投稿日 2023/07/13

"中身が見える冷蔵庫" に学ぶ、本当に解くべき問題の捉え直しとマーケティング成功への道

#マーケティング #商品開発 #問題設定


冷蔵庫の中が一目瞭然な 「中身が見える冷蔵庫」 。その開発の裏には、予想外の課題と柔軟な発想の変更が隠されていました。

今回は、この冷蔵庫の開発事例から、マーケティングにおける課題設定の方法、柔軟性や創造力の重要性を探っていきます。あなたの仕事にもきっと活かせるマーケティングのおもしろさと魅力に触れてみませんか?

中身が見える冷蔵庫


出典: ITmedia


新潟県燕市の家電メーカー 「ツインバード」 が開発した 「中身が見える冷蔵庫 HR-EI35B」 は、ドアに触れると中が透けて見えるというユニークな冷蔵庫です。

従来のスマホアプリを使ったカメラ画像確認方式とは異なり、透明になるドアを採用して庫内全体が見通せます。

開発の経緯


この 「中身が見える冷蔵庫」 は、ムダな買い物や買い忘れを防ぐ目的で企画され、4年間の期間を経てできあがりました。

企画とデザインを担当した開発本部企画デザイン部の神成 (かんなり) 紘樹氏は、企画の経緯を次のように話す。

 「買い物の際、まだ冷蔵庫に残っているのに買ってしまったり、逆に買い忘れてしまったりすることがあります。外から中が見えればこうしたことは防げることから『中身が見える冷蔵庫』を企画しました」 

冷蔵庫が本来の機能を果たしていなかった


興味深かったのは、開発を進める中で 「そもそも冷蔵庫があるべき姿として機能していなかった」 という発見でした。

冷蔵庫は容量ごとに幅・高さ・奥行がほぼ決まっており、当初は標準的なサイズでつくろうとした。だが、中が見える仕様が実現できても、標準的なサイズでは庫内の上のほうが見えなかったり、奥にあるものが分からなかったりすることが懸念だった。

なぜこの懸念を抱いたのかというと、社員の冷蔵庫の中を見せてもらったり、写真に撮ってもらって使用状況を確認したりすると、決してキレイとは言えない状態だったからだ。神成氏の言葉を借りると 「冷蔵庫が食品を管理する箱として機能していなかった」 ――。

なぜ機能していなかったかと言うと、

その理由をユーザー観察とアンケートから探ったところ、最大の理由は冷蔵庫の高さと奥行にあるという結論に達した。棚の奥にいつ買ったのか分からない食品が入っていた、上の棚をまったく使うことができていない、といったケースが多々確認された。

こうして 「中身が見える冷蔵庫」 はサイズを見直し、より多くの人に使いやすいものに変更した。誰にでも使いやすいサイズにすれば中身が見える機能がなくても付加価値が高いことから、同社は 「中身が見える冷蔵庫」 と同サイズで 「背伸びせず使える冷蔵庫」 もつくることにした。

前半のまとめ


では一度ここまでをまとめておきますね。

  • 家電メーカー 「ツインバード」 が開発した 「中身が見える冷蔵庫」 は、透明になるドアが採用され庫内全体が見通せる冷蔵庫。ムダな買い物や買い忘れを防ぐ目的で開発された

  • 開発の過程で、冷蔵庫が食品を管理する箱として機能していないことを発見した。理由は冷蔵庫の高さと奥行にあった

  • この発見を受けて 「中身が見える冷蔵庫」 のサイズから見直し、誰にでも使いやすい形状に変更。さらに 「背伸びせず使える冷蔵庫」 も別で開発された


学べること


では 「中身が見える冷蔵庫」 の開発事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

開発課題の進化


もともとの 「中身が見える冷蔵庫」 の開発の課題は 「どうやって冷蔵庫の中を見えるようにするか」 でした。

しかし開発を進める中で、単に中が見えるようにするだけでは意味がないことに気づきました。生活者の冷蔵庫を調査すると、本来の冷蔵庫の役割である食料の冷蔵や保管がうまく機能していない状態でした。

そこで開発チームは課題設定を変えました。 冷蔵庫の中が見えるようにするだけではなく、使いやすい冷蔵庫の設計にも焦点を当てるようにしたのです。

解くべき問題を捉え直す重要性


この事例から学びを一般的すると、解くべき問題を捉え直す重要性です。

与えられた問題をそのまま受け入れるのではなく、本当に正しい問題設定なのかに立ち返ることが大事です。健全な批判的精神を持つことで問題を捉え直すことができ、より良い解決策につながります。

中身が見える冷蔵庫の開発では、課題設定を見直したことでより良い冷蔵庫が生まれました。もし最初の課題設定である 「中身を見えること」 だけにとどまっていたなら、冷蔵庫の構造的な使いにくさは改善されず、生活者の 「台所の不」 は残ったままだったでしょう。

本当に解くべき問題をあらためて捉え直すことで、お客さんや生活者がはっきりと意識していないが本質的な問題の解決につながります。イシューを見直すことでより効果的な商品やサービスの開発が可能となり、お客さんにとって魅力的な価値をつくることができます。

マーケティングにおける柔軟性と創造力


今回の話は、柔軟性と創造力がいかに大事であるかを示しています。

ツインバードの冷蔵庫の開発チームは途中で課題設定を変更する柔軟性を持ち、新たな解決策を見出しました。

私たちが学べる教訓は、解くべき問題の再定義、課題設定の見直し、そして柔軟性と創造力の重要性です。

どんなプロジェクトやタスクに取り組む際も常に批判的な視点を持ち、適切な問題設定をする努力や労力を惜しまないことが大切です。これが、マーケティングでも成功するためのカギとなるでしょう。


まとめ


今回は 「中身の見える冷蔵庫」 の開発事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 的確な問題設定からの価値創出
  • 与えられた問題をそのまま受け入れるのでは十分ではない。本当に正しい問題設定なのかに立ち返ることが、より良い解決策につながる
  • 健全な批判的な視点を持ち、本当に解くべき問題は何かを見極めることが大事


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。