ選手に14日間、コントロールされた環境下で1日3時間、ゲーム『鉄拳7』の練習をしてもらい、練習空間にベレアラボのグリーンの香気構成成分がある状態の日とない状態の日を比較。すると被験者のうちの1人は、香りを嗅いでないときに比べて、嗅いだときのほうがデジタル疲労の回復率が4倍ほど高まった。また、香りを嗅いだことで、ビデオゲーム後の睡眠時間が延長。副交感神経活動が向上し、緊張度が低い状態で眠っていたという (21年3月に開催した日本感性工学会春季大会にて発表) 。

こうした研究結果は、スマホやパソコンなどデジタル疲労に悩む人にも訴求力がある。ベレアラボは、従来のフレグランス商品のような嗜好品としての側面だけでなく、機能面を押し出した販促方法を取ることで、ターゲット層を広げたといえる。冒頭の星代表の発言 (引用者注: 「これまで香水が苦手だった人ほど、当ブランドの商品に興味を持ってくれている。特に男性客からの反応が良く、私たちとしても驚いている」 という発言) の通り、男性客を取り込めたことも販売実績が好調な一因だ。

ベレアラボは、従来のフレグランス商品の嗜好品としてだけでなく、機能面を打ち出しました。

ロート製薬は、人々の香水に対する価値イメージを 「香りによって気分を変えたり色気を出すもの」 から、「心身を望ましい状態に変えてくれるもの」 へとシフトさせました。

これにより、べレアラボで香りから健康を支えるという新しい香水の価値が生まれたのです。

パーセプションチェンジ


今回のロート製薬のべレアラボの事例は、パーセプションチェンジ (知覚や認識の変化) の成功例です。

マーケティングの文脈では、商品やカテゴリーにどれだけ良い価値イメージを持ってもらうかが大事です。

今回の事例に当てはめると、香水を今までと同じように 「香りによって気分を変えたり色気を出しませんか?」 という提案ではターゲット顧客であるビジネスパーソンには興味は持たれずピンとこないでしょう。しかし、「心身を望ましい状態に変えてみませんか」 という価値イメージで香水を提案すれば心に響くわけです。

 「マーケティングとは商品をめぐる戦いではなく、パーセプション (価値イメージ) をめぐる戦いである」 という言葉があります。

マーケターの役割は、お客さんがまだ気づいていない商品の価値を見出し、魅力的だと思ってもらうような価値提案をすることです。たとえ扱う商品が変わらなくても、お客さんにとっての意味づけや価値を見出すことが重要なのです。


まとめ


今回はロート製薬のフレグランスブランド 「ベレアラボ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 新しい価値提案
  • ベレアラボはビジネスパーソンをターゲット顧客に設定。機能性を強調し、従来の嗜好品としての香水とは異なるアプローチをとった
  • お客さんへの価値として 「香りによる心身の健康支援」 という新しい提案した
  • マーケターの役割は、お客さんがまだ気づいていない商品の意味合いを見出し、魅力的だと思ってもらう価値をもらたすこと


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。