投稿日 2023/07/29

JINS のずれにくいメガネ。新しい価値提案からの勝ち筋のつくり方

#マーケティング #価値提案 #パーセプションチェンジ


今回は、 顔を下に向けてもずれにくい JINS のメガネを取り上げ、マーケティングの舞台裏を探求します。

どのようにして、JINS は消費者の価値イメージをアップデートし、競争ルールを変えようとしているのでしょうか?

ぜひ一緒に学んでいきましょう!

下を向いてもずれにくいメガネ


悩み解決型のメガネがシニア層に人気を集めています。

農作業や介護で下を向いてもずれにくい――。眼鏡を使う時間が長いシニア層に 「悩み解決型」 の眼鏡が売れている。

眼鏡専門店 「JINS」 を運営するジンズホールディングス (HD) ではフィット感を自己調節できるなど、機能性の高いフレーム眼鏡が人気を集める。眼鏡生活で生まれる悩みに応える機能が求められている。例えばジンズホールディングスが運営する眼鏡専門店 「JINS」 のフレーム眼鏡が売れ筋となっている。

農作業をしているある男性は、次のように言っています。

 「これじゃないとだめなんだ」 。東北地方にある店舗で接客をしたジンズの女性店員は年配の男性客の話を聞いて驚いた。

男性がリピート買いするのは約3年前に発売した 「ライトウェイト クイックフィット」 。フレームの耳元部分をカチカチと折り曲げて調節すると、曲がり具合が深くなり固定できる眼鏡だ。男性は農家を営んでおり 「1日の多くをかがんだ状態で過ごす。ずれ落ちなくて便利だ」 。東北の他店舗でも同じく買い求める農家の年配客がいたという。

学べること


では JINS のずれにくいメガネの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

価値イメージのアップデート


マーケティングの観点で捉えると、JINS がやったことは消費者からの 「メガネへの価値イメージ」 のアップデートです。

従来のメガネで重視されていたのは近視や遠視、乱視を矯正してくれること、見た目がおしゃれやかわいいなどでした。一方で、長く顔を下に向けている状態だとメガネがずれてしまうことは解消がされないままだったわけです。

JINS はここにビジネスチャンスを見出しました。

人々からの価値イメージとして 「 (自分にとって) 良いメガネとはどんな時もずれないもの」 を新しく加えたのです。

新しい良い商品の定義


今までになかった新しい価値を知ったり実際に体験をすると、そのカテゴリーにおける 「良い商品」 の定義が変わります。少し大げさな表現をすればカテゴリー内や市場での 「地殻変動」 が起こるわけです。

ここで言う地殻変動とは新しい価値の提供によって、消費者からの商品を見る視点や買う基準 (選ぶ理由) が変わることを指します。それまでの基準で買われていたものとは異なる商品・サービスが選ばれるようになるわけです。

メガネに当てはめれば、新しく 「どんな体勢でもずれないメガネ」 という切り口 (良い商品の定義) が生まれました。人々の認識や知覚が変わり、「良い商品とは何か」 の定義が変わったのです。

競争ルールを変える


良い商品の定義が変わるとは、そのカテゴリーや市場の中での 「競争ルール」 が変わるということです。

競争とは自社と競合他社における 「お客さんから選ばれる争い」 です。競争ルールは選ばれるための前提や制約、選ばれる理由と見ることができます。

今回の JINS のメガネの事例とつなげると、今までにはなかった 「どんな姿勢でも決してずれないメガネ」 というメガネが提案され、買うなら 「ずれずに快適にかけ続けられるメガネ」 という新しい選ぶ理由が生まれたのです。

マーケティングからの価値提案


ところで、売れるもマーケ 当たるもマーケ - マーケティング 22 の法則 という本に次のようなことが書かれています。

Marketing is not a battle of products, it's a battle of perceptions.
マーケティングは商品の戦いではなく、パーセプションをめぐる戦いである。


パーセプションは日本語では知覚や認識を意味します。今回の文脈に当てはめれば 「価値イメージ」 です。マーケティングとは商品やサービスに 「どんな価値のイメージを持ってもらうか」 をめぐる戦いであると。

パーセプションは価値提案によってつくられます。

単に商品の機能的な特徴を説明するのではなく、商品がお客さんにとってどんな意味や価値があるかをお客さん目線で伝えることが大事です。お客さんの文脈に寄り添い、価値があると思ってもらえることで、商品がようやく自分ごととして捉えてもらえるわけです。

学びを一般化すると、商品そのものは変わらない・変えられなくても、マーケティングの役割はお客さんからの自社商品・サービスへの価値イメージを変え、お客さんから選ばれる状態にすることです。


まとめ


今回は JINS のメガネの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 新しい価値提案からの勝ち筋

  • 新しい視点を提示することで消費者の価値観に影響し、新しい価値イメージが生まれる

  • 消費者にとっての 「良い商品の定義」 が変わり、そのカテゴリーでの商品選びの基準が変わる。そのカテゴリーや市場の競争ルールが変化する

  • マーケティングの役割は、お客さんからの価値イメージを変えて自分たちが選ばれる状態にすること


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。